十六話 ツーリングに行こう2
十六話 ツーリングに行こう2
日曜日の早朝、JRの駅のロータリーで寅之助はバイクを止め睦美を待っていた。リーバイスの510にごついワークブーツ、黒い革ジャンにSHOEIの黒いジェットヘルにサングラス。普段の寅之助もワイルドな雰囲気だが、バイクに乗る時の寅之助はさらにワイルドな感じだった。隣に止めてあるバイクも、黒のKawasakiのエリミネーター750。ワイルドな寅之助に似合うワイルドなバイクだ。寅之助は腕時計を見ると、睦美と待ち合わせの時間まで、まだ10分ある。寅之助は、自販機で缶コーヒーを買って飲んでいると後ろから、待ったぁという元気な睦美の声が聞こえた。
「少しな 睦美も飲むか? 」
振り向いた寅之助は睦美の姿を見て硬直する。睦美は、黒の革ジャンに同じく黒い革のタイトミニスカート、黒いレギンス、黒いハイヒールでバシッと決め、化粧も普段出勤時のメイクとは異なり、グッと派手目に決め、赤い唇がニコリと笑っていた。
「睦美、だよな? 」
寅之助は、どぎまきしながら睦美を上から下まで見つめる。
「何、おっさんみたいな目で見てんのよ コーヒーはいいから早く行こうよ みんな、もう待ってるかもよ 」
「俺、バイクで行くって言ったよな 」
我に返った寅之助が、睦美の姿を見て改めて尋ねる。
「当り前じゃない みんなでバイクでツーリングでしょ 」
「でも、スカート…… 」
「はあ…… あんたが喜ぶと思ったから穿いて来たんじゃない スカートでバイク乗っちゃいけないの 」
「いや…… 睦美、サイコー 俺、惚れなおした 超かっけえ 」
寅之助は、睦美に向かって親指をグッと突き出し満面の笑みを贈った。睦美も嬉しそうに微笑み返す。
よし出発だと寅之助はエリミネーターに跨り、キーを捻るとセルボタンを押した。きゅるるとセルモーターの回る音に続き、水冷4サイクル4気筒のエンジンが目覚め低く太い排気音を早朝のロータリーに轟かす。睦美も寅之助の持ってきたジェットヘルを被るとエリミネーターのタンデムシートに跨った。
「行くぞ、睦美 しっかり掴まってろよ 」
睦美が後ろから寅之助にギュッと抱きつくと、寅之助はクラッチを握りギアを踏み込んだ。そして、エリミネーターを高速道路のインターに向けて発進させる。早朝の気持ち良い風が二人を包んだ、
今回、それぞれ別々に出発し、高速道路に入ってからパーキングエリアで集合する段取りになっていた。寅之助は睦美を乗せ、高速道路に乗るとアクセルを開け快調に飛ばしだした。(注・寅之助は22歳で、免許取得後5年は経過しています)高速道路は寅之助の乗るエリミネーターのもっとも得意とするステージだ。二人を乗せて快適に高速道路をクルージングする。初めてバイクのタンデムに乗る睦美も気持ちが高揚してきた。
「気持ちいいぃぃーーーっ 」
睦美がタンデムシートで声を上げる。寅之助も、なんか今日の睦美、超可愛いじゃないかと最高の気分だった。そして、しばらく走るとパーキングの標識が見えてきた。寅之助は、パーキングへの入り口を減速しながら入り、駐車場の外れの一角にある二輪車用のスペースにエリミネーターを停めた。まだ他のバイクは停まっていなかったので寅之助と睦美が一番乗りのようだ。
「寅之助、バイクって気持ち良いね 」
睦美が興奮した顔で嬉しそうに寅之助に言い、寅之助もそうだろうウンウンと嬉しそうに睦美を見つめていると、ドドッドドッとバイクの音が近付いてきた。そして、寅之助のエリミネーターの脇に停まった。空冷VツインのYAMAHAビラーゴ250。睦美たちは、誰かなと思ったが、ビラーゴのタンデムシートに座る人に気付き、今回タンデムは自分たちだけなので他のツーリングライダーだと思い、今度は睦美が何か飲みたいというので自販機まで歩き出そうとした。
「お早うございます 睦美さん、寅之助くん 」
えっこの声はと二人が振り向くと、案の定ヘルメットを脱いだトビが立っていた。Edwinの403にアシックスのスニーカー、カドヤのワイン色のレザージャケットを着て、やはり普段のトビとは違う印象だった。それにしてもと睦美と寅之助は、トビの顔とビラーゴのタンデムシートに座る人を交互に見比べる。
「ああ…… 紹介しますね 」
トビがタンデムに座る人のヘルメットを脱がすと、金髪がさらりと零れ落ちる。
・・・が、外人さん? ・・・
二人が見ているとトビがその金髪の人を両手で持ち上げビラーゴから降ろす。そして、睦美と寅之助の前にやって来た。
「カトリーヌです よろしくお願いします 」
カトリーヌの口がパクパク動き、二人に挨拶するが、その姿は近くで見ると紛れもないビスクドールだった。金髪でつぶらな大きな瞳の可愛いカトリーヌが、二人を見つめウインクする。二人は少し怖くなり、手と手を握り合っていた。
「今日は御一緒させていただきますね 」
またカトリーヌが可愛い声で喋る。二人はかなり怖くなってきたが、トビは嬉しそうにカトリーヌと腕を組み、ヒヒヒッと笑っている。
そこへ、フォフォーーと180度クランク特有の不連続の排気音を響かせてバイクが一台パーキングに入ってきた。そして、それに続いて今度は甲高い2サイクルエンジンの音を撒き散らし、もう一台バイクが入ってくる。二台のバイクのライダーは睦美達に手を上げると揃ってトビのビラーゴの隣に停め、スチャッとスタンドを出しバイクから降りた。一台はSUZUKIGSX400E、もう一台は同じくSUZUKIのRG250Γだった。降りてきたライダーの一人はクシタニのレザーパンツにアルパインの黒いライダーブーツ、そして、クシタニのライダージャケット。もう一人の小柄な方は、やはりクシタニの黒いレザージャケットとパンツ、そして、クシタニの黒いブーツで統一していた。バイクから降りた二人はヘルメットを脱ぐと睦美たちに向かって歩いて来る。月夜と忍だった。
「お早う 高速走ってたら、ちょうど忍くんが後ろから来たから一緒に来たんだ 」
「お早うございます みなさん、早いですね おやっ…… 」
笑顔で三人に笑いかけた忍がカトリーヌに目を止める。
「お早うございます カトリーヌです 今日は一日よろしく、忍さん 」
またカトリーヌが喋り、睦美と寅之助はどういう事と抱き合って震えていたが、忍はカトリーヌの前にしゃがみ込むと、よろしくカトリーヌと言ってから立ち上がり、トビに顔を向ける。
「凄いですね、トビくん 腹話術も一級品ですね 」
「そうだな 僕たちも”空蝉”の応用で腹話術やるけど、トビくんには敵わないな 」
月夜も忍も、トビに脱帽する。
「それほどでもございませんが、嬉しいです 」
カトリーヌが可愛い声で嬉しそうに言うと、恥ずかしそうに顔を伏せた。睦美と寅之助は、そのカトリーヌの仕草を啞然として見ていた。




