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七冊の魔女  作者: 黒上タクト
第一部
9/66

#09 激突

『聞こえますか、クレアさん、みんな』


 私は通信魔術で皆に問いかける。


『どうしました師匠!』

『やよいか』

『古木さん?』


 よし、みんな出たな。アルカとの顛末を話すと、みんな驚いていた。


『Aの使い手がそんな危ない奴とはな』

『どうしましょう』

『「現実改変」、こう悪用するとはな。やよいも本を奪われそうになったと』

『はい、何が起きたのかわからないままアルカの手元に現れたんです』


 紗良もこういうふうに本を奪われたのだろうか。


『変身はしてなかったのか』

『はい、確か"activate; alter"とか唱えてました』

『まずいな。魔術師としてのレベルはそいつのほうが上だ。能力も厄介。困ったな……』

『何か対策とか取れませんか?』

『その改変攻撃で魔術の発動すらなかったことにしてしまう、なんて芸当も可能だろう。となると、改変発動による相手の魔力切れを狙って倒す、というところが一つの目標だな』


 ……そうなってしまうか。


『尤も、アルカにとって、どのくらいの魔力量を使って改変を引き起こせるかは未知数だが……』


 うーむ、どうみても分が悪い戦いになりそうだ。


『……一度、相手の出方をうかがって策を練る、というのはどうですか』


 考えても仕方がないのなら、実戦で相手の戦い方を研究するのが一番よさそうな気がする。


『それが一番よさそうだが……その一度がラストチャンスにならないようにな。私も明海高校に向かおう』


 現に紗良は一回会っただけで戦闘不能にされてしまった。クレアさんの忠告を肝に銘じる。


『じゃあ、華子、シンは放課後集合で』

『わかりました師匠!』

『古木さん了解!』




 放課後。シンと華子と合流する。


「古木さん、本は大丈夫?」


 そう言われたので気になって確認する。よかった、また勝手に持ち出されていない。


「『改変能力』、大変ですね……」

「正直お手上げ、華子さんはどう思います?」


 私はセンスのいい華子にご意見を聞こうとする。


「……難しいね。そういえば、幽谷さんから戦いの様子は聞いたりした?」

「紗良も訳が分からないまま本を奪われたとしか……」

「そうなると、エネルギーを飛ばしたりして見える攻撃をするわけじゃなさそうだね」


 おお、と納得する。やはり感性の違いが出てる。不可視の攻撃。そうなると回避も難しくなってくる。


「見えない攻撃とすると、私の魔術も当てようがないかも……」


 うわ……ますます雲行きが怪しくなってきた。どうしよう……。


「さっきのクレアさんとの話し合いで出方をうかがうって言ってたけど、あれは?」

「うん……私がおとりでアルカの戦い方を探ろうか、と思って言ったことなんだけど……」

「絶対危ないね」

「うん……」


「でも悪くない気がする」

「え?」

「私と四葉さんで監視しながら古木さんが戦う。そして相手の攻撃、相手の戦い方を見ていく……古木さんがピンチになったら助太刀に入る。そうするしかない気がするよ」

「そうか……そういえば、アルカと会った時、周囲に私とアルカが視界に入らない『改変』をしてきた。またやってくるかもしれない」

「うん、気を付けておくね」


 そういえば、とシンの魔術を問う。


「シン、シンの魔術でアルカを撹乱できたりしない?」

「えっ? そうですね……相手に夢を見せて油断させる、とかできそうですね」

「四葉さん、どういった感じに発動するか、具体的に教えて」

「私の魔術、多く魔力を込めれば瞬間的に白昼夢を見せることができたり、長時間夢の世界に送り込むこともできます」


 ……それって私がするアクション的な戦い方では喉から手がでるほどうらやましい攻撃なんだけど。


「それって強くない?」

「そうかもしれませんね。でも、かかるまで時間がかかったり、相手の警戒が強いと入眠に至らないリスクもあります」

「そっか……どちらかというと不意打ちに向いてるタイプだね」

「それに、魔女のような魔力を使える存在にはより効きにくいと」

「なるほど」

「未来の師匠が」


 未来の私の助言かぁ……。おとなしく聞いておこう。




「古木さん、席に……」

「えっ、何?」


ふいに私の席を指されて見てみる。するとさっきまで何もなかった机の上に手紙が置いてあった。


「古木さん」

「うん」


 アルカだ。アルカからの『招待状』だ。


「屋上にて待つ……とさ」


 早くもチャンスが来た。


「……あまり時間がなかったね」


 早すぎた、ともいうけれど。


「でも相手から出てくるっていうのなら、私は行くよ」

「そうだね……四葉さんも、準備はいい?」

「はい。ちょっと緊張しますけど」

「私もしてるよ」

「しないほうがおかしいよ」


 少しだけ、緊張が和らぐ。


「……じゃあ、行こうか」


そういって、屋上へ向かった。





「一人で来たのかしら」


夕方の薄暗い曇天の下、アルカは待っていた。


「はい」


……陰からシンと華子、校外からはクレアさんが見ている。


「ふーん。こわいもの知らずね」

「呼び出したってことは、魔術書の話ですよね」

「そうよ」

「……返してくださいよ」


 一応、言っておく。99パーセント無駄だとわかっていても。


「ここまできてただで返すわけないじゃない。それに、今日は見てほしいものがあるの」

「見てほしいもの……?」

「私、この本で『変身』したことがないの。だから、あなたに見てもらおうと思って」


 なんだ。この気味の悪さは。


「変身するっていうことは……戦いますよ、私」

「そうね。初陣の相手があなただと、ぞくぞくしちゃう。その忌み嫌うようなまなざし……ふふふふっ」


 そういってAの書を取り出すアルカ。こちらも準備をする。



「"change; cutter circus"……」

「"awake; abnormal alter"」



 赤の光と、マゼンタの光がぶつかるように輝く。

 次の瞬間、私の前に『魔女』が現れた。


「へぇ……意外と悪くないものね」


 マゼンタと黒に彩られた魔女の服……言ってしまえば毒々しいその色合いは、皮肉にもアルカにぴったり、似合っていた。


「それに……なんだか体中が元気になった気がするわ」

「それはよかったですね」

「目もよくなったわ。そこの陰に二人感じる」

「!?」


 しまった、ばれてしまった。


「alter;、『私たちのやり取りは他の誰にも感知できない』」

「なっ」


 何も変わらない。見た目は。


『華子、クレアさん、私たちが見える?』

『妨害されたか……!』

『見えないよ……古木さん』

『華子、変身すると見えるかもしれない』


 前にシンを引っ張り出したことを思い出して言う。


『わかった、やってみる』


「さあ、魔術をつかったけんかと行きましょうか」


そういって、アルカは杖を取り出した。私も武器を呼ぶ。大型のハサミを。


「ずいぶんおっかないものを取り出したわね。私の首でも刎ねる気かしら」

「……懲らしめるだけです」

「そう。『相手の得物が私の意思で動くようになる』」

「!?」


 手元のハサミがぐぐぐぐ、と私の腕を無視するように動き出す。まずい。とっさにハサミを捨てて距離を取る。すると、ハサミはアルカの手元に飛んで行った。


「あなたにやれるのかしら」


 右手に杖、左手にハサミを構えてアルカが挑発する。一番の得物を奪われてしまっては、私の不利が確定してしまう。


「くっ……」


 紗良も言っていた。何もできずに負けたと。


「ふふふふ」


 そう笑って、アルカはこちらにハサミとともに突っ込んできた。あまりのスピードに驚きながらも、跳んで回避する。


「あなたも体が軽くて仕方ないのね」


 そうやって跳んだ先にもアルカは迫っていた。危機を覚えた私はとっさに武器を呼ぶ。


「そう一筋縄じゃ行かないわよね」


 振るわれたハサミを、呼び出したナイフが受け流す。ナイフを選んだのは二番手の意味もあるけど、再びハサミを選ぶと、魔力切れする気がしたからでもあった。

 叩きつけられるように着地する。そこにもお構いなくアルカはハサミを突っ込んできた。私より武器の振るい方に迷いがない。


「随分切れ味がいいのね」


 私が着地していた地面に深々と刺さったハサミを抜く。あれに当たったらひとたまりもないだろう。


「やっぱり……あなたの本が欲しいわ!」

「絶対に、渡すものか!」

「ふふふはっ、いいわねぇ、このハサミ! 振っていて気持ちがいいわ!」


 ブンブン、と私に向かって振るってくる。私はそれを見極めながらよける。下向きに振るうたびに、床に亀裂が走る。


「ハサミってことは……そうよね!」


 ハサミを開いてこちらに突っ込んでくる。ヤバい。攻撃が点ではなく線で飛んでくるのがこんなに危ないとは!

 顔面に飛んできたハサミを転ぶようによける。私の頬をハサミが掠って、血が流れてくる。


「あらあら、キレイな顔に傷がついてしまったわね」


 壁に刺さるのもお構いなしに常にフルパワーで突っ込んでくるアルカ。回避に魔力を割いているけど、もしかすると相手より私が先にバテてしまうかもしれない。


「くっ……」


 手の中の得物をにらむ。どう見ても短いナイフでは不利だ。……となると。こうするしかない。

 手の中にイメージする。もう一本。それしかないんだ。

 そして、呼び出す。もう一丁のハサミを。


「あらあら、乗ってきたわね」


 アルカの持つハサミとうり二つ。幸い、体にだるさはまだ来ていない。


「倒す……貴女を!」

「ふふふふ、楽しく行こうじゃない!」


 バキン、と二つのハサミがぶつかりあって火花が散る。


「どちらがこのハサミにふさわしいか、勝負よ」


カン、カンとぶつかり合うたびに火花が吹き出す。互いに一歩も引かずにしのぎを削る。


「ふふふふ……とてもいい顔をしているわ。私がキライなのがどんどん伝わってくる」

「そう思うことをあなたがやってるんじゃないか!」

「そうね。でも周りはこんな私を知らないの! あなただけなの! こんなにさらけ出した私を知るのは!」

「……意味、わかんねぇよ!」


 大きく切り払うと、アルカが少し後ろへ引いた。


「私を嫌う……ふふふ」

「何が可笑しい?」

「みーんなみんな、私がスキだっていうのはもう飽きたわ。そんな中で私をキライって言ってくれるあなたが……ふふふふふ」


(狂っている……こいつ!)


 武器を構えなおして気づく。アルカの持つハサミはもうボロボロだ。次かち合えば、アルカのハサミを砕けるかもしれない。


「どうにもそろそろ決着をつけたそうね。私はこんなに楽しいのに」

「……とても不愉快でしたよ」

「そう? そう? ふふふふ」


 そうしておどけるアルカ。この人とは、分かり合えない!

 私はハサミを振るいに行く。アルカもそれに応える。


 

 ハサミとハサミがぶつかる。アルカのハサミは、想定した通りに砕け散る。



 ……そうアルカも想定していたのだ。

 振るわれたハサミの下から私の懐に潜り込むアルカ。先端の吹き飛んだハサミを持って、


「私の勝ちね」


 そうアルカが言い放った。一瞬で血の気が引いた。私のおなかに、砕けたハサミの刃を彼女の手で刺しこんでくる――――。



「……な」


 想定した激痛は来ない。思わず目を閉じていた。目を開くと、私の前に据え置かれた、壊れたハサミが見える。その持主の顔も見える。焦りだ。急に流れをせき止められて焦る顔。

 とりあえず、一歩退く。緊張の糸がほぐれて、呼吸が乱れる。


「古木さん!」

「は、華子……」


 そうか。華子か。アルカを止めたのは。


「……感知できないように、術はかけたはずよ」

「『魔女』っていうのは、魔術の耐性もあるの!」


 そういうと呆けたようにアルカはハサミを捨てた。


「ははっ……私の『改変』が甘かったのね……」


 どうやら燃え尽きたような表情をしているアルカ。


「ふうん……白けてしまったわ。ここ一番、最高のタイミングで水を差すなんて、凹数さんも罪な人ね」

「古木さんはやらせない!」

「もう終わったわ。古木さんとの戦いは。邪魔が入るっていう、最悪の幕切れでね」


そういうと、アルカは変身を解いた。……まだ油断はできないから、私は解かない。


「でも……悔しいからお返しよ。精一杯の、私の呪いを味わいなさい、凹数さん。activate; alter 『白い本は私のもの』」


 そういうと、華子の変身が解かれ、華子の手元に戻るはずだったFの書がアルカの手にわたってしまった。


「アルカ……往生際の悪いっ!」


 ハサミを握って、構えようとする。……ダメだ。一度解けた緊張の糸が張れない。ふらついている。ハサミを握る手も怠くて振るえそうにない。シンが駆け寄って私の体を支えてくれた。


「どうやらあなたも疲れたようね。私も今の『精一杯』で疲れてしまったわ……ふふふふ、また会いましょう」


 そういうと、何かを改変したのか、アルカの姿がすっと消えた。

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