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元皇帝の転生令嬢は敵国の王に溺愛される  作者: せい


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20/22

20話

翌日。

王都の城門前に集結した『フェンリスヴォルフ』の部隊。

鍛え上げられた軍馬たちばかりが集結したその様子は、圧巻の一言。


その部隊の先頭にいるのが、シエルとまたがる私。

ドレス姿ではなく、きっちり戦闘用に軍服を身にまとっている。

部隊には隊長がいるけれど、総指揮として私が指揮権を持っている。


「準備全て整いました、王妃様」

「そう、分かったわ」


隊長からの報告を受け、部隊を見渡す。

さすがは精鋭というだけあって、その表情は誰もが真剣だ。


でも、その内心はどうかしら?

かつての敵国。それを、王妃の祖国という理由だけで何の正当性も無く、救援にいかなければならない。

それに果たして何人が納得していることか。

納得していない、士気の低い兵なら連れていきたくない。

これから向かうのは間違いなく戦場になるのだから。


「さて、みなさん。これから向かうのはシリウス帝国。その救援が、あなた方の任務ですわ」


私の言葉に、兵士全員がうなずく。


「ですが、この場において私が許します。気が進まない者は咎めません。来なくても結構ですわ」


そう言っても、誰一人微動だにしない。


「王妃様」


隊長から声が挙がる。

あら、まずは隊長からかしら?


「申し上げたいことがございます。よろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

「我ら『フェンリスヴォルフ』。誰一人として、この戦を望まぬ意思は持ち合わせていません」

「…あら、そう?」

「我らラディカル国国民として、王妃には大恩ある身。災害級の魔獣を討伐し、内乱の憂いを取り除いてくださった。この戦にてその恩に報いることができるならば、これ以上の誉はございません」

「……そう」


兵たちも、隊長の言葉にうなずいている。

そういうことなら…しっかり働いてもらおうかしら。

つい、口角が上がってしまう。

狙ってやったわけではないのだけれど、積み上げた信頼があるのなら、使い時は今ね。


「分かったわ。なら、しっかりついてきて頂戴」


そう言うと兵たちからはときが上がる。

そこからも、兵たちの士気が決して低くはない、いえむしろ、これ以上ないくらいに高いことが分かる。


そして部隊はシリウス帝国へと出発した。

最速の『フェンリスボルフ』。1,000の騎馬隊が一気に駆ける様は圧巻。

のんびりとこの国に来た時のことが、まるで昨日のように思い出される。

あのときは、いろんな村でこの国の情報を集めたものだわ。

そうやってのんびり来たはずの道を、逆走して駆け抜けていく。


何泊かの野営を経て、シリウス帝国との国境に到着。

関所に近づくにつれ、シリウス帝国側の関所があわただしくなっている。

私を先頭に、部隊がいよいよ関所を超える目前まで近づくと、シリウス帝国側の衛兵が近づいて来た。


「こ、ここは関所だ。な、なな、何の用がある!?」


あらまぁ、ビビっちゃってかわいいわね。私のことはまだ忘れていないようね。

でも、そんなのにはかまっていられないの。


「どきなさい。5秒あげる」

「えっ…」

「5,4,3…」


カウントしつつ、ハルバードを振りかぶる。


「ひ、ヒィィィィ!」


察しがついた衛兵が散らすように逃げていく。


「2,1、ゼロ!」


ハルバードを振るう。

超重量のハルバードは、関所の木製の門を横なぎに破壊した。

さぁ、これで突破できるわね。

ついでに3回ほど振り回して、残骸も跳ね飛ばしておく。

これで通りやすくなったでしょ。


「…流石です、王妃様」


隊長の褒め言葉に笑顔で返すと、一気に通り抜けていく。

ここからシリウス帝国の王都へ…ではなく、戦力増強のため、フィールド家へと向かう。

お父様が王都で軟禁されているなら、フィールド家の戦力はまだ領地にいるはず。

事前にジュードに私の文を持たせて届けさせている。

フィールド家にはお母様と年の離れた弟がいるはず。

弟はまだ10にも満たない。だからお母様に届けさせたけど、ちゃんと届いているかしら。


関所を抜け、そのままフィールド家領地へと到着。

フィールド家には戦力増強の他、ここまで強行軍で駆け抜けた『フェンリスヴォルフ』の休息も兼ねている。

疲れた兵では戦には勝てないからね。

そのための準備も頼んでいたのだけれど、果たして…


フィールド家の屋敷が見えてきた。

すると、あちこちに簡易テントが作られているのが見える。

どうやらちゃんと文は届けられ、お母様も了承してくださったようね。


部隊を停止させ、まずは私だけで屋敷へと向かう。

私の存在に気付いたフィールド家の兵たちから声が挙がった。


「お嬢様が帰還されたぞー!」

「誰か、屋敷に伝えろー!」

「お嬢様、こちらは準備万端でございます!」


兵たちの声に手を上げて応える。

そのまま門をくぐり、シエルの背から下りると屋敷の中に入った。

中には見覚えのある使用人たちと、お母様と弟がそこに立っていた。

心なしか、お母様はやつれたように見える。


「まずはおかえりなさいと言っておきましょう」

「おかえり、姉上」

「ただいま」

「さて、のんびり話をしている余裕はありません。手紙の通り、千のラディカル国の兵がそこにいるのですね?」

「ええ、そうですわ」


そう言うと、お母様の眉間のしわが寄る。仮にも元敵国の兵がそこにいることに、納得はできていないようね。でも、今はそれ以上に良くない状況だからこそ、飲み込んでもらうしかないわ。


「…わかりました。彼らに休んでもらう場所は今整えています。順次休んでいただきましょう。あなたとは、色々と話しておきたいことがあります」


そう言うと振り返り、歩き始める。ついてこいと言うことらしい。


着いたのは応接室。

お母様と弟が並んで座り、その対面に私が座る。

それぞれの前に紅茶が置かれる。


「リリス、あなたはどこまで知っていて?」

「そうね…オルランティス国が攻めていること、お父様が王都に召喚され軟禁されていること、そんなところかしら」


そう言って一口紅茶を飲む。ああ、懐かしい味だわ。


「……ずいぶんと、筒抜けのようね」

「ええ」

「あなたの文を持ってきた者、あれは誰なの?」

「私の影よ」

「そう……」


お母様も紅茶を飲む。その手はわずかに震えている。怖い思いでもしたのかしら?あとでジュードに確認しておきましょ。


「お母様こそ、状況はどこまで把握しているの?」

「オルランティス国は現在、国境を越えてスバラク領地まで来ているわ。思ったより進軍のペースは遅いみたいね」

「…やっぱりそうなのね」


オルランティス国の進軍ペースは早くない。それはアルディの読み通りだ。

アルディ曰く、兵としての鍛錬は何も戦場だけでなく、進軍の際の野営なども含む。

長距離遠征なら、物資の運搬も必要だし、どうしても時間がかかる。

その辺が不慣れなオルランティス軍は、王都到達までには時間がかかるはずだ、とのこと。

フィールド領から王都まで馬車で3日ほど、スバラク領は2日ほどの距離がある。

こちらは最速の部隊を引き連れ、フィールド家の兵も遠征は手慣れたもの。

最悪の事態は避けられるはずだ。


「お父様を、助けに行くのね?」

「もちろん。ついでにオルランティス国も蹴散らしてくるわ」

「…まったく、あなたという人は」


呆れた様子でお母様はため息をついた。

でも、すぐにこちらに向き直る。


「ですが、感謝しています。今のこの国の状況では、オルランティス国を退けることができないかもしれませんから」

「お母様は…知ってらしたのね。軍備を縮小していたこと」

「ええ。お父様にはあなたに絶対に口外してはらないと言われてね」

「やっぱり…」


分かっていてお父様は私に黙っていたのね。

でも、その判断が今の状況を招いたのだから、後でたっぷり反省してもらいましょうね。


「フィールド家の兵の準備は?」

「すでに済んでいます。あなたとお父様に鍛え上げられた軍よ。抜かりは無いわ」

「ならよかった。明日には全軍で出立するわ」


そう言うと、お母様は静かに頭を下げた。


「お母様?」

「あなたがこうして来てくれて、本当に助かりました。ですが…すでに他国に嫁いだ貴女に頼らないとならないわが身をふがいなく思います。本当に…すみません」

「仕方ないわ。お母様は軍人ではないのだし」

「それを言うならあなただってそうよ。軍人にも、兵にもなってない。あなたはただの令嬢で、今は王妃でしょう」

「それこそ今更だわ」


フフッと笑えば、お母様も顔を上げて笑う。

ああ、やっと笑ってくれたわ。


「さて、明日は早い。兵たちにも声を掛けたら、早めに休ませてもらうわ」

「ええ、あとは任せて頂戴」



翌朝。

日の出とともに出立の準備は整った。

フィールド家の兵、およそ3千。それにラディカル国の『フェンリスヴォルフ』1千。

間違いなく、少数精鋭。


「さぁ行くわよ!」


私の掛け声と同時に、あちこちで鬨が上がる。

計4千の兵が、王都へと向けて出発した。


道中はとくに何の障害も無く、あっという間に王都が見える距離まで近づいた。

王都を一望できる小高い丘にまでたどり着く。

しかし、そこから見下ろした先にはオルランティス国の旗が見えた。


(間に合わなかった!?)


駆けだしたくなる衝動をこらえ、戦況把握に努める。

王都内には煙は無い。まだ、侵入は許していないようだ。

けれど、それは時間の問題のはず。

すでに戦は始まり、あちこちで怒号が上がっている。

軍はもうすでに城門まで迫っていた。

もう猶予はない。


「皆の者!すでにオルランティス軍は王都への侵略を開始している!」


私の報告に、一斉に兵たちに緊張が走った。


「全軍、突撃!オルランティス軍を粉砕する!」


私が先陣を切り、一気に丘を駆け降りる。

それに4千の兵も続く。


「シエル!」


名を呼ぶと、分かったと言わんばかりに豪快ないななきが上がる。

鍛え上げられた軍馬すら置き去りにする脚力で、瞬く間にオルランティス軍に接近。

いななきを聞いたオルランティスの兵がようやくこちらに気付く。


「おい!横から誰か来るぞ!」

「なんだあのバカでかい馬は!?」

「背に誰か乗ってるぞ!シリウス帝国の増援だ!」


一部の兵が反転し、こちらに向く。

甘い。その程度の数で、私とシエルの突撃を止められるとでも?


「はあぁぁぁぁ!!」


ハルバードを一閃。瞬く間に血の花が咲き誇る。

シエルの突撃は、人などまるで小石のように跳ね飛ばす。

あっという間に反転した兵たちを物言わぬ屍に変えた。


「ひっ!な、何なんだあれは!?」

「ば、化け物だ!にげろぉ!」


恐怖に駆られ、逃げ出す兵たち。

そこに遅れてきた4千の兵も突撃する。


そこからはあっという間だった。

オルランティス軍は壊滅し、4千の兵は少し負傷者が出ただけ。


オルランティス軍の将と思われる人物を捕らえ、防衛の指揮を執っていたシリウス帝国の将軍に面会を求めた。

シリウス帝国で私の顔を知らない者はいない。

それだけに、ラディカル国で王妃となった私が救援に駆け付けたことに兵たちは疑問なようだ。

それに、ラディカル国の兵がいることも。


シリウス帝国の将軍が姿を現した。

さぁ、ここからが本番ね。



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