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元皇帝の転生令嬢は敵国の王に溺愛される  作者: せい


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15話

「王妃様、ご到着でございます」


馬車のドアが開かれ、馭者のエスコートで降りるとそこにはずらりと並んだ使用人たち。その正面に妙齢の夫人がいた。


「初めまして王妃様。ギルバートが妻、ステラにございます。本日は誘いに応じていただき、感謝の言葉もございません」

「初めまして、ステラ夫人。こちらこそ、夫人に招いていただきありがとうございます」


出迎えてくれたのはギルバート公爵の夫人だった。あの夫にしてこの妻あり、と思わせるだけの貫禄があるわ。ギルバート公爵と近い歳だろうに、2人並べば10…いや、20は年齢差があるとみられてもおかしくないほど若々しい。

美しい銀髪はゆるくウェーブしており、背中にまで垂らしてある。その銀髪の輝きは闇夜に光る月のよう。そこに赤いルビーのような切れ長の瞳。なんだかおとぎ話の吸血鬼みたいだわ。


その瞳が、私を見る一瞬だけ鋭くなったのを見逃さない。すぐに穏やかさを感じさせる雰囲気に戻したけど、やっぱり油断はできそうにないわね。


(フフッ、面白くなりそうだわ)



ステラ夫人に案内され、茶会の会場へ向かった。

既に会場には数人の夫人と思われる女性たちが座っており、私たちが近づいて来たのに気づくと立ち上がり頭を下げた。


「王妃様、こちらへ」

「ありがとう」


ステラ夫人に案内された席に腰を下ろす。

夫人たちもそれに合わせて腰を下ろすと、ステラ夫人による紹介が行われた。名前からやはりここにいるのが全員革新派の貴族であることを確信。それも、どの家も私に魔獣討伐の感謝として贈り物をしている。さぁ、これからどうなるのかしら?


茶会は穏やかに始まった。

用意された紅茶や菓子に始まり、最近のドレスの流行りになり、そして宝飾品に。そこでステラ夫人が仕掛けてきた。


「そうそう、王妃様には我が家の家宝たるネックレスを贈らせていただきました。お気に召したようでなによりですわ」


その場の視線が私の胸元のネックレスに注がれる。それをそっと指先に取る。


「ええ。これほど素晴らしいネックレスは見たことがありません。しかしよろしいのですか?家宝をいただくなんて」

「とんでもございません。王妃様はこの国を救ってくれたのです。臣下である我々の感謝のしるしとして、これでも足りるかどうか…」


そういってステラ夫人は悔し気に目を伏せた。これは…もっと贈りたいという意思表示かしら?

ステラ夫人の言葉をきっかけに、他の夫人たちも本当はもっと贈りたいけれど…という意思を滲ませるような言葉をつなげてくる。


(さて…どう対応したものかしら)


紅茶を口に含み、その瞬間に思案する。今の私は『贈り物好きの王妃』。なら正解は…


「皆様からの贈り物、確かにありがたくいただきました。これほどまでに歓迎していただけるなんて、私はいつでも皆さまの味方ですわ」


そう言い、夫人たちににこやかに微笑んだ。過ぎた贈り物だとは言わない。贈り物があるなら味方でいてあげる。少しの強欲さを滲ませて。


「それはとても心強い。我が家も王妃様には最大限の貢献を。今後とも何卒宜しくお願い致します」

「ええ」


それからも和やかに茶会は進んでいく。しかし当然そのままで終わるはずも無く、またもステラ夫人が仕掛けてきた。


「そういえば、王妃様には陛下からも贈り物があるとお聞きしました。しかし、その……」


そこまで言ってステラ夫人は言葉を濁した。これには他の夫人たちも気まずそうに視線を外す。アルディがなんだというのかしら?

視線でステラ夫人に促すと、重々しく口を開いた。


「…陛下は愛する王妃様への贈り物が、少し小さいのではないかと…。そう、耳にしたもので」


そうきたのね。そう、確かにアルディは頻繁に贈り物をくれる。くれるけれど、決して豪華と呼べるほどではない。指輪にしても、付いている宝石はどこか小ぶり。平凡貴族が贈る宝飾品としてなら妥当だけど、仮にも一国の王がその妃に贈るプレゼントとしては粗末と言ってもいい。


私にはどうでもいいんだけれど、やっぱりプレゼントにも格というものがある。これを極端に損なうことは、相手の要不要を問わず、侮蔑していると思われることもある。


それが分からないアルディではない…と思っていたけれど。なるほど、これを予想して仕掛けていたといことかしら。つまり、ここまではアルディの予想通りとみていいわね。ほんと腹黒い男だわ。


当然、『贈り物好きの王妃』である私はそれに不満を持っていなければならない。そこ付け入る隙があると思わせるのだから。


「…ええ。ステラ夫人の言う通りです。陛下は贈り物は何度もしていただけるのですが、はっきり申しましてあまりにも小粒でして。この程度にしか想われていないのかと不安になってしまいます」


ついでに目を伏せ、不安な感情を隠しきれていないという有様を見せつけておく。


「まぁ王妃様!なんてお可哀そうに…」

「大丈夫です王妃様、私たちが王妃様を支えていきますから」


夫人たちが口々に慰めと励ましの言葉をくれる。その様子に、私はつい息がこぼれる。


(ああ、なんて白々しい茶番なのかしら)


「ありがとう。みなさんのおかげで元気が出てきましたわ。皆さんのお困りの時がありましたら、遠慮せず仰ってください。私も、微力ながらお手伝いさせていただきますわ」


私の言葉にステラ夫人はすぐさま反応した。


「そんな、王妃様のお手を煩わせるなんて…ですが、王妃様が協力してくださるとおっしゃっていただけるだけで十分心強いですわ。みんな、王妃様のお言葉を心に留めておきましょう」


言いながら他の夫人たちに向き直り、夫人たちもうんうんとうなずいていた。

言質は取った、ということね。

これだから茶会は嫌いなのよね。戦場で走ってるほうがどれだけ気楽だかわかったもんじゃないわ。


しかし次の瞬間、こちらに向き直ったステラ夫人の目はあの一瞬見せた鋭さを持っていた。

何かしら?


「…と、冗談はここまでにしましょうか、王妃様」

「冗談?」


ステラ夫人の言葉に本気で首をかしげてしまう。


「そのような仮のお姿は結構…ということですわ、王妃様。私たちは王妃様、ひいては陛下のお心積もりを知っております」

「なにを…」


ステラ夫人は何を言っている?こちらの考えを知っている、とでも言うのかしら。

ここにきて急に変わった空気。さっきまでの白々しさとは全然違う、緊迫感漂う雰囲気が茶会を支配していた。


「確かに私たちはみな、革新派の貴族でございます。ですが、女が、腹を痛めて生んだ子どもたちを死地に向かわせる戦場を好むなどありえません。表面上はそのような夫に付き従わなければなりませんが、決して本心などではございません」


そう言い放ったステラ夫人の目は決して冗談などを言っている目ではなかった。愛する子どもたちや民を死地に送る夫への軽蔑、それを止められない己のふがいなさ、戦死の報告を受けるたびに悲しみに濡れた瞳がそこにはあった。


「私たちは陛下の意を汲み、戦乱を望む愚かな男たちを排除する。そのためにはどのような難事にも立ち向かいましょう。その覚悟を以て、今日の茶会は開催させていただきました」


見れば、他の夫人たちも同じような目をしていた。

なるほど、アルディの政治基盤も安定とは言い難いけれど、それは革新派側とて同じこと。最も憂いていたのは、最も身近な人物だというのは何とも皮肉なことね。


「王妃様がシリウス帝国におられたとき、その人柄はどのようなものなのか、私たちはとうに知っております。決してむやみな殺戮を好まず、ただ民を守るために女だてらに戦場に立つ、気高き志があるお方であると。そのような方が我が国にいらしてくれたことは、私たちにとっても朗報でした。この方ならば、この国の悪しき在り方を根本から排除してくれる。私たちはそう確信しております」


私をまっすぐに見据えるステラ夫人の目。やだわ、そんな目をされては疑うどころじゃないじゃない。

その覚悟がこもった目を前に、私のヘタな演技など邪魔なだけね。


「いいでしょう」


茶会の面々を見回す。全員が私を見ていた。

一息吸い、目を閉じるとかつてメリッサを始めとした侍女たちを屈服させた覇気を身にまとう。緊迫感漂う茶会は荘厳さを湛え、ここを穏やかな茶会から謁見の間に変貌したかのように思わせる。

目を開いてゆっくりと立ち上がれば、夫人たちも揃って立ち上がる。

カップを手にし、胸のあたりまで持ち上げる。夫人たちも私の動きに倣った。


「あなたがたの覚悟、確かに受け取りました」


緊張感からか、誰かのつばを呑む音が聞こえる。


「私はこの国を守る。民を守る。いたずらに民を死なせ、若者の未来を閉ざす愚か者は、わが手でもって排除する」


私の言葉に皆が首をうなずかせる。


「私たちが、この国を変える。子どもたちが安心して暮らせる国を、死に怯えずにいられる国を、人を殺す苦悩を抱える事がない国を、私たちが作っていく。今日この日、私たちはそれを誓う」


差し出したカップに、皆もカップを近づける。


「誓いを祝して…乾杯」


静かにカップの響く音が聞こえた。



***



帰りの馬車の中。さきほどまでの茶会のことを思い出していた。

今日の茶会に合わせて、ギルバート公爵はもちろんのこと、公爵の腹心なども全員理由をつけて屋敷外に追い出していたらしい。だから屋敷にいたのは全員夫人の息がかかった使用人たちだけ。その辺の配慮も済ませていたのだから、さすがは公爵夫人といったところかしら。

そして、それほどのリスクを抱えてでもこの国を変えたいと思っているということ。アルディだけではない、穏健派だけではない。この国に生きる一人一人が、明日を希望あるものに変えたいと思っている。


「ふふっ」


つい笑みがこぼれてしまう。

嫁ぐ前には、まさかこんな気持ちになるなんて思いもしなかったわ。最悪、アルディを始末したら国中暴れて再起不能にしてやろうとすら思ってたのに、もうそんな気が微塵も起きなくなっちゃったじゃない。


(でも、そのために邪魔なのは…)


革新派の貴族。その当主たち。

ステラ夫人を含む夫人たちは、今日の茶会で私がどれくらい御しやすいかを調べるように言われていたらしい。夫人をスパイとして送り込んだつもりが、まさかの二重スパイ状態ね。


口角が上がるのを抑えられない。


「面白くなってきたわね…!」


さて、アルディはここまで読んでいるのかしら?それとも予想外?

答え合わせは……いつにしようかしらね。


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