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三十七話 再びの遭遇


 三十七話 再びの遭遇



 睦美たちは、さすがにもう食べられないとフィギアは諦め、会計時に指定の金額以上で必ず貰えるキャラクターグッズで妥協する事にした。その金額に達する毎に入手出来るためたくさん食べればそれだけたくさんのグッズが貰える事になる。


「けっこうみんなで食べましたから3つくらい貰える筈ですよ 御協力感謝です 」


 うきうきと会計機の前に立つ睦美だったが、そこで突然青ざめ硬直する。


「う、うそ…… 」


「睦美さん、お金足りないなら私も出しますよ 」


 忍がけっこうな金額になっているだろうと思い声をかけるが、睦美は会計機の前に置かれた告知に衝撃を受けぶるぶると震えていた。


「この度、御会計時にお配りしていたグッズは大変好評の為、予定数を終了致しました 今後とも当店をよろしくお願いいたします だってさ 」


 寅之助が書かれていた文を読み上げると睦美は涙ぐんでいた。スマートフォンを持つ手が震えてバーコードが読み取れない。


「ほら睦美、次の人が待ってるからスマホ貸せよ 」


 寅之助が睦美からスマートフォンを取り上げ素早くバーコード決済を済ませ、店外に連れて行く。睦美はすっかり元気がなくなり、お疲れ様でしたと力なく言うととぼとぼ歩いていってしまった。残された三人はそんな睦美になんと言っていいか分からず睦美の後ろ姿をただ茫然(ぼうぜん)と見つめていた。


 しばらく立ち尽くしていた三人は、スマートフォンを操作しだす。そして、三人は顔を上げる。


「俺、少し食べ過ぎたから運動して帰るわ 」


「私もこのまま寝ると大変なので少し走ります 」


「僕もタクシー使わないで歩いて帰りますよ 」


 三人は、それではお疲れ様と言い合い解散した。


 1時間後、寅之助は()()の回転寿司チェーン店の前にいた。バイクから降りヘルメットをとり歩き出す。店内に入り、まずレジの会計機前を確認すると、この店のレジ前にはグッズ配布終了の告知はされていなかった。よしと寅之助が拳を握りしめた時、カランと扉が開く音がして振り向くとトビが立っていた。


「あれっ 」


 お互い驚くが、どうやら思いは同じだったようである。二人はお互い顔を見合わせて笑っていた。そこへまた一人来客がある。


「えっ 」


 レオタード姿の忍が息も荒く汗だくで店内に入ってきた。忍は寅之助とトビの顔を驚いたように見つめるとニコリと微笑んだ。


「お二人も同じ思いのようですね 私も消化完了です さあ食べますよ 」


 三人は、テーブル席に落ち着くとすぐに注文を始める。すでにシステムを理解した三人は、スマートフォンからマーク付きの商品を金額を考えながら無駄のないように注文する。ガチャガチャを回せる回数、合計の金額、両方を頭に入れながら、ほとんど会話もせず鬼のように食べていく。早く会計まで済ませないと、いつグッズが品切れになってしまうか不明のため、せっかくのお寿司を味わう余裕もなかった。しかし、三人のその努力が実りガチャガチャからもフィギュアが排出し、会計時に貰えるグッズも3つ手にする事が出来た。


「明日、寅之助さんから睦美さんに渡してあげてくださいね ううっ、もう限界です 」


 フィギュアとグッズを寅之助に渡した忍のお腹は狸のようにポッコリと膨れていた。


「僕ももう駄目だ カトリーヌに迎えに来てもらおう 」


 トビのお腹も忍以上に膨れていた。


「お前たち、だらしないな 」


 グッズを持ち二人を笑いながら、ドンと自分の胸を叩いた寅之助は、途端にうっと口を押さえる。


「うわあぁ 」


 目の前で吐かれると覚悟した忍とトビだったが、寅之助はなんとか吐くことを(こら)えた。


「ほれほ、ひゃまくみるひゃ 」


 寅之助は強がりながらバイクにまたがりキーをひねりスターターボタンを押しセルを回す。エンジンは始動し、ドドドッと低い音を響かせる。普段は心地よいバイクの振動が、この時ばかりは拷問されているように感じた寅之助だった。

 忍は膨れたお腹をさすりながら、月夜がいなくて良かったと安堵していた。


・・・こんな姿、チーフに見られたら嫌われてしまうかも ・・・


 友人の為に体をはる忍を、月夜が嫌う筈はないが、この時の忍は“くノ一“ではなく普通の女性に戻っていた。すると自分の手以外にレオタードに包まれた忍の膨れたお腹を触るものがいる。まさか、トビくん?と忍が後退りするとトビではなくカトリーヌだった。つぶらな瞳で忍を見つめている。


・・・本当にこの娘は私にさえ気配を感じさせないから怖い あのサイレンス以上だわ ・・・


 忍はカトリーヌのつぶらな瞳を見返し、ガクッと脱力していた。



 * * *



 雫石を追って外に出た月夜は、駐車場で車に乗った彼女たちを走って追いかけていた。郊外の一軒家が点在する地域も抜け、山の方に入っていく。雫石の運転する車は山の細い曲がりくねった道を危なげなく走って行く。月夜は道路を走るのをやめ、木の上を飛び移りながら道路をショートカットして追っていた。


・・・けっこう、田舎の方に住んでいるんだな ・・・


 月夜は軽々と木々を渡って追いかけて行くが、ふと違和感を感じた。


・・・おかしいぞ? また同じ道に戻っていく感じだ ・・・


 月夜が疑問に思ったように雫石の運転する車は山の中の道を大きく周りまたもとの道に戻ろうとしていた。


・・・これは、誘き出す為の罠か ・・・


 月夜は、ふと背後に殺気を感じ咄嗟に身をかわす。すると、すぐ横を月夜の頬を掠めて”苦無(くない)”が飛びさっていった。


「ほお、死角からの無音の攻撃をかわすとは驚嘆に値する 」


「そんなに殺気を込めれば、赤ちゃんでも気付くと思いますよ サイレンス 」


「水無月の仲間というだけの事はあるわけですね 」


「ここで会えるとは幸いです なかなか会えないので悲しかったですよ 」


「おやおや、そんなに想われているとは気が付きませんでした その想いに答えてここで殺して差し上げましょう 」


「僕の想いはそんなに軽くありませんよ 」


 月夜とサイレンスは木々の間を飛びまわりながらお互いの隙を伺う。手裏剣と”苦無(くない)”が飛び交うが、お互い傷ひとつ負わず、時間だけが経過していった。


・・・このままでは消耗戦だ いったん気配を消して隙を待つか でも相手はあのサイレンス、簡単に隙を見せるとは思えないか ・・・


 月夜は、忍と一緒に来なかった事を後悔していた。


・・・忍くんと二人なら打つ手もあるんだが ・・・


 その時、一陣の突風が吹く。その風に紛れて暗器(あんき)千本(せんぼん)“が無数に飛んで来る。サイレンスの仕業ではない。“千本(せんぼん)“は月夜とサイレンス、二人を狙い飛んできていた。



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