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元皇帝の転生令嬢は敵国の王に溺愛される  作者: せい


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21話

「リリス様…いえ、ラディカル国王妃様。我が国の窮地を救っていただき、まことに感謝申し上げます」


そう言ったのは、シリウス帝国のウィリアム将軍。

特筆すべきところは特にない、平凡といった侯爵家の人間。


「…ですが、我がシリウス帝国にラディカル国の兵がいる。これは正式な手続きによるものではない、そうですな?」

「ええ、もちろん。我が国、ラディカル国国王の独断よ」

「っ…!」


我が国、というところを強調しておく。

ラディカル国国王の独断と聞いて、ウィリアム将軍は言葉を詰まらせた。

つまり、眼前の兵は立派な領土侵犯だ。

しかし、それをどうにかする力はシリウス帝国には無い。

オルランティス軍すら退けられなかったのがいい証拠。

平凡な将軍でしかない彼には、この状況でできる判断は無い。


「しばし、お待ちいただけますか?陛下に報告してまいりますので」

「ええ、そうして頂戴」


そう言うとウィリアム将軍は馬に乗り、直々に王宮へと向かった。

さて、愚かな皇帝陛下はどんなお言葉をくれるのかしらね?




しばし待つと、シリウス帝国の皇帝が姿を現した。

その表情は憤怒に染まっている。

さらに、その近くには…


(お父様…!)


幽閉されているはずのお父様の姿。

お父様をこんなところに連れてくるなんて、何のつもりかしらね。

まさか私との交渉材料にでも使うつもりかしら?

そんなことをするなら…一切容赦しないけどね。


「…貴様、いったい何のつもりだ!?」


第一声がまさかのこれ。

この皇帝、状況が分かってるのかしら?

一応、軍の代表者として私が前に出る。


「何のつもり…とは?」

「とぼけるな!勝手にオルランティス国と戦い、あげくに将を捕らえるなど!こちらはオルランティス国と話し合い、和平を結ぶつもりだった。それを全てぶち壊しおって!」

「……はぁ」


話し合う?和平を結ぶ?勝手に侵略してきた相手に?

どこまで頭がお花畑なのか、理解しようがない。

なんだか頭が痛くなってきたわ。


「話し合い?和平?あなたは、そこに倒れている自国の兵を前にして、まだそんなことが言えるの?」

「そんなことは知らん。勝手に抵抗しおってからに、このバカ者どもが」

「はっ?」


手に力がこもる。

国を守ろうとして奮戦した兵に向かってバカ…ですって?


「兵などいらん。攻撃する意思など見せるから争いが絶えんのだ。すべての武器を捨て、話し合いこそが世界を平和へと導くのだ。だというのに…貴様も、貴様の父も、力を誇示し争いを招く。貴様らこそが争いの原因なのだ」

「………」


この男は何を言っているんだろう?

本気でそんなことを言っているのなら、もはやバカでは済まされない。


「オルランティスにこの男を差し出し、我が国に争う意思がないことを主張すれば穏便に済んだものを…貴様、責任は取ってくれるんだろうな!?」


この男…そう言って指さしたのはお父様。

お父様を差し出して、それで済ませようとした?


「まったく…所詮争うことしか知らぬ愚か者ばかりだ。こんな女を娶ったラディカル国の国王とやらも、やはりとんだ愚か者だということだな」

「…………」


後ろの方でざわついてる気配がするけど、だんだん聞こえなくなってくる。

もう無理だ。この男を生かしておきたくない。

話し合いだとのたまないながら、人を差し出す。

私だけでなく、お父様まで巻き込んだ。

挙句、アルディのことを愚か者などと言い放った。

もう許せる要素はどこにもなかった。

ギリギリとハルバードを握る手に力が入る。


「おい!さっきから黙りおっ…て……」


足が自然と進んでいく。皇帝に向かって。

ハルバードを掲げ、いつでも振り下ろせるように、皇帝を間合いに入れようと足がどんどん進む。


「く、来るな!おい、その男を前に出せ!」


皇帝の命で、お父様が前に突き出された。

盾にでもするつもり?でもそんなの、むしろ好都合だわ。

私はお父様を抑えている兵たちを見据える。


「愚かね」


お父様を前にしても、私は歩みを止めない。

一歩、また一歩と着実に間合いを詰めていく。

お父様を抑えている兵も、止まると思っていたのだろう。

私が一歩近づくたびに表情を恐怖に変えていく。


「ひ、ひいぃぃぃぃ!!」


そして、ハルバードの間合いに入ると兵たちはついに恐れをなして逃げ出した。

よし、これでお父様は救出できたわね。

解放されたお父様がこちらへと歩み寄ってくる。


「リリス」

「お父様、後ろに下がってくださる?」

「ダメだ。それ以上はいかん」

「イヤよ。あの男は言っちゃいけないことを言ったの。許さないわ」


絶対に、この手で仕留めないと気が収まらない。

すると、聞こえるはずのない声が耳に届いた。


「君の気持ちは嬉しいけど、そこまでにしてもらおうかな?」


声に振り向くと、そこにはアルディがいた。


「アルディ…」

「お疲れリリス。あとは任せてもらえるかな?」


どうして…と思いたいけれど、この男のことだから考えても仕方が無いのかもしれない。

一つ言えることは、このまま穏便に終わるはずがないという事だけ。

アルディが前に進み、皇帝を見据えた。


「さて…初めまして、シリウス帝国皇帝。ご機嫌いかがかな?」

「貴様がラディカル国国王か。極めて不愉快だ。貴様の国の者どもの不始末のおかげでな」


…始めからこれとか、よくこんなのが皇帝でこの国もってたわね。

これがかつての息子の姿かと思うと、なんともやるせなくなってしまう。

一応、こんなのでも帝王学は学ばせてたはずだけど、どこにいったのかしら?


「不始末…ね。我が国の介入が無ければ国が滅んでいたかもしれないのに、ずいぶんな言いぐさだね」

「それが余計だというのだ。我が国は話し合いで済ませるはずだった。滅びるなど、とんだ妄想だ」

「話し合い…話し合い、ね」


アルディがお腹を抱え、その体を揺らす。

周囲は心配そうに見ているけれど、どう見てもあれは…笑ってるわね。


「侵略し、その途中にある兵や邪魔な民たちを殺してきた。そんな人たちと話し合いで解決できると、あなたは本気で言っているのかい?」

「本気だとも。貴様らのように、刃を持たねば身を守れない愚か者と一緒にするではないわ」

「くっ、くくく……あははははははは!!」


ついに耐えきれなくなったアルディの大笑い。

それに皇帝は怒りをあらわにする。


「何がおかしい!?」

「はははは…何がって、何もかもだよ。じゃあ早速見せてもらおうかな」

「何?」


アルディが指を鳴らすと、後方に控えていた騎士たちが一斉に前に出た。

あっという間に、皇帝以下護衛の騎士たち全てがラディカル国の騎士たちに剣を突き付けられ、身動きできなくなってしまった。


「き、貴様、何を…」

「何って、見て分からないかい?」

「なんだと…」

「私はこの国を侵略しに来たんだよ。さぁ、この状況を『話し合い』で解決してみなよ、シリウス帝国皇帝」


ニヤリとアルディは笑う。

やっぱり。

薄々この場にいる理由を考えて、もしやと思ったけど、やっぱりそうだったわね。

アルディはシリウス帝国を欲しがってる。

元々ラディカル国はシリウス帝国に何度も侵略を仕掛けてきたのだから、国としてみる分には何も違いはない。

でも、アルディはこれまでの歴代国王と違い、野心家というわけではない。

だから、ただ領土を広げたいというつまらない理由で侵略はしない。

そうはいっても、結局理由はわからないけど。


「くっ……貴様ら、そのような武器を使って相手を脅すなど卑怯ではないか!恥を知れ!」


皇帝がわめく。

だけど、騎士たちは微動だにしない。


「そ、そうだ。我が国の半分をやる!それでどうだ!?」


…何かを差し出して、それで解決を図ろうというの?

それのどこが話し合いだというのかしら。

呆れる気持ちになるけど、それはアルディも同じみたい。


「半分と言わず、全部貰うよ。君の首を飛ばせばそれで済むんだ。どこが話し合いだというんだい?」

「ぐっ……」


皇帝は何か頭を動かし、周囲をキョロキョロし始める。

そして私を見ると、思い出したかのように目を見張った。


「そ、そうだ!貴様の国には我が国からの令嬢が嫁いでいる!その令嬢の祖国を滅ぼすというのか!?」


今度はそう来たのね。

嬢に訴えかけようと、そんなつもりかしら。


「貴様からも何か言ってやれ!」


皇帝がそんなことを言ってくる。

何か、ね。

はぁ…とため息が漏れる。

正直、見苦しいわ。


「アルディ」

「何だい、リリス」


呼びかけに応じたアルディの顔は、心底楽しそうだ。

どうせ私が何を言うか、予想付いてるんでしょうけど。


「私にとって大事なものは、知ってる?」

「私のことだね」

「……民よ。その民を守るための力を無くし、被害を出した国なんて、どうでもいいわ」


アルディのボケ(?)は無視し、そう言い放つ。

この皇帝は自分の信念?を優先し、そのために民を危険にさらした。

そんな男が治める国を、わざわざ残してほしいなんて言うつもりはサラサラない。


私の言葉に、皇帝はまたも憤怒に染まる。


「き、貴様ぁ!祖国を何だと思ってるのだ!」

「だったらあなたは民を何だと思ってるのよ」


私からはもう何も言うことは無いわね。

踵を返し、私は後ろに下がっていく。


「もういいのかい?」


アルディから声がかかるが、私はそれに手を振ってこたえる。


「さて、無駄なおしゃべりも飽きた」


そう言うと、アルディは腰に帯びた剣を抜き始めた。

それに、皇帝の顔から血の気が引いていく。


「お、おい、まさか…」

「一つの国に王は2人いらない。なら、その意味が分かるだろう?」

「ま、待て!私はこのシリウス帝国皇帝だぞ!私を殺せば民たちが許しは…」

「残念だけど、君を守る者はいないんだ」


そう言って、アルディは剣を振りかぶる。


「…お、おい騎士たち!私を守れ!」


皇帝の呼びかけに、シリウス帝国の騎士たちは誰も動かなかった。

皇帝の向こう見ずな信念に、誰もついていく気は無いらしい。


「くっ、くそぉ!これだから暴力は嫌なんだ!あのクソオヤジのせいで、こんな暴力がまかり通る世界になった!全部、全部あのクソ野郎が…!」


何を勘違いしているやら、本気で呆れてくる。

確かに、前世の私が行ったことは到底許されるものではない。

ただ、だからといってそれを世界の責任問題にまで発展される謂れは無い。

この息子は、前世の私のせいで暴力嫌いになったようだけど、だからといって守る力を放棄していい理由にはならない。

信念を突き通したければ、何らかの力は必要だ。

それは時に暴力であり、時に知力であり。

そのどれもが無い者には、何もできない。

ただ、それだけのこと。


その後、シリウス帝国皇帝はアルディの手によって処刑され、シリウス帝国は滅びた。


それからはまた大忙し。

元シリウス帝国領は、元々いた貴族によってほとんどがそのまま治められ、フィールド家もそのままとなった。

さらにアルディはオルランティス国に対して、元シリウス帝国領地の統治者として抗議。

オルランティス国側は、シリウス帝国を攻めた事は認めても、ラディカル国への侵略の意思はなかったと弁明。しかしアルディはこれを認めず、結果的にはオルランティス国に対し不平等条約を締結。

オルランティス国から出土する良質な鉱石の取引優先権利を、ラディカル国からはオルランティス国が飢えない程度の食料の輸出を。ただし、近年のように豊作の時期が来れば輸出を停止するなど、ラディカル国がオルランティス国の実質食料調整役を担うことに。


それらの処理が終わるのにまた半年ほどが経過。

しかし、それらはあらかじめ分かっていたかのように、どれもが極めてスムーズに行われた。

シリウス帝国を自領とすることも、オルランティス国への対処も全てが段取り済みであったかのように。


…アルディ、あなたは一体何を考えているの?



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