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七冊の魔女  作者: 黒上タクト
第一部
8/66

#08 改変

「あーもうかったるい!!」


 昼休みにうちのクラスに来た紗良がそうむしゃくしゃしている。何があった。


「なんか学校中の知らない人から絡まれるんだけど」

「人気者でよかったんじゃない」


 よくないわ、と紗良は声を荒げた。


「おかしいわ。『友達になってください』が14件、『付き合ってください』が26件! それもクラスも学年もバラバラ! その中に私の知っている人はゼロ! とんだ嫌がらせよ!」

「……」


 紗良の性格を吟味する。……いじめる対象にしては相手が攻撃的じゃないだろうか。紗良は暴れん坊だぞ。


「何かよからぬことを考えてるわね!」

「いや、別に……」

「ぐぬぬ……冷やかしにしては断った時の相手のリアクションが迫真だし! フッて悲しむ顔を40人も見ると気が狂いそうよ」


 多人数によるいじめにしては紗良の性格を考えていない。無秩序の攻撃となると、誰かがこの事象をコントロールしている感じがする。


「こういうことは今までなかったの?」

「以前は多くても一日3件、一応顔を知っている相手から言い寄られたことがあるくらいよ」

「じゃあやっぱり不自然だ」

「そうよ。なにかおかしいわ」


 何がおかしいか、それを明文化するのは難しいけど、とにかくおかしいことだ。




 放課後、様子を見に行くと鬼の形相の紗良が鎮座していた。こわい。


「紗良……お疲れ様」

「疲れたわよあの後もごろごろ人に絡まれるし」


 計り知れない苦労を最大限ねぎらう。


「しまいにはこれよ!」


 1通、手紙を取り出した。


「ラブレター……?」

「いつだれが持ってきたのかわからないけど、こんなもん……ご丁寧に『屋上に来い』とか書いてるし!」


 屋上かあ。告白場所にしてはメジャーな場所だろう。


「どうするの」

「フりにいくわよ! 二度と近づくなって」

「ははは……」


 よかった。この子が敵じゃなくてほんとによかった。


「うん、ほどほどにね?」


「……まぁ、心を1回折るだけで済ませてくるわ」


 それは致命傷ではないか、普通。


「先に帰ってていいわよ。ちゃっちゃとフッてくる」


 そういって、紗良は屋上に駆け出して行った。……大丈夫かな。相手が。




 次の日。

 昼休みに紗良の様子を見に行く。姿が見当たらない。


「あの」


 紗良のクラスメイトに話を聞く。……体調不良で欠席らしい。昨日あんなことがあったから疲れて体調を崩したのだろうか。ふむ。一応連絡してみるか。


『おーい、紗良』


 通信魔術で問いかける。返事がない。寝込んでいるんだろうか。そう考えると深刻だ。スマホで電話をかけてみる。


「もしもし、幽谷です……」

「あっ」


 つながった。やっぱり声に元気がない。


「紗良、元気? 今日欠席って聞いて心配しちゃって」

「……言わなくちゃいけないことがあるわ」

「? どうしたの」



「魔術書を……奪われた」


 その一言に凍り付く。何があったのだろうか?


「昨日、屋上に向かって……魔女に襲われたわ」

「魔女? 魔女がいたの?」

「あいつよ。3年の『あの』サイトウ アルカ。あいつの魔術が……何が起きたのか、わからないまま私は魔術書を奪われたの」


 だんだん涙声になっていく紗良。


「紗良……」

「屈辱よ……こんなやられ方……」

「……わかった。紗良の本は、私がなんとかする」

「やよい……気を付けてね」


 強気な彼女から意外な言葉が漏れた。それほど強力なのだったのだろうか。


「うん」


 電話を切る。振り返ると、『あの』サイトウさんが立っていた。


「こんにちは」

「サイトウ アルカ……」

「あらあら、才藤 有花、フルネームで覚えてくれてうれしいわ。アルカなんて変な名前でしょう?」


 聞き流して、質問をする。それはもう一点だけだ。


「どうして紗良の本を奪ったんですか?」

「知りたい?」

「当たり前です」

「あなたたちが私の日常に影響を及ぼす、そう思った末の自己防衛よ」

「自己防衛?」

「あなたたち、この本を探しているんでしょ?」


 そういうと、アルカは濃いピンクの本を取り出した。……魔術書だ。


「あなたも持っていたものね」

「!」


 まさか、あの時落としたのは私の不注意ではなく、アルカの魔術のせいだったのか。


「この本は『Aの魔術書』……だそうね」

「『A』の魔術書……」


『現実改変』能力を司るという、クレアさんが懸念していたうちの一つだ。懸念した事態が起きてしまった。


「この本を奪われるのが怖くって、私から先に手を出したの」

「アルカ……貴女って人は」

「ひどいわよね、私」


 そういうものの、顔はどこか挑発的だ。


「……とにかく、紗良の本を返して下さい」

「ダメよ。今これをあの子に返したら、どう考えてもひどい騒ぎが起きてしまうわ。それに……私もこの綺麗な本を集めてみたいの」

「集める?」


 予想もしてなかった理由。


「集めて、たくさんの魔術を使えるようになりたいの、私。幽谷さんのものは残念ながら読めなかったけれど」

「そんな勝手な理由で!」

「だから、あなたも私に本を渡してほしいわ」


そんなこと言われても、言えるのは一つだけ。


「渡せません」

「ま、そう言うわよね。でも、あなたは私の魔術に逆らうことはできない」

「!」


 来るか、と身構える。


「"activate; ater"私の手元に赤い本が渡る」


 すると、ここになかったはずの『Cの魔術書』がアルカの手元に現れる。


「なっ……」

「ふふ。これで2冊目。私に読めるかしら?」


 奪われる―――! まずいと思った私は、私は……!


「チェンジ、カッター・サーカス!!」

「!」


 アルカの手元にあった魔術書は、赤い光となって私の服を形成していく。


「なるほど。……Cはcutterなのね」

「渡すわけにはいかない! あなたに!」

「まあ! こういうところでドンパチやるのは危ないわよ」


 ここは教室前の廊下。人も多く通りがかっている。けれど……こちらに目線をやるものはいない。これは。


「どうやら周囲の視線も操作しているみたいですね」

「勘がいいわね。こんな奇怪な話をしているの、見られたくなかったもの」

「……見損ないましたよ、才藤さん。なんでもできて人柄もいい完璧な人と聞いてたのに」

「そんなものまやかしよ。そういうふりをしているだけ。そう取り繕うのがうまい。それだけ」


 虚ろな流し目をするアルカ。彼女は完璧を成すにふさわしいくらい、容姿もいいけれど―――その中身が濁っている。


「……お昼休みも終わるし、あなたの本はまた今度にするわ。『あなた』のは、ね」


 そういって人ごみの中に消えていくアルカ。待て! と発して追うも人ごみに邪魔されてうまく追えない。やがてアルカの姿が見えなくなった。……今は無理か。変身を解くと、私の手元にCの魔術書が現れた。


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