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三十九話 ディキャンプ2


 三十九話 ディキャンプ2



 月夜たちは自然の中でコーヒーを飲みながら寛いでいた。すると、カレーのいい匂いが漂ってくる。


「みなさん、そろそろ食事が出来ますよ 」


 飯盒と鍋番をしていたカトリーヌから声がかかる。


「ごめんな、カトリーヌ 一人で鍋番させて 」


「構いませんよ、トビ様 私はコーヒーを飲めませんから 」


 トビに続き、残りの面々もワイワイと集まってくる。逆さにして蒸らしてあった飯盒からご飯を取り出し寅之助が歓声をあげた。


「うまい具合に焦げ目がついてる 最高じゃん 」


「お焦げかぁ そういえば美味しいんだよね 」


 睦美も嬉しそうにみんなのお皿にご飯をよそっていく。それにカトリーヌが鍋からカレーをかけていった。


「いただきまーす 」


 それぞれ思い思いの場所に腰掛けカレーを口に運ぶ。爽やかな風が吹き、渓流のサラサラと流れる音が静かに聞こえ至福のひとときだった。


「ほら、ここは俺たちが使うからお前らはどけろ!! 」


 少し下のサイトから何やら不穏な会話が聞こえてくる。見ると若い高校生くらいのカップルが数人の厳つい男に囲まれていた。


「ああ、お嬢ちゃんはいていいよ 俺たちと楽しもうか 」


 下卑た口調で詰め寄られカップルは固まって震えている。忍が目で月夜に合図したが、その時にはもうカトリーヌの姿が消えていた。


「あなたたちのような人がキャンプに来られては迷惑千万ですね 」


 カトリーヌがいつの間にかカップルの前に立ち、つぶらな瞳で男たちを見回す。


「なんだ、このふざけた奴は? 中の奴、引っ張り出して海にでも沈めてやれ 」


 男たちの中で一際凶悪な人相の男が、他の男に命令する。


「なるほど、あなたたちはそういう事を平気でする人達なんですね 」


「分かったら、さっさとそのふざけた着ぐるみ脱げや 素直にすれば苦しまずに殺してやるよ 」


「脱いでもいいですが、とんでもないことになりますよ 」


「はぁ? 何言ってんだ さっさとしろ 」


「ちょっと待って下さいよ その()の言ってる事は本当なので脱がすのは勘弁して貰えませんか 」


 月夜と忍もカップルの前に立ち、男たちを観察する。


「おっ、いい女が来た じゃあ、その女に相手してもらおうか 」


 男がナイフを片手に凄むが、忍は頬を赤く染めていた。


「チーフ 私、いい女だそうです ストレートに言われるのもいいものですね 」


「僕は忍くんにいつも可愛いと言っていると思うけど 」


「第三者から言われるのも良いんですよ 」


 まるで緊張感のない月夜と忍に、男たちは苛立ってきていた。


「ずいぶん舐めた態度とってくれてるが、あんたらもう生きていられないわ 」


 先程の凶悪な人相の男が拳銃を構えて月夜と忍を睨み付ける。その表情から、この男が脅しで言っているのではない事が感じられた。


「それは困るな カトリーヌくんの作ってくれたカレー、まだ食べたいし 」


 月夜がカトリーヌを見ると、カトリーヌも嬉しそうにつぶらな瞳で月夜を見返した。


「それが舐めてるというんだよ 」


 男は何の躊躇もなしに引き金を引いていた。月夜の胸から血が噴き出し倒れる筈だった。しかし、月夜は何事もないように立っている。


「どういう事だ 」


 男は拳銃が不発だったのかと自分の右手を見て驚愕する。そこにはある筈の自分の手首から先が無かった。


「ひやぁぁーー!! 」


 絶叫する男の足元に拳銃を握ったままの男の手が落ちていた。


「早く、早く病院だ 早くしろぉ!! 」


 男たちは落ちていた手首を拾うと転がるように車に乗り込み猛然と走り去っていった。


「カトリーヌくん、やり過ぎじゃないかな 」


「そうでしょうか? 」


 カトリーヌはつぶらな瞳で月夜と忍を見つめる。


「僕らだけなら全員始末していたところだけどね まだ若いカップルがいたからね 咄嗟に眠らせるのが間に合って良かったよ 」


 カトリーヌの動きに気付いた月夜と忍は、高校生カップルに軽く当て身を入れ気絶させていた。そして、しばらくして気付いた二人に月夜たちは知らんぷりしてコーヒーを薦める。


「気を失っていたけど大丈夫かい? 」


 惚けて訊く月夜に二人は恐縮して頭を下げる。


「すいません 助かりました 怖くて気を失ったみたいです 愛ちゃんもゴメン 全然頼りにならなくて 」


「ううん、私も気を失ってたから 誠くん、それにあんな人まともに相手にしたら危ないよ 」


 愛と誠。愛と誠だってぇ。月夜は無意味に感動していた。この二人には是非とも幸せになってもらわねばならない。


「君たちは高校生かい? 今日はここに泊まるのかな? 」


「はい、その予定です でも、またあんな人が来たら怖いな 」


 顔を赤らめながら言う誠に、愛も頬を染め下を向いていた。


「ああ、それなら俺たちも、すぐ上にテント張ってるから心配するな 」


「また、あんなの来たら、すーぐやっつけってあげるから 」


 いつの間にか集まって来ていた寅之助と睦美が大きく胸を叩く。


「どうやら、私たちも泊まることになったみたいですが、テント足りませんよ 」


 忍が、こそっと月夜に耳打ちするが、月夜は、僕と忍くんは外で寝れば良いだろうと言うと、忍はグフグフと不気味な笑いをする。


「それでは、私の“蓑虫バック“がありますから、それで一緒にぶら下がって寝ましょう 高いところにいれば周りが良く見えますし 」


 月夜は不吉な予感がしたが不承不承頷いた。


「えぇー、何これ? 自転車なの? 」


 睦美が高校生カップルのテントの横の木に立て掛けてある2台の自転車を見て目を丸くしていた。


「ほぉ、ストライダにキャリーミーか 」


 月夜も興味深そうに二人の自転車を見つめる。


「何ですか? ストライダとキャリーミーって 」


「この自転車の名前だよ この三角形のフレームにハンドルとシートが付いただけの自転車がストライダ そして、こっちの小径8インチのタイヤの自転車がキャリーミーだよ 」


「チーフって、自転車にも詳しいんですか 」


 睦美が目を丸くするが、月夜はいやいやと手を振る。


「自転車もバイクと同じで機能美の固まりだからね このストライダなんて見てるだけで飽きないよ 」


 月夜の言葉に所有者の誠は嬉しそうだった。


「二人はこの自転車でここまで来たのかい? 」


「ええ、山の向こうの駅まで輪行してきて、そこからは自転車で走って来ました 」


「あのう、少し乗らせてもらって良いですか? 」


 睦美が、乗りたくて仕方がないという顔で高校生二人にお願いする。


「あ、はい どうぞ この自転車、癖が強いから気を付けて下さい 」


 そう言いながら愛が自分の自転車キャリーミーを睦美に手渡す。


「おい、睦美 本当に気を付けろよ 小径タイヤは外乱に弱いからな 」


「大丈夫、大丈夫 子供の頃から自転車得意だから それにしても可愛いね この自転車 」


 睦美は颯爽と自転車に跨がり走り出したが、地面から出ていた木の根にハンドルをとられ見事に転倒した。


「ぶぎゃっ 」


 ステーンと顔面から転んだ睦美に寅之助が慌てて駆け寄る。


「だから、言ったろう 大丈夫か? 」


 ゴメン、転んじゃったと起き上がった睦美を無視して寅之助は倒れた自転車を心配していた。


・・・貴様、私より自転車の心配かい ・・・


「良かった どこも壊れてないし傷もついてない 」


 睦美は怒りの張り手を寅之助の頬に叩き込もうとしたが、この自転車高いから壊れたら大変だったよという一言で手が止まる。


「えっ、いくらなの? 」


 恐る恐る訊く睦美に寅之助は指を10本出し、これ以上だと言う。


・・・10万以上 私のママチャリ1万なのに ・・・


「ごめんなさい、愛ちゃん 自転車、倒しちゃって 」


 睦美は愛に頭を下げるが、愛は睦美の怪我を心配していた。


「怪我なくて良かったです この自転車、手強いから、私もよく転びましたよ でも、この子可愛いから、どうしても乗りたくて 私も最近ようやく慣れてきたんです 」


「でも、高校生でよくこんな高い自転車買ったね 」


「彼と一緒に自転車で走りたかったんですよ 折り畳み自転車なら電車で移動して駅からサイクリングを楽しめるから ファーストフードのお店でアルバイトしてお金貯めたんです 彼の自転車も同じくらい高価ですから、彼もずっと穴掘りのアルバイトしてましたよ 」


「偉いっ! 君らのような若者は素晴らしい 」


 寅之助が感激していたが、睦美は自分の学生時代を思い出し彼らを羨ましく思っていた。


 その後、急遽1泊することになった月夜たちはタープを張ったり、食材とお酒の買い出しにと忙しい時間を過ごしていた。そして、夕食後の酒盛りで楽しいキャンプの夜は更けていった。



 

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