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二十六話 忍び寄る影


 二十六話 忍び寄る影



「よ~し、いくぞぉ 」


 寅之助がトップバッターで歌い出す。


「寅之助さん、成長しましたね 」


 忍の言葉に睦美が顔の前で指を振る。


「一人カラオケで特訓したのよ まったくバカみたい 」


「でも、睦美くん SEKAI NO OWARIの「Habit」なんて凄いじゃないか 」


「そうですよ 寅之助さん、凄いです 」


 月夜に続いて牡丹も褒め称えると寅之助は更に勢いづき振りまで披露する。二次会でカラオケに移動した月夜たちは大いに盛り上がっていた。金田は家族が待つ家へ戻るため残念そうに帰っていったが、残るメンバーは仕事の鬱憤を晴らすようにシャウトする。


「チーフは最近どんな歌聴いているんですか? 」


「僕は最近、池田綾子さんかな あの声が良いんだよね 」


 それを聞いた忍はグフグフと笑うとカラオケの端末を操作しだす。そして、伊織の歌が終わった後に流れてきたイントロで月夜が驚いた。


「忍くん、歌えるの? 」


 忍はにこりと微笑んで歌い出す。それまでのノリのいい曲から一転してスローで高音の歌声が素晴らしい忍に全員が静まりかえる。


「忍ちゃん、やっぱりカッケェ 」


「月夜さん、この曲何て言うんですか? 」


「この曲は池田綾子さん「ヒカリノイト」って曲だよ、風魔さん それにしても忍くん、凄いよ 」


・・・忍くんは身体能力が優れているから肺活量も多くて声が出せるとはいえ音感も素晴らしいな・・・


 月夜は思わず聞き入っていたが、向かいの席ではトビから端末を奪い取った睦美が必死に操作していた。そして、勝ち誇ったように曲を送信する。忍が拍手で迎えられて席に着いた時、睦美の入れた曲のタイトルが画面にバンと表示された。


「おっ、これも難しいぞ 睦美、大丈夫か 」


「ふふん、私だってバラードくらい歌えるわよ 」


 寅之助に鼻の穴を膨らませて余裕で答える睦美だったが、伊織と牡丹が声を揃えて言う。


「この曲、出だし外すとガタガタになるんだよね 」


 その二人の心配が的中する。最初の出だしを外した睦美は、あれあれと狼狽え、けっきょく最後まで立て直す事が出来なかった。


「だから中島美嘉の「ORION」なんて止めときゃ良かったんだ 」


 寅之助の言葉に睦美は、ちゃんと歌えてたんだよと涙ぐむ。


「睦美くんは、やっぱりノリのいい曲の方が良いんじゃないか 」


「そうですよ 」


 全員が睦美を持ち上げる。


「そうだ、睦美さん Adoの「唱」歌って下さいよ 」


「良いですね 睦美さんに合ってますよ 」


 みんなにおだてられ睦美も機嫌を直し、すっかりその気になっていた。


「フフ、それではみんな、私の歌唱力にひれ伏するのだ 」


 睦美がマイクを持ってステージに立つ。そして、イントロが流れ出したその時、個室のドアがスーッと開く。一瞬、全員がドアを見たが品物を乗せたトレイを持つ人影を見て、店のスッタフが注文したポテトフライを運んで来たのだろうとすぐに目を反らしステージの睦美を見つめる。中に入ってきた男はテーブルの上にはこんできたポテトフライを置くと一礼して出ていくかと思われたが突然身を翻し、一番出入口近くに座っていた牡丹にナイフを突き立てた。が、ナイフは牡丹に突き刺さる寸前で、忍と伊織に止められ、男は背後から月夜におさえこまれていた。


「どうして彼女を狙ったのです? 」


 月夜が問い掛けるが男は答えず、ニヤリと笑っていた。


「この男、知ってる? 」


 今度は伊織が牡丹に問い掛けるが、牡丹も青ざめながら横に首を振るばかりだった。


「答えられないなら少し酷い目にあってもらう事になるが覚悟してもらおうか 」


「カトリーヌも呼びましょうか? 」


「そうだね 念のため呼んでおいてもらおうか 」


 月夜の目が厳しくなり、忍と伊織の目も同じように厳しくなる。その時、男が初めて声を出した。


「おいおい、これは一体なんの集まりなんだ? 全員、普通ではない奴ばかりじゃないか 」


「そんな事に答える義務はない それより、そちらの事を話してもらおうか 」


「怖い怖い こんな人間が一人ではなく、こんな何人も居るとはね まさか、あの女をガードするために雇われたのですかね 」


 その時、睦美がドアを指差して叫んだ。


「もう一人居るっ!! 」


 個室のドアが少し開き何かが中に投げ込まれた。投げ込まれた物は床に転がり煙を噴き出す。そして、そちらに注意が向いた一瞬に押さえていた男の力が失くなり、まるで人形のようにぐったりと動かなくなった。


「これは? 」


「変わり身の術 」


 いつの間にか男の姿は木製の人形に置き換わっていた。そして、通路の方で何かが壊れバラバラに転がる音がした。月夜たちが牡丹の安全を確認し通路に出てみると、そこにはバラバラに破壊されたカトリーヌの姿があった。


「カトリーヌ 」


 トビが慌てて駆け寄ると、通路に仕掛けてあった罠が作動し、クナイがトビ目掛けて3ヶ所から飛んでくる。


「なかなか油断できない相手だね 」


 飛んできたクナイを受け止めた月夜、忍、伊織の三人が目で合図し三方に飛び周囲を確認する。そして、安全確認して個室に戻った。


「トビくん、カトリーヌくんはどうだい? 」


「結構派手に壊してくれましたから少し時間がかかりそうです 」


「冗談じゃないわ、私のお友達にこんな事して 絶対許さない 」


「大丈夫ですよ、睦美さん 少し油断してしまいました 」


 カトリーヌが喋り伊織や牡丹が、ぎょっとする。寅之助もぶるぶる震えていた。


「でも…… トビくん、私も直すの手伝うから ブリュみたいに可愛くしてあげるね 」


「ありがとう、睦美さん でも、ブリュは却下 ジュモーですよ 」


 そこは譲らないとトビが頑として言い張る。それにしても許せないと睦美が怒り心頭で拳を握り締めた。その睦美に月夜が話しかける。


「ここには僕たちしか居ないから正直に話してくれないか、睦美くん もしかして唐沢さんを守るために、みんなを集めていたんじゃないのか? 」


「ごめんなさい やっぱりチーフには隠せませんね、その通りです 襲われてもこのメンバーなら問題ないと確信していたし、一度襲撃に失敗して牡丹ちゃんの周りにこんな凄い人たちが居ると分かったら、またすぐに襲われる事はないと思ったんです 伊織ちゃんにも迷惑かけてごめんなさい 」


「いえ、私は大丈夫です それより皆さん何者なんですか? 敵の事もそうですが、皆さんの事も気になります 」


 伊織がみんなの顔を見回して言う。


「そうだな ここらでみんな腹を割って話そうじゃないか 」


 月夜の提案に全員大きく頷いた。





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