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三十五話 回転寿司の悲劇


 三十五話 回転寿司の悲劇



「今夜の夕食はみんなでお寿司にしませんか? 」


 睦美が終業間際、全員に聞こえるように声をかける。突然どうしたんだという顔をする月夜たちだったが寅之助が、ほら例のキャラクターグッズが回転寿司とコラボして貰えるらしいですよ、と耳打ちする。またかよ、と思う月夜たちであったがこのところお寿司はご無沙汰していたので、久しぶりに行こうかという話になった。

 終業のチャイムが鳴り、帰り支度を始めた月夜たちを睦美は早く行きましょうと急かしてくるが、パソコンの動作が重くなかなか作業が進まない。


「もう、タイムカードなんか明日総務に打刻忘れで申請すればいいじゃないですか 」


 睦美は早く行きたいが為に無茶を平気で言う。


「おいおい、そういうのもボーナス査定に影響するんだぞ 」


 月夜の一言で、忍も寅之助もトビも慌てて電源を落としかけていたパソコンを起動させる。結局、余計に時間がかかる結果となってしまった。


「もう、ほんと段取り悪いんだから 」


 膨れる睦美だが、いやいや君が悪いんだろうと思う一同であった。



 * * *



 無事、回転寿司の前に到着した一同だったが、列をなしているお客の多さに驚愕する。


「回転寿司って、こんなに混むの? 」


「私のイメージでは普通にすぐ座れると思っていましたが 」


「もしかして、これは例のコラボの影響? 」


 トビの危惧した通り、多くのお客のお目当てがコラボグッズだった。


「これだけいると結構待つんじゃないか? 今日は諦めて他の所へ行こ…… 」


 言いかけた月夜を遮り睦美がスマートフォンを取り出す。


「大丈夫、ネットで予約済みです 今、確認して来ますね 」


 人混みを抜けて確認に行く睦美を月夜たちは唖然と見送っていた。


・・・こいつ、本当にグッズにかける執念がハンパねぇ ・・・


・・・いったいいつ予約してたんだ? ・・・


・・・そんなに欲しい物なのかしら? ・・・


・・・飲食店じゃカトリーヌは居ても仕方ないしな ・・・


 それぞれの思いが頭によぎる中、睦美が微笑みながら戻ってくる。


「もう入れますよ 13番のテーブル席です 」


 月夜たちは人混みをかき分け店内に入ると、案内表示に従って進みテーブル席に腰を落ち着ける。手際よく全員の湯飲みに抹茶を用意した睦美は、スマートフォンを手に全員の顔を見回す。


「さて、皆さん ここのQRコードを自分のスマホで読み込んで下さい 」


 テーブル横の画面に浮かぶQRコードを指差し睦美がまず自分のスマホで読み込んだ。それに習って全員がスマートフォンでQRコードを読み込む。


「ほらこれでスマホから注文できるので、どんどん食べて下さい 」


「なるほど 便利だね じゃあ僕は”えんがわ”からいくかな 」


 月夜が注文しようとすると睦美がストップをかける。


「チーフ、それはご遠慮ください メニューにこのマークが付いている商品を注文願います 」


 自分のスマホのメニュー画面を見ると確かに赤いマークの付いた商品がある。


「このマークの付いたお寿司を◯◯◯円分食べると一回ガチャが回せるんです ですので皆さん、このマークの付いたお寿司を注文お願いします 」


 睦実の演説に、ああそういうことかと納得した一同は注文を始める。


「忍さんは、どのくらい食べられますか? 」


「私は8皿くらいかな 」


 忍が答えると睦美は何か計算しているようだった。


「だったら忍さん なるべく高額なお寿司を食べて合計額が◯◯◯◯円以上になるようにしてください それと今日の分は私が奢りますので、みんな遠慮しないで食べて下さいね 」


 睦実の言葉に寅之助が目を輝かせる。


「いいのか睦美? 」


「寅之助にはこの前のロードレースで力になって貰ったから、そのお礼もかねてね 」


「睦美 お前いい奴だな 」


 寅之助は感激してスマートフォンからバンバン注文を入れる。”ウニ”、”いくら”、大トロ”、”炙りまぐろ”、特選上トロ”。瞬く間に寅之助の前にお皿が並ぶ。


「お寿司だけじゃなくて茶碗蒸しもマーク付いてるからOKですよね? 」


 忍が念のため恐る恐る睦美に許可を求める。


「はい、お寿司以外でもマークが付いていればスイーツでも椀物でもドリンクでもいいですよ 」


「ほう、なら僕は”あおさの味噌汁”頼むかな 」


 月夜もようやくシステムを理解できたらようでスマートフォンから注文を始めた所で睦美がまた一言告げる。


「スマホにガチャが回せますと表示が出たら、私が調べた今日一番運が良いトビくんが回して下さい got it ?  」


「了解 じゃ早速1回回しますよ 」


 トビはスマートフォンの画面をタップするが、表示された結果は”はずれ”だった。


「うわ、すいません ”はずれ”でした 」


 トビが自分の責任のように頭を下げるが睦美は至って平静で、当たる確率はそんなに高くないので大丈夫、でもこれだけ人数がいれば何回かは必ず当たる筈ですと余裕で答えた。


・・・なるほど、その為の人数集めか ・・・


 月夜は睦実の用意周到さに舌を巻いた。


「おっ、もう1回回せますよ 」


 トビがすかさずスマートフォンの画面をタップすると今度はテーブル横の画面に”当たり”と大きく表示された。


「やった、睦美さん、当たりですよ 」


 トビは大喜びするが睦美は冷静にテーブル横のスロープから落ちてくるカプセルを手に取るとパカッと開ける。中から出てきたのはキャラクターの缶バッチだった。


「ありがとうトビくん どんどん当ててね 当たりの中の“大当たり“はフィギアだから、それ出るまで皆さんよろしく 」


・・・まさか、それ出るまで僕らを帰さないつもりか ・・・


 無邪気に喜ぶ睦美を見ながら背筋が冷たくなる月夜たちだった。唯一寅之助だけが何も考えずお寿司を食べまくっている。


「どうしたの、みんな 睦美に遠慮する事ないぞ バンバン食べよう 」


 能天気な寅之助を他のメンバーは羨ましく思っていた。




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