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家庭菜園始めました

 [家庭菜園始めました]



 それから少し学校に慣れ始めた頃

「ねえ、菜乃介君、お願いがあるのだけど今いいかしら?」


「管理さん、いいですよ」

「私今すぐ行かなくちゃいけない用事があるから、庭で育てている野菜や花たちに水をやってあげてくれないかしら?」


「は、はい分かりました」

「土にだけ水をあげてね」

「はい」


「じゃあ、行ってくるわ」


 今まで食べるだけの野菜たちに水をやった。

 その時はただ任されたから、管理さんが育てているものを台無しにしてはいけないと思いから一日中観察していた。


 そうしている内に植物たちに愛着が湧き、自分が水をやったことで生き生きする姿を見るのが好きになった。


 それから、管理さんの手伝いを始めた。


「今日も手伝ってくれてありがとうね」

「いいえ、俺も好きでやっていることなので」


「ほぇ~、相変わらず頑張ってるね~、乃介」

 ぷりんが窓から話しかけて来る。


「菜乃介だよ。君も甘い物ばかりだけじゃなくて野菜を食べたらどうだ?」

「え~、苦いし嫌い!」


「そんな子供みたいなこと言って」

「じゃあ、また学校でね」

 そう言うとそそくさと窓から離れる。


「そう言えば、入学して早々だけど、菜乃介君もう高校三年生でしょ? 進路とかはどうするの?」

「はい、出来れば農学を学べる大学に行きたいです」


「そう、君なら出来るわ」


 それから、しばらくして突然発生した大型台風が俺たちの地域に直撃する。

 俺が一番心配したのは野菜や花たちだ。

 凄まじい生命力を持つ植物たちだが、同時に繊細なものでもある。


 大量の雨や、強風に晒される植物たちのことを思うと胸が締め付けられる。


 俺は迷うことなく外に出ようとする。

 しかし、それを管理さんが止める。


「行かせて下さい!!」

「ダメよ、危険だわ!」


「俺のせいなんです」

「え?」


「人間界に来て野生の勘が薄れてしまった。普段なら急な台風の予兆を感じ取れたのに、だから俺が気付いていればビニールを被せて対策出来たんです。俺の責任です」


「そんなことない、あなたのせいじゃないわ」

「可哀そうなんです。行かせて下さい」


「ダメよ、外はかなりの強風、許可出来ないわ」

「っっ」


「植物はまた育てればいいじゃない」

「……嫌です。俺たちは自分たちの都合で彼らを育てて始めた。だからこそ、最後まで責任を持って守りたいんです!! ここで見捨てたらただの自分のことしか考えていないってことになるじゃないですか!!」

 そう言い、俺は庭に出た。


「もう、若いわね」



「クソ! 風が強すぎる!」

 俺は必死に植物たちに保護用のビニールを被せようとするが、一人ではビニールが風に飛ばされて何も出来ない。


「俺は何も出来ないのか?」

 するとその時、背後から誰かの足音が聞えた。


「こんなときも頑張ってんだね、()()()

 なんと普段俺の家庭菜園に全く興味を示さなかったプリンがそこにいた。


「え⁉ ぷりん、どうして君がここに?」


「いいから、何をやればいい?」

 ぷりんが真面目な顔で聞いてくる。


「じゃ、じゃあこのビニールを持っていてくれ」

「分かった」


 風が強いながらも、俺たち二人は必死になって保護用のビニールを設置する。

「ごめん、ぷりんまだまだやらなくちゃいけないものがあるんだ」

「いいよ、やろう」


「おーおー、頑張ってんな、俺も混ぜろよ」

「え?」

 俺が振り返るとそこにはマッスルの姿が、そしてそれだけでなくシェアハウスの皆がぞろぞろと出て来た。


「み、皆、どうして?」

「そこのぷりんに頼まれたんだよ、さぁ時間がねえさっさとやるぞ!!」


「あ、ありがとう」


 こうして、無事台風から植物たちを守ることが出来たのであった。



 次の日、ぷりんは風邪を引いた。

 俺はお見舞いに行く。


「今、入っていい?」

「いいよ~」


 扉を開け、ベットで寝るぷりんの傍に近づく。

「昨日は、ありがとう。そしてごめん」


「どうして謝るの?」

「だって、その風邪昨日のせいだろ?」


「ふふ、そう思うのなら何かないのかな?」

「そう言うと思って、いっぱい買って来たよ。()()()


「分かってるじゃん♪」

 そう言うと、早速食べ始める。


「ねぇ、なんで昨日手伝ってくれたの?」

「ん?」

 不思議そうな顔でぷりんはこちらを見ている。


「いや、あんなに野菜嫌いなのにどうして助けてくれたのかって」

()()()にとってのプリンでしょ? あの野菜や花は、それ以外に理由なくない?」

 ぷりんは当たり前のような顔でそう言った。


「……本当、人間って面白い」

 俺はそう呟いて、この世界に来て良かったと思った。

読んでくれてあざす

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