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三十二話 市民ロードレース


 三十二話 市民ロードレース



 睦美に誘われて月夜たちは、10キロの市民ロードレースに参加する事になった。天気は快晴で気持ちの良い陽気である。コースは市内の一般道を交通規制し一周する10キロのコースだ。スタート地点の小学校のグラウンドには大勢の参加者が集まっていた。この小学校の校門がスタート地点であり、ゴール地点でもある。


「本当に睦美くんはこういうイベント好きだね 」


「私は今まであまり目立つ事は避けてきたので、こんなイベントに参加するの初めてですよ 」


「僕だって同じだよ 同じく極力目立つ事は避けてきたからね 」

 

「それにしてはチーフ その格好は何ですか? 」


 忍の指摘で月夜は自分の姿を見るが格段おかしいとは思わなかった。


「私は好きですけど 他の人にはあまり見てもらいたくありません 」


 そこへ、睦美がやって来た。


「探しましたよ、チーフ そろそろスタート地点に行きましょう えっ…… 」


 睦美が月夜の姿にぎょっとし、さらにガン見する。


「ちょっと、睦美さん あまり見ないで下さい 」


 忍が、睦美の視線の先に割って入る。月夜は体にピッタリとフィットした黒いボディタイツのみで、その身体のラインが克明に浮き出ている。しかも裸足である。


「あの、チーフ それで走ったら目立ち過ぎなんじゃ せめてジョギングパンツくらい穿いた方が…… それにしても普段のスーツでは分かりませんがその身体、一流のアスリート並みですね 」


 睦美が顔を赤らめて言うが、忍はしっしっと睦美を追い払うように手を振る。


「そんなに目立つかなぁ 修行する時の格好だから動きやすいんだけど 」


 月夜が怪訝な顔をしていると、忍に追いやられた睦美が寅之助とトビを連れてまたやって来た。


「これ、寅之助の予備のランニングパンツだから穿いてください、チーフ それとランニングシューズも…… 」


 オレンジ色の短パンを渡された月夜は仕方なくそれを穿くが、残念そうな顔をしている忍を見ると複雑な心境になる。

 寅之助とトビは、周りのランナーと同じランニングシャツにランニングパンツだ。もちろん、睦美も同じスタイルである。ただ、忍はいつもの”くノ一”装束の黒いレオタード姿である。黒髪も結び、いつものエアジョーダンではなくランニングシューズを履き気合いが伺える。


「私は女子の部の優勝を狙ってるから邪魔しないでね 」


「俺は一般の部で総合優勝だ 」


 気合い入れまくりの睦美と寅之助の陰でトビも呟く。


「まあ僕もベストスリー位には入れるかな 」


 密かな自信を伺わせるトビだったが、隣でカトリーヌが無理無理と言うように顔の前で手を振っていた。


「トップの人だとどのくらいのタイムになるのかな? 」


 月夜が忍に参考までにと尋ねてみる。


「昨年の結果だと30分と少しのようですね 」


「なんだ、それなら気を付けてゆっくり走らないといけないな 」


「チーフのタイムはどのくらいですか? 」


「僕は、3分くらいかな 」


 月夜が答えると忍はグフグフと不気味に笑う。


「私は、2分58秒です 」


「いや、僕は正確に計ったことないから…… 」


 勝ち誇った顔をする忍に対して月夜の敵愾心がムラムラと燃えてきた。


「そ、それじゃ忍くん 勝負するか 」


「良いですよ 負けたら甘太郎焼き奢るということで 」


「よし、市街地を一周10キロのコースだから、始めに僕たちだけで一周して勝負だ その後さりげなく二周目で睦美くんたちに合流して一緒にゆっくり走ろう 」


「ふふん チーフ、負けたときの言い訳考えておいてくださいよ 」


「忍くんこそな んっ! 」


 月夜が忍の後ろの一点を凝視する。


「どうしました? 」


 忍が振り向くと、月夜の視線の先に一人の女性がいた。まだ若そうにみえる女性はセーラー服を着ていたが、その下半身はスカートではなくランニングパンツでもなく、どう見ても”褌”であった。


「彼女、間違いなく”くノ一”だね 」


「ええ、私も小さい頃、ふんどしつけて修行をしましたよ 」


「あの先を地面につけないで走るのはかなりしんどかったな クリアすると、どんどん長くされるし 」


「でも、あの彼女、長い”褌”ではありませんね 気合い入れる為に身に付けているのでしょうか? 」


「何か、目的があるのかも知れないね 一応、注意しておこう 」


「はい 睦美さんたちにも伝えてきますね 」


 スタート時刻が近くなり、参加するランナーはぞろぞろとスタート地点の校門前に移動する。もう最前列の方は人で埋まり、月夜たちの位地は最後尾に近い方だった。


・・・これだけ人が多いと、これを抜け出すのが大変だな ・・・


 月夜は横の忍の顔を見るとグフグフと不気味な笑いを浮かべていた。


・・・忍くん、何か考えているようだが僕にも秘策がある ・・・


 月夜も笑みを浮かべていた。そして、スタート時刻になる。


ダァーン!


 スタートの号砲が鳴りランナーは一斉にスタートした。その瞬間、月夜と忍はそれぞれ左右に跳ぶ。そして、なんと道路脇に設置されているガードレールの上を風のように走って行く。二人は、あっという間に人混みを抜けトップを快走するが、沿道の観客には何かが通り抜けたようだと朧気に認識するのが精一杯だった。

 その二人が半分の5キロ地点を過ぎた時、後ろから二人に追い付いてくる人物がいた。そして、二人をあっさりと追い抜いていく。


「なにぃ 」


「うそっ 」


 思わず二人は驚愕する。二人を抜いたランナーはセーラー服に褌の少女だった。少女は二人を振り向くとニヤリと笑う。その小馬鹿にした笑いにカチンときた二人も走る速度を更に上げた。そして、両側から少女をぶち抜くが、その直後スピードアップした少女にまた抜かれてしまった。


「あの娘、風系の”くノ一”かな? 何か忍術を使っているのか? この速さは異常だぞ 」


「5メートルの褌の先を地面に着けないで走れる私が追い付けないなんて初めてです 」


 なんとか少女に食いついて行こうとする二人だが、その差は少しずつ開いているように感じられた。




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