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四十話 ディキャンプ3


 四十話 ディキャンプ3



 テントには、寅之助とトビ、睦美とカトリーヌが寝ることになり、忍は太い木の枝に蓑虫の蓑のような“蓑虫バック“をぶら下げグフグフと不気味に笑っている。

 キャンプ場で遅くまで騒ぐのはマナー違反である。月夜たちもホロ酔い状態で切り上げ、静かに後片付けを始めた。下を覗くと高校生カップルのテントに仄かな灯りが見える。今頃二人でいろいろ語り合っているのかと思うと初々しくて、こちらまで幸せな気分になってくる。


「ああいう年の頃の思い出って一生の宝になるからね いろいろ経験しておけば将来何があっても乗り越えていける力になる 幸せな思い出があればあるほどね 」


「私は家が厳しかったから楽しい思い出少ないかも あの高校生が羨ましいな 」


「でも、そのお陰で今の睦美さんがあるわけだから良い経験を積んできたのだと思いますよ 今の睦美さんを見ていれば分かります 私なんか修行の記憶しかありませんから 」


「ははっ、それは僕も同じだね まあ、それもいい思い出だけどね さて、そろそろ寝るとするか 火の始末は気を付けて 」


 月夜は先に寝てしまうに限ると、さっさと一人で“蓑虫バック“に潜り込む。そして、本当にスヤスヤと寝入ってしまったが、ごそごそした動きで目を覚ました。どうやら、忍が“蓑虫バック“に潜り込んできたようだ。


「ちょっ、忍くん どこ触ってるんだ 」


 しかし、忍は無言で体をピタリと着け、手で月夜の体を刺激してくる。


「うっ、これは…… 」


 さらに忍は太ももで挟み付けてきた。


・・・いかん、これは“くノ一“の技 忍くんが一流の“くノ一“だと忘れていた ・・・


 月夜は抵抗しようとするが、すでに忍の術中に嵌まっている月夜に逃れる術はなかった。


・・・いけない このままだと堕ちる ・・・


 月夜は封じてきた禁術を使う決心をする。


・・・秘技・くノ一殺し くらえ忍くん ・・・


「あ、あ、あーん 」


 今まで無言だった忍から声が漏れる。よし、と月夜はさらに勢い付いた。


「それ、それ、それ 」


「あ、あ、あ、あ、あー 」


 しかし、忍もさらに強く太ももで締め付け指が妖しく動き回る。二人の激しい攻防が続き“蓑虫バック“は激しくぶらぶらと揺れていた。


「面白そうです 私も交ぜてください 」


 いきなり気配を感じ、ぎょっとする月夜と忍を無視してカトリーヌが無理矢理“蓑虫バック“に入ってきた。


「うわっ、3人は無理ですよぉ 入れません 」


 グイグイと頭から無理に入ってきたカトリーヌは途中で動けなくなっていた。


「困りましたね 」


・・・困っているのはこっちだ・です ・・・


 月夜と忍がカトリーヌに突っ込んだ時、んっと3人の顔つきが変わった。


・・・やはり、来ましたね ・・・


 すでにキャンプ場内はポツンポツンと設置されている常夜灯以外夜に沈み寝静まっている。キャンプ場内を流れる渓流の静かな音が気持ちよく響いていた。そのキャンプ場の離れた駐車場に黒塗りのワンボックス車が数台停まり、中からぞろぞろと柄の悪い男たち降りてくる。


「いいか、あの舐めたまねをした奴ら拐ってこい きっちり始末してやる 」


 手首に包帯を巻いた男が凶悪な顔で男たちに命令する。


「ついでに、あの若い女学生も拐って来いや 男は面倒なら始末していい 」


 男たちは頷くと、手にナイフや特殊警棒を持ち歩き出そうとしたが、突然それまで見えていた景色が消え暗闇が包み込んでいく。


「なんだこれ? 何も見えねえ 」


「忍術“暗闇“ 僕たちを襲うのはいいが、あのカップルを襲うのは許せませんね もう、あなたたちには生きている価値がない 」


「ここで始末してあげますね 」


「フシュー 」


 まるで数十人に囲まれているように、男たちの周囲から声がする。もちろん、月夜たちの空蝉の術であるが、男たちにはそれが分かる筈もなかった。


「ククク 本当にずいぶん舐められたものだ 俺たちが闇の世界の人間だと分かっているのか? お前らを殺す事など何とも思わない連中だ 後悔しても、もう遅いぞ!! 」


「しーっ、大声出すのは止めて貰えますか 皆さん起きてしまいますよ そういうマナーも分からないとは常識がないにも程があります 」


 忍の声がする位置へ間髪入れず男の一人が拳銃の引き金を引く。


プシュッ! プシュッ!


 消音器を装備した拳銃から弾丸が何発か撃ち出されるが、それは何者にも当たらず背後の森の中に突き抜けていった。


「舐めているのは、あなたたちですね 闇の世界ですか、そんな世界があるのですか 全然楽しくなさそうですが、あなたたちみたいな馬鹿ばかりの世界なのですかね それにそういう言い方をするなら僕らは光すら届かない漆黒の住人です あなたたちを始末するのは造作もないですよ 」


 今度は月夜の声に向かって拳銃を発砲しようとするが、男たちは何かに縛られているようで動くことが出来なくなっていた。


「あらあら、私の蜘蛛の糸で縛られている事に気が付かないのですか 」


「くっ、なんだこれは ふざけるなっ! 」


 男たちは体の自由を奪われ騒ぎ出す。


「静かにして下さいと言った筈ですが 他の方が起きてしまいますよ せっかくの思い出に残るキャンプの夜を壊さないでください 」


 忍の言葉のあとに、騒いでいた男たちが静まり返る。


「な、なんだ どうしたんだ? 」


「煩いので静かになってもらったんですよ 」


 ゾッとする忍の冷たい声に、ようやく男たちは触れてはいけないものに触れてしまったのではと気付くが、後の祭りであった。


「後はカトリーヌさんにお任せして宜しいですか? 」


「はい、この闇の中ならば私も外に出て宜しいですかね 」


「かまいませんよ カトリーヌくん 彼らも見たがっていたので最後にその姿を見られて嬉しいでしょう 」


 しばらくの間、声にならない悲鳴が辺り一面から発せられるが、どんどん静かになっていく。


「なんだ? 何が起こっているんだ? 」


 最後に残った手首に包帯を巻いた男の眼前に異様な者が現れる。顔に単眼が幾つも付き角の生えた異様な生き物。俗に鬼と呼ばれる者の一族だ。その中でも更に珍しい土蜘蛛と呼ばれる鬼であった。


「そんな 嘘だろ 」


 男は恐怖で身をすくませるが、男の体は巨大な上顎で押し潰され胃液が浴びせられ溶かされていく。そして、どろどろになった男の体は跡形もなく吸い取られていった。



 * * *



「おはようございます 」


 水場で顔を洗っている睦美に愛が元気よく挨拶した。


「おはよう 大丈夫 よく眠れた? 」


「はい、おかげさまでぐっすり 」


「そう 良かった 私はあの馬鹿たちのお陰で寝不足だわ 」


 睦美は、睦美のテントの上でまだぶらぶらと揺れている“蓑虫バック“を指差して憎々しげに呟いた。


「な、なんですか、あれ? 」


「高校生は知らなくていいの それより、愛ちゃんたちが帰る前に、また少し自転車貸してくれないかな このままじゃ、昔、自転車むっちゃんと言われた名がすたる 」


「もちろん、いいですよ 」


「よーし、リベンジだぁ 」


「リベンジじゃなくてチャレンジだろ 自転車に復讐してどうすんだ 」


 顔を洗いに来た寅之助に言われ、睦美はぷぅと膨れる。その顔を見て愛は笑いだした。それにつられ、睦美も寅之助も笑いだす。清々しい空気に包まれた早朝のキャンプ場に楽しげな笑い声が響いていた。




 


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