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十話 新人歓迎会


 十話 新人歓迎会



「チーフ、今度新人歓迎会をやろうと思うのですがいいですか 忍さんの時やりそびれたし、ちょうどトビ君が入ったので 」


「ああ、今、仕事も立て込んでないし、大いにやってくれ 」


「じゃあ、忍さんとトビ君に伝えますね 寅之助はいつでもオーケーだろうし 」


 そこで、睦美の目がきらりと光る。


「チーフも参加してくれますよね 」


「僕が…… いや、僕が行くと気を使ってしまうだろう 君たちだけでやっては…… 」


 月夜の言葉を遮るように、睦美が言葉をかぶせてきた。


「いいえ、誰もチーフに気を使いませんよ それに、チーフは人気者なんですよぉ 忍さんやトビ君も懐いてるじゃないですかぁ 」


 やけに粘る睦美を見て、月夜はピンときた。なるほど、お金か、まったく睦美くんは抜け目ない、月夜は腕を組んで考える振りをする。今まで大概、月夜が参加した時は彼が支払っていたのでそれが目的とみてとれた。月夜は、頭の中で今月の自分の収支を計算する。そして、なんとかいけるだろうと判断し、睦美にオーケーと答えると、睦美は小躍りして自分のデスクに戻っていった。


・・・僕の給料、君たちとあまり変わらないんだけどな ・・・


 月夜は苦笑いするが、可愛い部下たちが喜ぶなら仕方ないかと気持ちを切り替えた。


 そして、その日の夕方には睦美が日程と場所決まりましたと月夜に言いに来た。さすがに睦美くん、仕事も早いけど、こういうのも早い。月夜は睦美の全てにおいてフットワークの良さに感心した。



 * * *



 海鮮居酒屋・半蔵と大きく看板の出た店の前に月夜たちはいた。


「いい名前の居酒屋じゃないか 」


「そうですよね 私がこのお店に来ると”服部半蔵”になるのです 」


 睦美が鼻を膨らませて言うが、寅之助は冷めた表情で、誰それと呟いた。


 まず全員生ビールで乾杯し、つまみの選択に熱中する。


「好きなモノ頼んでいいけど、あまり高い物は遠慮してくれな 」


「はーい、チーフ 心得てますよ 」


 睦美が元気に答え、ほっけとししゃもとお刺身盛り合わせの特上もと次々に注文していく。本当に心得ているのか睦美くん、月夜は不審感を抱かずにはいられなかった。それに、寅之助も、俺はブリカマと鯵のたたきとばんばん注文していく。月夜は大枚の支払いを覚悟したが、隣を見ると忍とトビがメニューを見たまま固まっている。


「どうした 君たちの歓迎会だし、好きな物頼んでいいぞ 」


 月夜が言うと、二人ともこういうお店は初めてなので何頼んでいいのか分らないと困っていた。


「それなら 気になった物を頼んでみればどうだ 」


「じゃあ、私は”ハチノス” 」


「僕は”豚足”で 」


 またマニアックな物を、こいつら字面だけで選んだなと思いつつ、この居酒屋”海鮮”と謳ってるのに、”ハチノス”や”豚足”も置いてるとは只物ではないと、月夜はさすが半蔵と感心した。


「だいたいさぁ、友達を裏切る先生が悪いんだよ 俺なら絶対友達は裏切らない 」


「あんた、飲むペース早過ぎ 少しは食べなさいよ ほらっ 」


 睦美は酔っぱらった寅之助に、刺身を一切れ箸で摘まみ口に入れてあげた。


「私も先生は嫌いだわ あれじゃ何も知らないお嬢さんが可哀想すぎる 」


 どうやら、この前の漱石の話をしているようだ。うんうん仲が良くて結構だが、この二人の歓迎会だから、こいつらも話に入れてやれよと隣の二人を見ると、運ばれてきた”ハチノス”と”豚足”を見て、これは何と固まっていた。


「そうだ、トビくん ドールの面を作るって言ってたけどどうだい進み具合は 」


「ええ、もうほぼ完成ですね あとは色付けだけです 可愛くしてくれとか注文うるさいんですよ 」


 トビは豚足と格闘しながら、それに今度は手足も作ってくれと言ってきて大変ですと言いながら楽しそうだった。


「手足って、義手や義足って事? トビくん、作れるの? 」


「僕、からくり人形も好きなんですよ だから、チャレンジしてみようかと 」


「おお、チャレンジは良い事だ 頑張れ 」


 月夜も目を輝かせて言った時、忍が月夜の足をトントンと突いた。そして、声を出さずに唇の動きだけで話しかけてきた。


・・チーフ、あの奥の四人 ・・


・・忍くんも気付いたか なにか怪しい奴らだな ・・


 月夜たちのテーブル席から、三つ先、店の一番奥のテーブル席に四人の男が座ってビールを飲んでいる。一見、仕事帰りの会社員風だが、その身のこなしから普通の会社員とは月夜には思えなかった。


・・読めるか、忍くん ・・


 月夜の席からは男たちの口元が見えないが、忍の位置からは見えそうだった。


・・あのばばあ、たんまりかねもってるそうだ ・・


 忍が、こちらを向いてる男の唇の動きから内容を読み取る。


・・けっこうは ・・


・・さいれんすのしじまちだな ・・


 ”サイレンス”忍と月夜は顔を見合わせた。


・・あの男たちの居場所と、狙う所を突き止めたいな ・・


 月夜と忍が思案しているうちに、男たちは席を立ち会計を済ませようとしていた。忍が、私が追跡しますと席を立とうとしたが月夜が止める。


・・今日は忍くんの歓迎会だ 君は残りなさい、僕が行く ・・


 月夜が席を立ち、それじゃあ僕はこの辺で、会計は済ませておくからと言うと、睦美が月夜の腕に縋り付いてくる。


「駄目ですよ、チーフ まだ序の口ですよ 二次会三次会もあるんですから チーフが居ないと・だ・め・ 」


「そうだよ、チーフ たまには俺たちと付き合ってよ 」


 二人の酔っぱらいに絡まれて月夜は途方に暮れ、忍の顔を見る。すると忍は小さな笛を取り出した。


・・この犬笛でハナを呼びます ハナに頼みましょう ・・


・・ありがとう 助かる ・・


 月夜はホッとした。”サイレンス”の犯行が行われると知った以上なんとしても阻止しなければならない。あの、ハナが追跡してくれるなら間違いないだろう。月夜は席に戻るとバーボンのロックを口に入れた。


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