次回、武蔵野千夜死す。デュエルスタンバイ!!
そっと子犬に近づいた私は、プルプルと震える姿に胸がズキューンってなってしまったのよ。
ダンジョン内の光源は、周囲に生えている光るコケだけだから、見えづらいけど、震えるその子の毛並みは銀色だった。
洗って、ブラッシングをしたらきっともっと可愛らしいのだろうって。
怪しく見える紅い目もよく見ると、可愛い。
怖がらせないようにできるだけ優しい声を心がける。
「大丈夫だよ。よしよし」
そう言って、手を伸ばすと、子犬は私の指先をぺろって舐めて、ふわふわのお顔を押し付けてくるの。
もきゃぁ~~。か、可愛いんだけど!
何なのこの可愛い生き物は? うん。子犬さんだね。
子犬は私に怯えた様子を見せなかったから、抱っこしてみる。
腕の中にある温かい体温に、私は泣きたくなっていた。
泣きたくないけど、自分以外の体温にぐっとくるものがあったのよ。
「くっ……。ん……。ひっく……」
いつ魔物が現れるか分からない状況で、大声で泣くことは出来ないっていう理性だけは残っていたみたいで、何とか声を殺して泣いていた私を慰めるように、子犬が私のほっぺたをぺろって舐めてくれた。
「ありがとう……。慰めてくれるんだね。優しいんだね……。ふふ」
私がそう言うと、腕の中の子犬が小さく鳴いた。
一人じゃないと思ったら、急に元気が湧いてきたわ。
うん。何とかして、ここから脱出しなくちゃ。
そう考えたら、なんだかやる気が出てきたよ。
「子犬ちゃん。一緒にここから出ようね」
私がそう言うと、子犬は元気よく「あん!」って鳴いて答えてくれた。
意思疎通ばっちりだね!
それでも、か弱い女子高生と子犬のコンビではたかが知れているわけで。
でも、私は諦めない。
ここから出て、異世界ライフを満喫してやるんだから!!
それで、元の世界に帰れる方法を探して、帰るんだ!!
こうして、私と子犬のダンジョンからの脱出劇が始まったのだった。
しかし、すぐにピンチが訪れるんだよね。
はい。ついに魔物さんの登場ですよ。
次回、武蔵野千夜死す。デュエルスタンバイ!!
って、わーーー! 死にたくない死にたくない!!
えっ、子犬ちゃん? 待って待って!!
私が一人、遭遇した頭の二つあるアリクイみたいな魔物を見てパニックになっていると、腕の中にいた子犬が私を庇う様に前に出ていたんだよ。
超格好いいその立ち姿ではあったけど、絶対に勝てないのは目に見えている。
「子犬ちゃん! だめ、戻って!!」
私がそう言うと、子犬はこっちを振り向いて、「わふっ!」って決め顔で鳴くのよ。
もしかして、赤い目をしているだけあって、ただの子犬ではなく、何か必殺技でも持ってるのかな?
うん。それなら、子犬に頼ってみようかな?
「子犬ちゃん! がんばってーー!!」
私にできることは後ろから応援することだけ……。あれ? そういえば、そんな必殺技があるなら、私に縋るような目を向けるだろうか?
やばい……。そうだよ、もし、そんな力あるなら、私に助けを求めてないよ!!
子犬がヤバい!!!
そう思った時には何もかもが遅かった。
ゆっくりと、スローモーションのように映る視界の中で、頭が二つあるアリクイもどきの鋭い爪が子犬に向かって、振り下ろされるところだったのよ。