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二十九話 限定グッズが欲しい


 二十九話 限定グッズが欲しい



「それでは明日八時半にショッピングモールの第一駐車場に集合でお願いしまーす 」


 退社時間になると睦美が月夜たちに向かい大声で告げ、いそいそと帰っていった。


「こんなキャラクター、そんなに良いんですかね? 」


「可愛いとは思いますけど 」


 月夜と忍が、睦美から貰ったキャラクター缶バッチを見てウームと腕を組んでいた。明日、睦美のお気に入りのキャラクターグッズの限定商品を睦美の住む街のショッピングモールの特設会場で販売されるという事で、月夜たちが駆り出された訳である。商品購入者に、これまた限定のシールが一人一枚貰えるのと、もうひとつ数量限定の先着順でキャラクターのクリアファイルが貰えるのでそれ欲しさである。しかもキャラクターは五種類あり、どのキャラクターが貰えるかはランダムなので、何とか全種類コンプリートしたい睦美は、伊織や牡丹にも応援を頼んでいるようであった。


「睦美くんは仕事も熱心だけど、他の事にも情熱がすごいよねぇ 」


「それが睦美さんの良いところですね 何にでも積極的で本当に凄いですよ 」


「チーフも忍ちゃんも睦美の事、誉めちぎってますけど、俺から言わせればそんなことないですよ アイツはただのおバカです 」


「えぇ、そんな事ないと思うぞ 仕事だってきちんと出来るし 人事考課の点数だって君より……あわわ 」


 月夜は言葉を濁して誤魔化すが寅之助は気にした様子もなくトビに顔を向ける。


「トビくんは俺と睦美、どっちが馬鹿だと思う? 」


「えっ、はっきり言っていいんですか 」


 トビにそう言われた寅之助は、察したようで言わんでいいと手を振ると今度は忍を味方につけようとする。


「忍ちゃんは睦美を凄いと言ってるけど、自分の都合に周りを巻き込むのってどうよ 周りはいい迷惑なんじゃない 」


「それはそうですが、私はそういうイベントみたいのに参加した事ないですから誘われて嬉しかったですよ 」


 そこで月夜がハッと気付く。


「もしかして寅之助くん 自分が誘われなかったんで怒っているんじゃないの? 」


 寅之助は、うっと言葉に詰まる。


「やっぱり、そうか だったら君も明日来ればいいじゃないか 睦美くんも人数増えればシール貰える数増えるから喜ぶと思うぞ 」



 * * *



 退社の準備をしているうちに社内に残っているのは月夜と忍だけになっていた。会社の玄関の鍵を月夜が閉めていると忍がいきなり服を脱いでいた。


「ど、どうしたんだ? 忍くん 」


 月夜がぎょっと表情で忍を見るが、忍はレオタード姿になり髪を結ぶと脱いだ衣服を風呂敷に包み背中に背負う。


「少し気になる事があるので今日はこれで失礼します それではチーフ、明日ショッピングモールの駐車場で 」


 忍は風のように走り出すと、あっという間に視界から消えていた。


「まったく、忍くんもおせっかい好きだなぁ 」


 忍が走っていった方角を見ながら月夜は呟いた。



 * * *



 早朝の駐車場に月夜たちは集合していた。


「皆さん、本日はご協力ありがとうございます お金を渡しておきますので、このお金でグッズを購入お願いします 会計時に一人一枚シールをくれますので絶対貰い忘れないでね では出陣 」


 睦美が気合入れて歩き出そうとするのを忍が止める。


「ごめんなさい バイクに忘れ物しまして急いで取って来ます 」


「えぇー、早くお願いしますね、忍さん 」


 忍は駆け足で二輪駐車場に向かうが、そこに寅之助がいるのに月夜も気が付いていた。


「何やっているんですか 早く来てくださいよ、寅之助さん 」


「いや、でもやっぱり誘われてないのに行ったら嫌がられるだろう 」


「そんなことないですよ 睦美さん喜びますよ 」


「この前のラーメン屋の件もあるからな やっぱり止めとくよ 」


「もおっ!! いいですか、睦美さんが寅之助さんを誘わなかったのは寅之助さんが今日熱帯魚を買いにいくと言ってたからですよ 寅之助さんの癒しになってる熱帯魚を買いに行くのを邪魔しちゃ悪いって むしろ自分を熱帯魚買うのに誘ってくれなかったのはどうしてっと言ってました 」


「だって今日、睦美は限定商品買いに行くって言ってたから…… でも、何で忍さん、そんなこと知ってるんですか? 」


「昨日、あれから睦美さんの家に聞きに行ったからですよ 睦美さんの事だからきちんとした理由があると思ったんです 」


「わざわざ睦美の家まで 」


 寅之助は感激したように忍の手を握りしめる。


「さあ早く行きましょう あまり待たせると機嫌悪くなりますよ 」


 忍は寅之助の手を引いて走り出す。


「ごめんなさい 寅之助さんも来てくれたようなので連れて来ました 人数多い方がいいですよね 」


「とらっ、今日は熱帯魚買いに行くって 」


「熱帯魚は今日じゃなくても買えるからな 限定グッズは今日だけだろ 」


 寅之助の言葉に睦美は嬉しそうに頷く。


「とら、ありがとう よーし、目指せコンプリート 」


 一行はゾロゾロとショッピングモールの入り口に歩いていくと、既に長蛇の列が出来ていた。ショッピングモールの開店は10時なので、まだ一時間以上時間がある。


「9時半に整理券配布するって書いてあるからそれまでここで待機ね 」


 睦美が興奮した顔で指示を出す。


「それにしても凄い人だね こんなに人気あるのか、僕はまるで分からないけど 」


「凄い人気みたいですよ 色々なコラボ商品もありますから 」


 月夜と忍がこそこそ話していると睦美の指示が飛んできた。


「まず、ぬいぐるみを確保して下さい チーフは”うさぎ”で忍さんは”ねこ”、とらは”主人公”で確保ね 」


「主人公って? 」


「これこれ 」


 睦美は寅之助にスマートフォンで主人公のアニメを確認させる。


「何これ? 何者なの? 」


「なんだっていいの 可愛いから 」


 睦美は、とにかく品切れになる前に最優先で確保と、寅之助に厳命する。そして、9時半になり列の先頭から整理券が配布され始めた。が、睦美の思惑を外れ開店と同時の入場分は、睦美の3人前で無くなり次の30分後の入場になってしまった。あと30分早く来れば良かったクリアファイルは絶望的と歯軋りをして悔しがる睦美だったが、他のメンバーは買い物の後どこで食事するかに話題が移り集中している。その、月夜たちを陰から見つめる人影があった。人影は口許に笑みを浮かべると自分の貰った整理券を確認する。開場と同時に入場出来る整理券だ。


「ククク 」


 思わず笑みが口から出てしまい人影は慌てた。目立ってはいけない。人影は周囲の人波の中に消えるように溶け込んでいった。




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