三話 秘技・雷おこし
三話 秘技・雷おこし
忍刀を手に飛び掛かってきた忍を軽くかわし、月夜も忍刀を手に取ろうとしたが、そこで自宅に置いてきた事を思い出す。
「そうだ、忍くん そんなもの持ち歩いたら銃刀法違反だぞっ 」
月夜の抗議に忍は不敵な笑みで笑って返す。
「ふふふっ 忍者は治外法権なんです 」
「いや、そんな事、在り得ないから 」
月夜は忍の攻撃をかわし続けているが、やはり素手で忍刀に渡り合うには無理があった。徐々に忍に追い詰められていく。
「ちょっと、タイムッ!! 」
「えっ 」
月夜の言葉に忍は動きを止めた。
「ここでタイムですか タイムは三回までですよ それで、どのくらいですか? 」
「わかってるよ 五分だ 」
忍にそう告げると月夜は商店街の金物屋に入る。
「これ、ください 」
「ありがとうございます 六百七十七円です 」
月夜はお金を払い、三日月鎌を手に入れた。よし、これでいけると月夜は颯爽と忍の前に登場する。忍は電信柱の上で腕組みをして待っていた。月夜も隣の電信柱の上に乗ると三日月鎌を振りかざす。
「なるほど、それがチーフの得意の忍具というわけですか 」
忍は、あと三十秒ですと告げると忍刀を構え飛び掛かる準備をする。そして、アラームがピピピッと鳴った瞬間、月夜目掛けて飛び掛かってきた。それに合わせて月夜も飛び出す。
キィーン
お互いが空中で交差した瞬間、忍刀と三日月鎌の刃がぶつかり合い火花が飛ぶ。
「なかなかやりますね、チーフ 」
「忍くんも、やるじゃないか 」
二人は電信柱の上で笑い合う。そして、再び相手目掛けて飛び出した。
キィーン
またも火花が飛び、互いの位置を入れ替える。このままでは埒が明かない。忍は必殺の技を使う決意をした。次に互いに空中に飛び出した時が勝負。忍はタイミングを計りながら月夜の動きを見つめる。そして……。
・・・出たっ ・・・
飛び出した月夜を見て、忍も飛び出す。しかし、今度は刃を交えずに空中でクルリと身体を回転させると月夜の背中に抱きついた。そして、そのまま二人は頭から落下していく。
・・・これは、雷おこし ・・・
月夜は逃れようとするが、両腕も背中からがっしりと押さえつけられているので、このままでは受け身もとれず頭から地面に激突することになる。
・・・まさか 忍くんが、この技をつかうとは ・・・
月夜は修行中の自分を思い出した。懐かしい思い出だった。母さんにこの技をかけられて何度死にかけたことか……。あー久しぶりのこの感覚、気持ちいいな。ついうっかり、このまま地面に激突しそうになり月夜は苦笑する。
「ふんっ 」
月夜は気合を入れ頭をぐるっと回す。それに連動して身体も回転する。それを繰り返していくと月夜の身体は高速で回転し始めた。月夜の背中に抱きついて動きを押さえている忍は、回転の遠心力で飛ばされそうになる。
「うそっ 何ですか、これっ 」
もう月夜の動きを押さえる為というより、飛ばされないように月夜にしがみ付いていた忍がついに、ぴゅーと遠心力で飛ばされた。
「あぁぁぁーーーっ 」
忍は悲鳴を残して空の彼方へ飛んで行った。月夜はくるっと体勢を変えると足から地面に着地する。そこへ、遥か彼方へ飛ばされたと思った忍が恐ろしい形相で、ハァハァと息を切らしながら戻ってきた。
「私の必殺技”雷おこし”を破る人がいたとは信じられませんっ 」
「あの技は僕が小さい時、母さんがよくかけてきたからね 破り方は知ってるよ それより、忍くん 君に一言言いたい 」
えっなにっ私怒られるの、という顔をする忍を、月夜はビッと指差す。
「母さんは僕が大きくなると、父さん以外の男性に抱きつく事は出来ないと、この技を封印した 忍くん、君は男性に抱きついて平気なのか 」
ガーンとショックを受けた忍だったが、かろうじて立ち直る。
「私は”くノ一” そんなことを気にした事はありません 」
「そうか 君はそんな女性なんだな 」
「違いますよ、チーフ 何言っているんですか ”くノ一”の時だけです 」
忍は慌てて手を振り否定するが、月夜はもはや聞く耳持たずという感じで忍を見つめている。
「それでは、そんな君に僕もとっておきの技をだそう 」
忍は、ごくりと唾をのみ緊張する。自分の知らない技をかけられたら殺される。とにかく隙を見せないように忍は構えるが緊張で体が震えてきていた。こんな緊張感を味わうのは何年振りだろうかと忍は考えながら、少しずつ間合いを詰めていく。技をくらう前に殺してしまえばいい。先手必勝だ。そんな忍の考えなど、まるで頭にない月夜は大きく腕を広げ、ゆっくりと頭上に手を上げる。そして、バッと腕を下ろし掌を忍に向けた。
「タイムだっ!! 」
「えっ…… タイム? ここで? 」
「そうだ タイムだっ 」
「わ、分かりました それで? 」
月夜は、人差し指を一本、ビシッと出す。
「一年だっ!! 」
「い、一年? 」
「繰り返させるな 一年だ 」
忍は急に力が抜けたように肩を落とし、衣服を包んだ風呂敷包みを手にする。
「一年もここで待っていられないので、帰らせてもらっていいですか? 」
勿論だと月夜は、とびっきりの笑顔で忍に言った。忍は、失礼しますとお辞儀をして帰っていった。