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十四話 月夜と忍、その後


 十四話 月夜と忍、その後



 月夜たちは、匂いを追って敵のアジトを突き止めようとしたが、それは抜け目なく”サイレンス”によって消されてしまっていた。三人も今日は撤退する事にし、月夜と忍は水無月の知り合いの病院へ行き、忍の足の治療を行い、水無月は公園のトビの元に戻り、炎月と二人でトビとハナを送り届けるという段取りに決まった。


「忍くん 痛むか? 」


 治療の済んだ忍を背負いながら月夜が尋ねると、大丈夫ですよチーフ、明日は日曜日なのでゆっくり休めば月曜日は会社に行けますと元気に答え、月夜の背中に体を押し付けるとグフグフと不気味に笑った。一瞬寒気がした月夜だったが、忍をアパートまで送っていくため、屋根の上をトントンと軽快に飛んでいき、あっと言う間に忍のアパートに到着した。


「カギは、そのガスメーターの上です 」


 月夜はカギを取りながら、こんな分かりやすいところに置いて物騒じゃないのかと思ったが、ドアを開け中に入り月夜は驚愕した。


・・・何もない ・・・


 月夜の部屋も質素だが、音楽を聴くためのステレオや机や椅子、ラジオ等が置いてあるし本棚には本も並んでいる。しかし、忍の部屋には何もない。テレビやラジオは勿論、冷蔵庫や洗濯機、机やテーブルも見当たらなかった。あるのはガステーブルと調理器具と食器くらいの物だった。


・・・忍くん、ミニマリストなのか ・・・


 何もないとダイニングも六畳の和室もやけに広く感じられた。月夜は和室に忍を座らせると、押し入れの下段から布団を出し床を作る。上段には衣服がかかっていた。そして、忍を布団に寝かせると、ゆっくり休みなさいと言い窓から立ち去ろうとすると、忍が月夜の足を掴んでいた。


「もう少し居てください…… 」


 忍が月夜を見上げて言う。月夜は振り向き、忍の枕元に腰を下ろすと忍の顔を見る。


「忍者は孤独に耐える事を生業とする 」


 ポツリと呟く。忍は、私もそう教えられましたと言いながら掴んだ月夜の足は離そうとしなかった。月夜はそんな忍の頭を撫でるとニコリと微笑む。


「僕は思うんだ、忍くん 確かに孤独に耐える精神力がなければ駄目だ でも、人の力というのは、人を想う力で強くなるんじゃないか 現に今日も僕はさっきも言ったと思うけど忍くんが居たから”サイレンス”と対峙出来た 人を想う事によって一人では無理な限界を超えた力を出せると僕は思うんだ だから、現代の忍者は敢えて孤独である必要はないと思う 」


「私もそうですよ、チーフ あの相打ち狙いだって、私が失敗してもチーフが必ず倒してくれると思ったから出来たんです 私一人なら”サイレンス”が言ったように三秒で殺されていたでしょうね 」


「僕たちはまだまだ成長過程という事だな 」


 月夜と忍は顔を見合わせて笑った。


「今夜はずっと一緒に居て下さい チーフが居てくれれば安心して眠れますから…… 」


 忍が相変わらず月夜の足を掴んだまま言う。おいおい逆に危険かもしれないぞ、忍くんと月夜は言いたかったが、すでに寝息をたてている忍を見るとそっと寝かせてあげようと忍の手を離すと自分も横になった。しかし、月夜は結局一睡も出来なかった。忍のイビキが爆音の様に聞こえ、間髪入れず膝蹴りや裏拳が飛んでくる。忍くんは寝相の悪さも一級品だな。月夜は苦笑いするしかなかった。


 翌朝、月夜が家に戻ると父親の炎月が、おお月夜、朝帰りかと喜び、母親の水無月も、忍さんと一緒だったのかいと、赤飯でも炊きかねない勢いで尋ねてくる。月夜は何か言うと面倒な事になると察し、”サイレンス”の事に話題を振る。


「母さんは”サイレンス”を知っているのですか? 」


「くノ一に憧れてた昔、一緒に修行した事があるのさ ただその時からあいつは素顔を見せた事はなかったね その修行時代は父さんも一緒だったけどね 」


「なんだ、月夜 あいつと何かあるのか? 」


 父親の炎月も会話に加わってくる。


「この頃、強盗殺人事件が頻発しているじゃないですか それを裏で操っているのが”サイレンス”なのです 」


 えっと炎月と水無月は驚いた顔をし、顔を見合わせる。


「やっぱり、あの時始末しておけば良かったわね 父さん優しいから…… 」


 えっと今度は月夜が驚く。


「どういう事ですか 何があったんです 」


「あいつは昔から危険な奴だったんだ それで俺と母さんで、あいつを追い詰めたんだがな…… 」


「改心するから許してくれって言う言葉を、父さんが信じてあげて助けたのよ 」


「まだお互い若かったからな やり直せると信じたんだが…… 今、思えばあれは”言霊”だったのかもな 」


「”言霊”? 」


 月夜が訊き返すと、水無月が説明する。”言霊”は言葉の力、発した言葉で相手を操る事も出来るのよ。元々”サイレンス”は陰陽師の系統らしいから、忍術の他にも独自の術が使えるらしいわ。そもそも、1000年以上前の”修験道”を起こした”役小角”から、精神修行に特化した陰陽師、肉体修行に特化した忍者と別れていったのよ。だから、昔は陰陽師と忍者で協力して仕事に当たる事も多かったらしいわ。

 月夜は、母・水無月の言葉になるほどと頷きながら”サイレンス”の得体の知れない怖さはそこなのかも知れないと考えていた。



 * * *



 月曜日の朝、月夜が会社に向かって歩いていると、チーフと呼ぶ声が聞こえ、振り向くと黒髪を揺らし忍が駆け寄ってきた。


「お早うございます 」


 月夜も、お早う足は大丈夫かと返すと忍はグフフと笑いながら月夜のスーツの袖を掴んできた。


「ど、どうしたんだ、忍くん? 」


「足はもう大丈夫です、チーフ 」


 忍は、さらに月夜にくっつき腕も組んできた。グフ、グフフと笑いも絶えない。そして、月夜の顔を嬉しそうに見つめてくる。


「し、忍くん 僕も嬉しいけど、もうすぐ会社だから…… 」


「どうしてですか、チーフ もう私たち、他人じゃないですし…… 」


「そうだな…… よし、堂々と行こう 」


 確か社内恋愛禁止の就業規則はなかったよな、月夜は考えながら忍と腕を組んで歩いていく。今まで目立たない様にと生きてきたけど目立ってしまいそうなのが怖かったが、忍と一緒ならいいだろうと明るく考える月夜だった。


「お早うございます 」


 元気に声をかけてきた睦美が腕を組んで歩く二人を追い越してから、あれっという顔で振り向く。


「えーーっ チーフと忍さん 」


 目を大きくして二人の顔を見つめる。


「まさか、あの歓迎会の後…… やるじゃないチーフ、こんな若くて可愛い忍さんを手に入れるなんて…… 」


「えーーーっ忍ちゃん、どうして…… 俺、好きなのに…… 」


 いつの間にか近くで睦美の言葉を聞いた寅之助がショックで固まっていた。そこへ睦美の平手が寅之助の頬に炸裂する。バチーンと大きな音が響き、寅之助の頬が赤くなる。


「なにすんだ、睦美 俺はショックを受けてんだ 忍ちゃんを中年のおっさんに盗られて…… 」


 忍はまたグフフと不気味な笑いを浮かべると、月夜にぎゅっと抱きついた。月夜は寅之助に、おっさんと言われてショックを受けていた。


「うわーっ 」


 寅之助は月夜に抱きついている忍を見て絶叫し地面に崩れ落ちる。そこへ今度は睦美の蹴りが入った。睦美の蹴りがきいたのか寅之助が涙ぐむ。


「寅之助ぇ、どの面下げて言ってる 」


 ぷんぷんと睦美は怒り心頭だった。忍はまだ嬉しそうに月夜に抱きついていた。


「天下の往来で朝っぱらから何やっているんですか 」


 トビが呆れたように4人を見ていた。そこで4人は、出勤時間に合わせてぞろぞろと歩いて来る同僚たちの好奇の目に晒されている事に気付き、お早うございますと何事もなかったかの様に挨拶し、そのままスタスタと歩き出していく。


・・・この人たち、すごい心臓だな ・・・


 呆れるよりも、感心しているトビがいた。



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