二十七話 厄除け祈願
二十七話 厄除け祈願
月夜たちはバイクで厄除け大師に来ていた。月夜が厄年であるのに厄祓いをしていないと聞き、忍が激怒し連れ出したのである。
「チーフ、忍者足るものそういうことはキチンと行わなければなりません 因みに私も”八方塞がり”の年ですので一緒にお祓いに行きましょう 」
忍から、そう言われては月夜も断るわけにはいかない。さっそく有休を取って行くことになったが、それを嗅ぎ付けた睦美が、私も行くと言い出した。睦美は以前寅之助のバイクに乗せてもらいツーリングに行ってからバイクの爽快感の虜になり原付二種の免許を取得し、125ccのバイクも購入していた。そして、もう一人唐沢牡丹も睦美に誘われ今回参加している。
「私も”八方塞がり”の年齢なのでちょうど良かったです 」
無邪気に言う牡丹だったが、その後の月夜の一言で血の雨が降る事になった。
「同じ”八方塞がり”でも、随分違うよね 唐沢くんは若々しい 」
以前、襲撃を受けた牡丹であったが持ち前の明るさで周囲にも何事もなかったかのように明るく接している。それを褒めたつもりの月夜だったが、忍の怒りが爆発した。
「そ・お・い・う・のをセクハラと云うんです 」
避ける間もなく忍の踵落としが月夜を襲い、さらにエルボーが、そして膝蹴りが見事に決まり、月夜は呆気なくダウンした。
・・・チーフは尻に敷かれるタイプだわ ・・・
睦美は心の中で確信した。
* * *
受付で用紙をもらい記入していた月夜が千円札をピロッと出すのを見て忍がまた小言を言う。
「チーフ、まさか一番安いのにするつもりでは? 」
「えっ いや別に金額なんて関係ないんじゃないの 」
「何を言うんですか ここは気持ちの問題です きちんと初穂料を払えば気持ちも違うでしょう こんなところでケチッてはいけませんよ 」
「いや別にケチるつもりは…… 」
しかし結局月夜は忍に押しきられてしまう。睦美と牡丹はそれを見て大笑いしていた。そして、その後無事にお祓いしてもらった一行は食事をしようとバイクに跨がる。
「それにしても、睦美くんも唐沢くんも良いバイク乗ってるね 」
二人とも125ccの原付バイクであるが、最新のスポーツタイプである。
「でも大きいバイクの方が楽ですよね 」
牡丹が羨ましそうに言うが、月夜も忍もいやいやと手を振る。
「僕も免許取り立ての頃、ずっと125ccのバイクに乗っていたからね 小さいバイクの方が乗っていて楽しかったよ 」
「そうですよ それにお二人のバイクは最新のいいバイクじゃないですか 格好いいですよ 」
月夜と忍、二人に言われ、睦美と牡丹は気持ちよく走り出した。
* * *
この辺りはラーメンが有名ということで昼はラーメンにしようと決めていた一行は、厄除け大師から少し離れたラーメン店に向かう。睦美が事前にネットで調べてチェックしていたラーメン店だ。着いてみると、もう昼を過ぎた時間であるが長蛇の列が出来ていた。用紙に名前と人数を記入した月夜たちは店の前の駐車場で待つ事にする。
「忍くん、少しいいか? 」
「あの視線の事ですか? 」
「忍くんも気付いてたか 」
「朝からずっとですね それも複数 私たちに所在を突き止められないよう常に移動していますね 」
「ああ、相当な手練れのようだな 」
「唐沢さんが狙いなのでしょうか? 」
「まだ分からないな 僕たちを狙うサイレンスの一味かも知れない 」
「睦美さんたちにも知らせておきますか? 」
「そうだな あまり不安にならないように上手く伝えよう 」
月夜たちがこそこそ密談している時、駐車場に一台のバイクが入って来た。青白ツートンのCBX400F。乗っているのは女性だった。
「あれ? 伊織ちゃんだ 」
睦美が目ざとくバイクで入ってきた伊織を見つけ駆け寄って行く。
「どうしたの、伊織ちゃん 」
「皆さんこそどうしたんですか? 」
伊織がヘルメットを取り目を丸くする。
「厄年なのに厄除けしていない不心得者がいたので連れて来たんですよ 」
「ははあ、なるほど 」
忍の言葉に伊織はチラッと月夜に視線を向ける。一発でその不心得者が誰だか分かったようである。
「私は、ここのラーメンを食べに来たんですよ でも人気店だけあって結構待ってる人いますね 」
「それなら一緒に食べましょうよ 一人くらい増えても大丈夫 私に任せなさい 」
睦美が強引に伊織を引き入れ、名前を呼ばれたときにしれっと人数書き間違えましたと言う。幸いお座敷のテーブル席だったので一人増えても問題なかった。さっそく名物のラーメンと餃子を注文する。全員が同じ物を頼んだ。
「観光地というと高いというイメージでしたけど、ここは地元のラーメン店より安いくらいですね 」
「それにここはさっぱり系で美味しいですよね 」
「この透明なスープが良いんですよ 」
「チーフはスープ、あまり飲んじゃダメですよ 」
「もう、忍くんは厳しいなあ 」
わいわい言いながらラーメンをずるずると食べる月夜たちに、さらに強くなった視線がねっとりと絡みつく。先程までは感じなかった殺意のようなものも感じる。伊織もその視線に気付いたようで顔を上げ、さりげなく周囲を見回していた。
「この餃子も美味しいっ! 」
そんな事にはまるで頓着なしに睦美がハムスターのように餃子を頬張りながら叫んでいる。
「食べ方も書いてありますよ 」
牡丹も餃子を食べながら壁を指差して楽しそうに言う。
「いやあ、これはビール頼みたくなるね 今度は飲めるように走って来るのがいいかな 」
月夜の発言に牡丹はぎょっとしたが、他の面々は何でもないようにラーメンと餃子を食べていた。




