表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/22

7話

「はい、起きて」


捕まえた暗殺者を私室にまで連行した私は、そのまま床に投げ捨てると、足で小突く。

幸い…といっていいのかはわからないけど、ここに来るまでは誰ともすれ違わなかった。

もちろん部屋に入った瞬間、侍女たちには私が見るからに怪しい男を気絶させた状態で運び込むのをばっちり見られている。


「しばらく尋問するから出ててちょうだい」


って言ったら我先にと出ていったけどね。

けれど、メリッサだけは残った。

メリッサ曰く、


「王妃様を、どことも知らない男性と二人っきりにはできません!」


とのこと。

まぁそれはそうね。一理あるわ。


というわけで、観客メリッサありの元、まずは暗殺者を起こすことから始まった。


「お~き~ろ~」


そのまま暗殺者を床の上でゴロゴロ。一応私殺されかけたわけだし、こういう扱いをしてもいいと思うの。

ころがせ続けたら、勢いがついてそのまま壁にぶつかってしまった。


「ぐぁ!」

「あ、起きた」

「…こ、ここは…」


さて、ここからね。


本来なら命を狙った暗殺者なんて、警備隊につきだせばいい。

でも、私はこの国にきて二日目の新参も新参。

そんな私からすれば、この国のすべてが信用できない。

この暗殺者にしたって、誰からの指示なのか?

それが高位貴族…この国の上層部が絡んでいれば、警備隊に突き出したところで逃げられましたで済まされかねない。

そんなことを許すつもりはない。

さすがにアルディが絡んでいるとは思わないけど、さっきの練兵場での件も見るに、彼の地盤も盤石とはいいがたい。

となれば、暗殺者が誰の依頼で私を暗殺しにきたのか、私自身が聞き出すのが一番いい。


「おはよう。目覚めはいかが?」

「…最悪だ」


見下ろす私と、見下ろされる暗殺者。

この絶対的立ち位置に、この暗殺者はどう抗ってくれるのかしら?これからの時間を思うと、つい暇つぶしができてうれしく…もとい、楽しく……うん、楽しくなりそうね。自分に正直に。


「さて、クイズ。これからあなたは私にどうされるでしょう?」

「なんだ、男に飢えてるのか?」

「…3点。挑発したいならもうちょっとひねりなさい」


つい呆れた表情になってしまう。

まぁこのくらい軽口叩けるようなら問題ないわね。


「あなたの依頼主は?」

「………」

「どうして私を殺そうとしたのかしら?」

「………」

「あなたは一人かしら?チームは?」

「………」


あらら、今度はだんまり。それじゃあつまらないのよねぇ。

肉体に問い詰めてもいいけれど、この様子じゃ死んでも吐きそうにないわね。

というかそれじゃあ尋問じゃなくて拷問ね。


「う~ん………」

「………」


ダメだわ、私、尋問向いてない。策略家って感じじゃないし。

前世皇帝にしても、そこまで智謀策謀を巡らせるタイプじゃなかったし。

むしろそういったのを見破れなくて……ああ、ちょっと自己嫌悪。


「ねぇ、どうやったらあなた吐く?」

「…対象にそんなことを聞く奴は初めてだ」


顔は無表情だけど、呆れられた感満載。まぁそりゃそうね。


「でしょうね。で?」

「………」


まーただんまり。うーん……


そこで私は考える。


………


………………



別にどうでもよくない?


仮に誰からの依頼とかわかったからといって、じゃあどうするのっていうの?

アルディに言えば叩き潰してもらえるだろうけど、別にそんなこと望んでもないのよね。

叩き潰すなら私が自らやるし。


そう思えば、そもそも目の前の暗殺者を捕まえてくること自体、何の意味もないんだと気づいてしまった。

何の意味もないなら、とっとと逃がしてもいいんじゃないかしら?


「んー……」

「………」


悩む私。その私を前に、落ち着いた様子を崩さない暗殺者。

拷問も好きなわけじゃないし、別に人を殺すのもいたぶるのも好きでもないわ。

でも、命が狙われたのに何もしないってのも癪なのよね。


バン!


そのとき、扉が乱暴が開け放たれた。

扉の先にいたのはアルディだった。


「はぁっ、はぁっ…」


あら、息を切らしているなんて珍しい…のかしら?

アルディの目が私を、そして次には床に転がった暗殺者に。そしてまた私に戻ってきた。その目は、心底安堵したようだった。

…なぜ?


「あら、アルディ」

「はぁ、…ふぅ……この状況の説明をお願いできますね?」


安堵を浮かべていた目は一転、黒い光を携えていた。あら、こわい。

説明、ねぇ…。


「中庭で休んでたら暗殺されそうだったから返り討ちにしたの。今は尋問の途中よ」


おまけとばかりに暗殺者を小突く。が、ちょっと加減を間違えたらしい。思ったよりも勢いが付いた暗殺者は壁とそれはもう熱烈なキスを交わした。

それを見ていたアルディは、黒い光の瞳を潜ませ、代わりに呆れたような目線をよこした。


「はぁ…あなたが強いのは分かっています。ですが、だからといって単独で暗殺者を返り討ちはやめてください」

「暗殺者相手に複数で立ち回れるわけ無いでしょう?」


そもそも複数でいるところを襲いに来る暗殺者がいるのかしら?

と、正論を返したら黒い光復活。おっと失言だったわね。


「私が言いたいのはそういうことじゃないんです」


そういいながらアルディは部屋の中に入ってくる。そして私の手を両手で握りしめた。

アルディの青い瞳がまっすぐに私の目を見つめてくる。その表情は真剣だ。


「あなたにもしものことがあったら心配なんです」


その言葉に私は目をパチクリさせてしまった。

私に?もしも?心配?

黄金の死神の鎌と呼ばれた私のことが心配ですって?

…別に心配されたことが無いわけじゃない。お母様はいつも戦場に私が行くことを渋るし、お父様だってそう。

だけど、なんだろう。……もしかしたら私、家族以外から心配されたのは初めてかしら?


あら?何かしら、ちょっと鼓動がうるさいような。

いえ、気のせいね。


「ご心配ありがとう、とだけ言っておくわ」

「いいえ。それで、この暗殺者は私が預かっていいですね?」


あらもう決定事項のような言いぶりね。異論はないんだけど、でもそれじゃつまらないってさっき思ったばっかりだし。


「せっかくのおもちゃをただで渡すのは気が引けるわ」

「…暗殺者をおもちゃ扱いしないでください」


……そう、おもちゃ。

あ、いいこと思いついちゃった。


「ねぇアルディ」

「ダメです」


即返された。


「何も言ってないわ?」

「あなたの顔を見ればろくでもないことを思いついたのが分かります」


失礼ね、どんな顔だっていうのかしら?


「ものすごく楽しそうな顔をしてます」

「私が楽しそうにしているのはイヤ?」

「あれがいないなら喜んでましたね」


あれが何とは言わずもがな。

やっぱりあれ…暗殺者関連なのは感づいてるわよね。

ふむ、ここはこの手しかないわね。


「ねぇアルディ」

「ダ…!?」


繋がれたままの手をぐっと引き寄せる。

力で敵うはずもないアルディは引き寄せられるがまま、私の眼前にまで迫る形になる。


「ね~え?」

「ダメです」


この程度じゃダメか。じゃあちょっと猫なで声でもしてみようかしら。


「お願い…聞いて?」

「…暗殺者にかかわること以外ならなんなりと」


チッ、ピンポイントで外してきやがったわね。でもここで引くわけにはいかないわ。

私の暇つぶしのために。


「この暗殺者ちょうだい」

「暗殺者以外と言いましたよね?」


呆れられたけど気にしないわ。

結構大事なことなんだもの。

私は表情を引きしめ、アルディの瞳を見返す。


「あなたの部下は信用できない」

「…………」

「誰なら信用できると思う?自分で屈服させたものしか信用できない。当然じゃない?」

「それは……」


侍女たちにしてもそう。侍女たちを信用するのは、彼女らを屈服させたから。

だから、アルディが付けた者は信用できない。

だって…


「わたしは、あなたも信用していない」


アルディを信用できるのはいつ?もう答えは出てるもの。


「あなたを屈服」

「違います。私がリリスを屈服させるんです。いえ、違いますね」


さらに顔を寄せたアルディはそのまま私の耳元に唇を寄せてきた。

そしてそっと囁く。


「リリス、あなたに私を愛させてみせます」

「っ」


耳にかかる吐息がくすぐったい。

愛させてみせる、ですって?ずいぶんと大きく出たじゃない。

口元が笑みを浮かべてしまう。

面白い、やっぱりこうこなくちゃ。


『黄金の死神の鎌』に啖呵を切ったこと、後悔しないでよ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ