もふりたいとか思ってないよ?
そういえば、おっさんたちが私を置き去りにする時に言ったんだよね。
お前みたいな使い道のないお荷物は捨てるに限るって。
しかも、半笑いで。
マジふざけんなって感じよ!
勝手に呼んで、勝手に捨てて!!
要らないなら、元の世界に帰して欲しいわよ!
ああ~、推しに会えないこんな日々、地獄か!
あっ、私オタクで腐女子です。悪しからず。
そんなことより、今は生き残る方が重要ね。
あぁ……。でも、おっさんたち食料全部持って行った……。
はあああ、最悪。こんな場所で、魔物から逃げつつ食料調達なんて無理。死ぬから。
だけど、運がいいことに今のところ魔物との遭遇は一度もなかったのよね。
それでも、お腹がすいて本当にヤバいです。
重い足を引きずって、歩くこと二時間ほど。
時間感覚がないので、本当に二時間くらい経っているのかは不明ですけどね。
ふと私は気が付くのだ。
前の方から微かな気配がすることに。
魔物? 魔物なのか?
そんなことを考えながらびくびくとしていると、「くぅ~ん」っていう、まさに小動物的な声が聞こえてきたのだ。
ここに来てから、お腹は減るし、怖いし、寂しいしで、小動物がいるのならもふって癒されたいという衝動に駆られた私は、何も考えずに声の聞こえた方に向かってしまうのだ。
ええ、分かります。
すごく危ないことしてるって。
うん。これがもし危険な魔物が擬態して、獲物を狩る方法とかだったら、私即死!
でも、いろいろと考える余裕なんてなくって、本当に衝動のままに私は行動してたんだよね。
できるだけ足音をたてないようにそっと歩いていく。
少し細くなった道を曲がった先に、岩が抉れたように窪んだ場所が見えた。
目を凝らしてみると、そこに小さなまん丸の毛玉が見えたのよね。
よく見ると、プルプルと震えてて。
うん。子犬に見える。
あっ、目が合ってしまった。
やばい……。
潤んだ目が私に助けを求めるようにこっちを見てる。
でも、絶対にあの犬はおかしい……。だって、つぶらな瞳は、真っ赤な色をしてるんだもん!
あれ、絶対に危ないやつだよ。でも、子犬はめっちゃ私にアピールしてくるのよ。
僕を助けて~。僕、悪い子犬じゃないよ? って感じで。
なんか、あの子犬を見捨てるのは気が引けるというか。私は仕方なく子犬の元に向かっていた。
うん仕方なくね。目が赤いけど、ふわふわに見える毛をもふりたいとか思ってないよ?
本当だよ?