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二十五話 新年会


 二十五話 新年会



 月夜たちの新年会は、まだまだ続いていた。もう全員が良い気持ちになり、好き勝手注文し飲んでいる。


「でも、この居酒屋、24時間営業なんて凄いですよね。ここで飲んでたら果てしなく飲みそうで怖いですよ、師匠 」


「牡丹ちゃん、お酒強いね 寅之助なんて、もうダウンだわ 」


「俺がラウンらと? 俺が睦美に負ける訳がないら 」


「はいはい、もうあんたはいいわ それより、トビくん 私、カトリーヌさんとお友達になったから宜しくね 家も近いみたいだし、今度遊びに来てよ 私のアンティークドール、披露してあげるわ 」


「カトリーヌと? お友達に? そんな馬鹿な 」


 トビが驚いた顔で睦美を見るが、睦美はテーブルの上にドンと透明な箱を置く。


「カトリーヌさんから友情の証に貰ったの 」


「な、何ですか、これ? 」


 金田、伊織、牡丹が一様に驚いた顔をする。


「これはカバキコマチグモと云う毒蜘蛛の標本ですよ 私も欲しいですが、結構高価なんですよね 」


「忍さん、こんなの欲しいなんて変態なんですね 流石、女性でありながらガンマに乗っているだけあります 尊敬しちゃいます 」


 伊織から尊敬の眼差しで見られ忍はグフグフと嬉しそうに不気味な笑いをする。


「そうそう、ライダースーツでビシッと決めた藤林さんが、あの男の顔面を踏みつけた時には私もスカッとしましたよ 」


 楽しそうに話す金田を見て月夜は、その後あの男たちが殺されてしまった事は知らない様だなと思い至り、忍と目を合わせる。


「忍ちゃぁん、俺の顔もふんれぇーっ 」


「この大馬鹿ぁ、横になれ私が踏んでやる 」


 怒りに満ちた睦美が酔っ払った寅之助を横にすると、その顔面を踏みつけた。それを見て周りの酔っ払いからも睦美に声援が上がる。


「いてて、馬鹿、睦美 ヒールで踏むらと言ってるらろう それひパンツ見えてるろ 」


「このエロ馬鹿、どこ見てんの 天誅だ 」


 睦美は更に寅之助の顔をグリグリと踏みつける。


「し、師匠っ! 」


 牡丹が慌てて止めに入るが月夜たちは、まあまあ気にせず飲みましょうと、お酒を勧める。


「あの二人は変態だから気にしない方が良いですよ 疲れますから 」


 忍の言葉に牡丹も、そうなんですかそれならとホッケをパクパクと食べ始めた。彼女もなかなか図太い神経だと一同が認識する。


「最近、暗いニュースばかりで、なんだかこちらの気持ちも暗くなってしまいますね 」


 ビールを飲みながら金田がしみじみとした口調で呟く。


「でも、だからこそ気持ちは明るく持たないといけませんね 僕も幼馴染みを亡くしてしまいましたが、彼女の為にも頑張ろうと思います 」


 トビの力強い言葉に月夜と忍はホッと安堵した。睦美の言ったように、トビは芯は強い人間なのだと思い見直していた。


「そうそう課長 営業4課の雫石さんが痴漢で捕まって懲戒処分受けたって噂になっているけど本当なんですか? 」


「ふ、風魔さん 社内の不祥事を他の人の前で言うのは良くないですよ 」


「課長、相変わらず古いですよ ネットが普及した今の世の中で隠し事なんて通用しませんよ ガバナンス的にきちんと対処している方が信頼されますよ 会社の信用の方が大切だと思いますが…… それに、いくら功労者でもやってはいけない事をやってしまっては駄目ですよ 」


「そうですよ 金田さんの所の様な大きな会社でも対応を誤ったら信用なくしますからね 信用を失うのは一瞬ですが、取り戻すのは長い時間の積み重ねが必要になりますからね 」


 月夜も伊織に賛成し、他の皆もそうですよと後押しする。


「しかしなぁ、雫石さんが痴漢とは信じがたいよなぁ 4課の連中も、はめられたんじゃないかなんて言ってるしなぁ 」


 金田は、まだ信じられないと云う顔でジョッキをあおる。


「そりゃあ友人なら擁護するのは当たり前ですけどね でも、そんな擁護している人も同罪だと思いますよ だいたい、俺は関係ないって顔してますけどね 」


「伊織ちゃんは厳しいね その痴漢した人って、いかにもな人なの? 」


 ようやく寅之助を解放した睦美が、もつ煮をつつきながらジョッキを口に運ぶ。


「いえいえ 遣り手の営業社員で私も指導してもらったことがあって、社内では人気のある女性ですよ 」


「女性!? 」


 金田を除く全員が驚いた。そして、月夜と忍、睦美と牡丹の顔に、まさかという困惑の表情が浮かぶ。


「あのぅ、その女性ってグレーのスーツでビシッと決めて茶髪レイヤーボブで目が怖い感じの女性でしょうか? 」


 睦美の言葉で、そうそうと金田と伊織が頷く。


「なんだ睦美さん、雫石さんのこと知ってたんだ 」


「えっ、ええ その雫石さん捕まえたの私で、その痴漢の被害者が牡丹ちゃんなんです 」


 金田と伊織が驚くが、それ以上に寅之助が興奮していた。


「なんらて、牡丹ちゃんを痴漢した奴がいるぅ? ふざけんな、俺が成敗してやる 」


「ハイハイ あんたはもういいから飲んでな 」


 睦美が寅之助に酒を飲ませて大人しくさせると、金田と伊織が牡丹に頭を下げた。


「うちの社の者がご迷惑をかけて申し訳ない 気分を害したでしょうがお許し下さい 今度、わが社の代表にもお詫びに伺うよう伝えておきます 」


「あっ、いえ そこまでしてくれなくても大丈夫ですよ かえって迷惑かけてしまうようで 」


 牡丹が大事になりそうで尻込みして言うが、そこへ睦美が口出しする。


「牡丹ちゃん、ここは謝罪受けておきましょうよ 会社の方もきちんと被害者に謝罪したとなれば、逆に評価アップも期待出来るかもだし 不安なら私やチーフも同席するよ 」


「そうですよ 会社にも責任の一端はあるかも知れませんからね 雫石さん、出来る営業ですけど、それでかなりプレッシャーもあったみたいですから あっ、擁護する訳では無いですけど 」


 月夜も、事の成り行きに興奮していた。株式会社サイレンスの代表と接触出来る機会が出来た。今まで色々と探りを入れてきたが謎に包まれていた代表が向こうからやって来る。これは千載一遇のチャンスだと思えるが、まさかこれは全て睦美の仕組んだ事なのかと考えると、ここに来て“お刺身の船盛“を頼む睦美が恐ろしく感じられた。


「忍くん、持ち合わせ大丈夫か? 」


 小声で聞く月夜に忍も引きつった笑顔で答える。


「こうなったら、とことん飲みましょう まず腹ごしらえです 海鮮三色丼、お願いしまーす 」


 忍も睦美に負けじと大声で注文した。



 

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