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十九話 ツーリングに行こう5


 十九話 ツーリングに行こう5



 土下座して謝る男を見ながら忍は、思い出したとパンッと手をたたく。


「そういえば、あなた 私をさらって犯すとか言ってましたね 」


 男は更に地面に額を擦り付け、ひぃと悲鳴を漏らす。


「私の体はチーフだけのもの あなた如きは見る事も許されないですよ 」


 忍は男に蹴りを入れ、転がった男の顔面を踏みつけた。グフグフと笑いながら男の顔面を踏みつける忍を見て月夜は、忍くん怖いんだけど、と背筋が寒くなった。


「忍ちゃん、かっけえ 俺の顔も踏んで…… 」


 寅之助が、ふらふらと忍に向かって歩いて行く背後から睦美が蹴りを入れ地面に転がった寅之助の顔を踏みつける。


「この、おおばかぁ そんなに踏まれたいなら私が踏んでやる 」


「いててっ 馬鹿、睦美 ハイヒールなんかで踏むんじゃねぇ 」


「睦美さんも寅之助くんも、変態ですね でも、正一君も見てますから程々にね 」


 カトリーヌに言われ、睦美と寅之助は慌てて、はいカトリーヌさんと直立不動の姿勢をとる。正一が楽しそうに笑い出した。


「みなさん、本当に仲良しなんですね 」


 つい先刻まで顔を強張らせ蒼白になっていた明子の顔にも笑顔がもどった。金田一家に笑顔が戻った事を確認した月夜は、男たちの乗ってきたミニバンのスライドドアを開ける。


「もう、君たちは早く立ち去りなさい 」


 月夜は、軽々と五人の気絶した男をミニバンに乗せると、忍に踏みつけられている男を見る。


「あの毒蜘蛛に噛まれた男は救急車を呼んでおきましたから、心配いりませんわ あらっ、そこに蜘蛛が一匹…… 」


 カトリーヌが、ふふっと笑いながら忍に踏みつけられている男の手を指差す。男の手に一匹の蜘蛛がもぞもぞと動いていた。男は、うわっと悲鳴を上げ、忍の足を押し退けると転がるように走りミニバンに乗り込み急発進して逃げ出した。


「ただの女郎蜘蛛なのに、なにがそんなに怖かったんでしょうか…… 」


 カトリーヌが不思議そうに小首をかしげるが、睦美は、あなたですよ、あなたと心の中で突っ込んでいた。


 無事に救急車が着いて毒蜘蛛に噛まれた男を搬送させてから、金田一家と別れようとした月夜たちに金田が声をかける。


「本当にありがとうございました 私は金田と云います お礼をしたいので、是非お名前を教えてくれませんか 」


 月夜はニコリと微笑むと、お礼は結構ですがと言いながら金田に向かって最敬礼すると両手で名刺を差し出した。


「百地商会の高坂月夜と申します 」


 そして、他のみんなに向かい、ほら君たちも営業はいついかなる時でも営業を忘れないようにと言った。


「百地商会で”高坂の妻”の藤林忍と申します 」


 思わず月夜が、ぶほっと吹き出し、忍の顔を見るとグフグフと嬉しそうに笑っていた。


「同じく百地商会の、伊賀崎寅之助です 」


「その寅之助の妻の服部睦美です 」


 なぜか睦美も忍に対抗している。へっと寅之助も驚いた顔をしたが、満更でもない様子だった。


「僕も同じ会社の、加藤トビです そして、この娘が 」


「カトリーヌです 」


 カトリーヌは、そう名乗ると片足を引きスカートを両手で摘まむと膝を落とした。それを見て金田は息を呑む。


「素晴らしい品のあるカーテシーです 皆さんに助けて頂いたからではありませんが私は皆さんのファンになってしまいました 私も皆さんのお力になりたい 広告代理店の”株式会社サイレンス”に努めていますので、お力になれる事があると思います 是非、広告等のご用命は当社にお任せ下さい 」


 金田は、月夜の手を固く握りしめて熱く語った。月夜と忍、トビは思わず顔を見合わせる。”サイレンス”まさか偶然だろうと思いたいが少し心に引っ掛かるものがあった。それは、睦美や寅之助はともかく、月夜や忍、カトリーヌを見てもまるで動じていない事だった。しかし、今はこれ以上探る事はできない。


「それでは、後日また 」


 月夜たちが立ち去ろうとすると今度は正一が、待ってとトビに声をかけてきた。


「ねえ 僕もお兄さんみたいに成れるかな? 」


「どうして、僕みたいに? 」


「だって、お兄さん凄いよ 僕もお兄さんみたいにカトリーヌさんと…… 」


「君は勇敢なうえに賢いね 大丈夫、成れるよ 君が成ろうとする気持ちを失わなければ必ず成れる 」


 トビが優しく言い、カトリーヌが正一の頭を撫でた。


・・・凄いですね、あの少年 睦美さんや寅之助くんは理解していないというのに ・・・


・・・おそらく大人になると失ってしまう、少年の直観力だろうね ・・・


 月夜と忍は、うんうんと頷きあうと自然に手と手を握り合っていた。それに気付いた睦美がそっと寅之助の手を握る。


「んっ、どうした、睦美 」


 寅之助が睦美を見つめ、急に照れ臭くなった睦美は、ほら行きましょうと寅之助の手を引いて歩き出した。月夜と忍、それにトビとカトリーヌも続き、金田一家と別れた一行は自販機コーナーに入り、コーヒータイムとする。そして、再びバイクに跨り走り出した。睦美に怒られた為、今度は寅之助のエリミネーターを先頭に、トビのビラーゴ、忍のΓ(ガンマ)、月夜のGSXと続く。

 快適に高速道路を走っていた月夜の目に、路肩にハザードランプを点滅させて停車している白いミニバンが目に入った。


・・・チーフ、あの車 ・・・


・・・ああ、同じ車みたいだな 少し気になるな 忍くん、確認してくるよ ・・・


・・・あっ、私も行きます ・・・


 月夜と忍は路肩にバイクを停めミニバンに向かう。やはり先程のガラの悪い男たちのミニバンだ。サイドウインドウとリアウインドウはスモークが貼ってあり車内が見えない為、フロントウインドウから覗いてみると……。


「死んでますね…… 」


 忍の言葉通り、車内の男六人全員がこと切れていた。


「チーフ、さっき殺してないですよね? 」


「ああ、殺すまでもないだろ 忍くんも殺してなかったよな 」


 忍もこくりと頷く。となると気になるのは……。


「まさかな…… 」


 月夜と忍は、顔を見合わせた。



 * * *



 快適に車をドライブし、金田は鼻歌を歌っていた。


「あなた、今日は朝から刺激的な一日ですね 」


 妻の明子が金田に言う。正一は後部座席で、すやすやと寝入っていた。


「ああ、面白い人たちに出会えて、いい一日になりそうだ 」


 金田は上機嫌で、また先程鼻歌で歌っていた曲を口ずさむ。隣で明子も同じ歌を口ずさみ始めた。二人は何時までも楽しそうに「サウンド・オブ・サイレンス」を口ずさんでいた。


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