三十一話 限定グッズが欲しい3
三十一話 限定グッズが欲しい3
睦美は怪我もなく大事には至らず一同ホッと胸を撫で下ろした。睦美は、何か腹部に衝撃を受け息が詰まるような感覚で意識が失くなっていったと話している。何者かに一瞬で当て身を当てられたと考えられるが、あの人混みを上手く利用しておりその人物を特定するには至らなかった。
「何故、睦美さんが狙われたのですかね? 」
「考えられるのは睦美くんの”眼”だね ”真実の眼”を恐れた何者かに狙われたのだと思う 」
「でも、それを知っているのはそれほどいないと思いますが…… 」
「そうなんだよ…… 僕らの周りにいる人たちは睦美くん自身が集めた人達だからね 変なやからがいたら”真実の眼”で気付いた筈だ 」
月夜と忍は難しい顔をして考え込んだ。傍らで”うさぎ”のぬいぐるみが微笑んでいる。二人はそのぬいぐるみを見ると思わず微笑んでしまった。
「睦美くん、お薦めのこのぬいぐるみ なかなか良いね 」
「何か睦美さんの人柄が乗り移っているようで、こちらまでほっこりしてしまいますね 」
二人は”うさぎ”のぬいぐるみを撫でると笑いあった。
* * *
トビは家に戻るとカトリーヌを探していた。カトリーヌは奥の部屋の椅子に座り眠っているようだったがトビは構わず声をかける。
「カトリーヌ 今日は何処に行っていたのか教えてくれないか? 」
カトリーヌはトビの声に気が付かないようでピクリとも動かなかった。
「なあカトリーヌ、君が寝ていないのは分かっている 寝た振りは止めて答えてくれないか 」
トビの声が多少キツくなる。
「今日、僕の同僚の睦美さんが何者かに教われた 君もその現場にいたよね 」
断定するように言うトビの言葉にカトリーヌはつぶらな瞳を向けると立ち上がる。
「答えなければいけませんか、トビ様 」
「君が現場にいたのはこの目で見た 君は睦美さんが倒れたのを知っている筈だ 睦美さんは君と友達になったと喜んでいたけど、君の方は何とも思っていなかったのかい 」
「いえ、私も睦美さんとはお友達と思っています 私の方から睦美さんにお願いしましたから 」
「だったら何故 睦美さんが倒れたとき駆けつけないで姿を隠したんだ 考えたくはないけど君が睦美さんを襲ったのではないかと思ってしまうよ 」
カトリーヌは言葉なく俯いてしまった。トビは悲しそうな目でカトリーヌを見つめる。
「やっぱり、君が睦美さんを襲ったのか 君は以前のように人間に害をなすモノに戻ってしまったのか? 」
しばらく俯いていたカトリーヌだったが顔を上げるとつぶらな瞳をトビに真っ直ぐに向ける。
「信じて下さい、トビ様 睦美さんを襲ったのは私ですが、それは睦美さんを守るためでした 」
トビはカトリーヌの瞳を見つめていたが、にこりと微笑むとカトリーヌの頭を撫でた。
「分かってるよ、カトリーヌが僕や卯月ちゃんの気持ちを裏切る訳がない でも、説明してくれるかい 」
「はい、あの時突然睦美さんに対する殺意が向けられたのです 私は睦美さんを守ろうとしましたが狙っている人物が特定出来ませんでした 一刻の猶予もない状態でしたので、その者より先に睦美さんを倒す事にしたのです 私が睦美さんを倒すと急速に殺意が消えていきました 睦美さんの周りに皆が集まってくれたので私は安心して殺意の跡を追おうとしました その時にトビ様に気付かれたのですね 結局、殺意を持った人物は見つける事が出来ませんでしたが…… 申し訳ありません、睦美さんには折角の楽しい気持ちを台無しにしてしまいました 」
「そうか、でもそもそも何故君はあの会場にいたんだい? 」
「トビ様が睦美さんに頼まれて限定グッズの販売会に行くと云うので私も昨日の夜から行ってたんですよ おかげで先頭で整理券を貰いました 」
そう言うとカトリーヌは、もう品切で睦美たちは貰えなかったクリアファイルをトビに渡す。
「これ、手に入れる事が出来ましたので睦美さんに渡して謝罪しておいて下さい 」
トビはカトリーヌにクリアファイルを返した。
「ダメだよ 僕より君が渡した方が睦美さんは絶対喜ぶよ 自分で渡して睦美さんに自分で謝った方が良い それが友達だと思うよ 」
トビの言葉をカトリーヌはよく理解出来なかったようだが、トビが自分の事を考えてくれている事は分かった。
「分かりました 」
カトリーヌはクリアファイルを受け取り、大事にバックにしまった。
* * *
もう手に入らないと思っていたクリアファイルを持ってきてくれたカトリーヌを睦美はギュッと抱き締め感激していた。
「ありがとう、カトリーヌさん 前の晩から並んでたって聞いたよ それに私を守ってくれたのも聞いた 本当にありがとう 」
「睦美の奴、どうしても欲しいって、ネットの”転売ヤー”から買おうとしてたからな、なんとか止めたけど カトリーヌさんが持ってきてくれて助かりました 」
寅之助もカトリーヌに頭を下げる。カトリーヌは照れたように、つぶらな瞳で二人の顔を交互に見つめていた。
* * *
”うさぎ”のキーホルダーを付けた人物は、そのキーホルダーを眺めて自然に笑みが零れてきていた。
・・・こいつ、可愛い ・・・
指でキーホルダーを揺らしながら微笑んでいた人物は突然表情が変わり吐き捨てる。
「あの女、邪魔 早く排除しないと 」
憎々しげな表情でいた人物は、入ってきた人影に気付き急に愛想の良い顔に変わる。
「いらっしゃいませ 」
明るく元気な声が響いた。




