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七冊の魔女  作者: 黒上タクト
第一部
7/66

#07 部活



《ある少女の日記》


 4月某日―――。

 私はあることが気になっている。新入生のなかで不思議なつながりがある数人が見つかる。見たところ、部活が同じ、というわけでも、同じ中学だったわけでもなく、クラスも違う。合同授業する組み合わせでもない。偶然的なつながり。そんなつながりが起きるのは不思議なこと。……後を追っていくのはさすがに遠慮しておく。

 ところで今日も私に告白してくる男子が数人いた。私の趣味には合わないのがわかりきっているので、どこかに飛ばしておいた。



 5月初旬―――。

 私の目をつけていたその子たちが何かを探して校内で行動していることに気づく。気になって少しついていくと、私に告白する予定だった男子に何かを問いただしている。……どうやら、私が生んだ『綻び』に気づいたらしい。


 そこで、私は「その子の鞄から大事なものを落とした」ことにする。すると、赤い本……私が持っている、マゼンタの本のようなものが出てきた。やはり……彼女たちは『この不可思議な能力』に関係している人たちだ。ただどうしたものだろう。


 私はこの力を、人間関係構築の手段として行使しているけれど―――彼女たちが邪魔をするというのなら、少し退いてもらいたいと思った。

 

 それに、あの本の力を、まだ見ていないところもあるしね。




 シンの転入も何事もなく終わった。面白いことに、魔術部全員みな違うクラスになっている。私はA組、紗良はB組、シンはC組、華子はD組。

 『G』の所持者にはいまだ会えていない。朝にも園芸部の花壇をのぞきに行ったのだが、誰もいなかった。園芸部って何人いるんだろう。もしかしてみんな幽霊部員じゃないよね?



 そしてついに、私はあることを決心する。


「部活しよう!」


 放課後、集まった皆に言う。


「部活? どっか入るの?」

「じゃなくて、魔術部として!」

「うーん、確かに、人はどんどん増えているけど、魔術の練習なんかは全然していないね」


 そう。実践が足りていないんだ私たちには。


「やるにしても場所どうしましょう。あんまり派手な練習は室内じゃ難しいですね」

「うん、確かに……」

「うちの敷地内とかどう?」


 それは紗良の提案だった。


「敷地内?」

「うちの裏庭だったらそこそこ暴れられるんじゃないかしら」


 暴れるって。でもそうできるならあやかりたいところ。……あっ。嫌なこと思い出した。


「うわ。宿題のプリント机にわすれた」

「もうーやよいったら、」

「その先は知ってる」

「ふへ」


 いたずらな笑みを浮かべる紗良。とりあえず先に行っておくように言って、私は教室に戻る。


 戻る途中、ある教室にただ一人たたずむ人影が見える。そこは1年B組、紗良の教室。なんか見たことある気がする顔だ。


「……なにしてるんですか」


 その人に声をかけてみる。


「ふふ、奇遇ね」


『あの』3年のサイトウさんだった。


「なにか紗良に用でも?」


 彼女が手をついていた、その席の主について問う。


「古木さんってば、幽谷さんと仲がいいわよね」

「? 知ってるんですか私たちのこと」


 この人に名前を知られるきっかけが見当たらない。紗良も同じなんじゃないだろうか。


「D組の凹数さんとも、最近転入してきたC組の四葉さんとも」

「……」

「どういうきっかけで仲良くなったのか、知りたいなって」


 何を知りたいんだ……? 背筋が凍るような感覚。


「なにか楽しい共通の趣味でもあるの?」


 ……これはなにか感づいている聞き方だ。危ない人な気がする。


「いやぁ、私友達付き合いがあまりうまくないから、どうやって人と仲良くなればいいのか、ってよく考えるの」

「は、はぁ」


 妙だ。サイトウさん、何をやっても完璧だし、交友関係も苦労してないと聞いた気がする。


「サイトウさん、なんでもできるって聞くから、友達も多いと思ってました」

「表向きはね。人を心から信じるって難しいの」

「……苦労してるんですね」

「そうかもね。なにか用事があったでしょう? ……無駄話に付き合ってくれてありがとね」


 そういって、サイトウさんは紗良の教室を出て行った。何がしたかったんだろう。結局その趣味に対する返答も待たずに。




 幽谷邸。


「遅かったわね」

「うん、なんか、サイトウさんに絡まれて」

「『あの』サイトウさん?」

「うん」

「サイトウさんって?」


 転入してきたばかりのシンは知らなかった。それもそうだ。とりあえず、なんでもできる完璧人間って教えておく。


「そんな人がいるんですね」

「で、サイトウさんが何の用で?」

「うーん、なんか、私たちのこと聞いてきた。なんで仲いいのー、とか」

「何それ」

「一瞬だけ、『魔女』のことを知ってるのかな、って思ったけど、なんか、友達付き合いに悩んでるみたいだった」

「胡散臭いわね」

「うん。ちょっと気を付けたほうがいいかも」


 もし敵の魔女の一員だったら、という最悪のシナリオも考えておく。なんだか、すごく危ない雰囲気も感じたし……。




 幽谷邸裏庭。庭というには大きすぎる土地に驚く。やはり金持ちは違う。後から来たクレアさんもびっくりしていた。


「これだけ広ければ暴れても大丈夫ね」

「大砲とかはやめておけよ」

「はいはい」


 そうして、各員変身していく。よし、初の部活動だ。


「で、どういう感じで練習していけばいいのかしら」

「うーん、紗良は射撃練習とか? さすがに撃つのには慣れてないでしょ?」

「そうねぇ……まず的が必要ね」


 びくっと華子が反応する。彼女の盾を的にしようとしたあの光景を思い出す。


「……そういうと思って、私が必死こいて的を用意した」


 クレアさんが指を鳴らすと、ポンっと射撃場においてそうな人型の的が出てきた。ほんとに魔術苦手なのか? と思うくらいスムーズな動作に思わずツッコみたくなる。


「チッ」

「チッ??」


 今の紗良の舌打ち、気のせいだといいんだけど。


「あれに向かって撃とうか」


 クレアさんが促すと、紗良はピストルを片手で撃った。放たれた弾丸は、的の頭部を綺麗に貫通した。


「うーん、10点満点ですね……」

「ああ……まあ、魔術書で変身すると身体能力も向上するみたいだし、これくらい造作もないのかもしれないな」


 戸惑いながらも、ちゃんとした理由を教えてくれるクレアさん。射撃に要るのは……視力と、精密な動き、といったところだろうか。


「さ、やよい、お前も練習だ」

「私も?」


 射撃スペースの横に、これまた指を鳴らして物を置く。今度は木でできた人型の置物だ。


「これに向かって、武器を振るうんだ」

「お、いいですね!」


 なんだかそれっぽい練習でワクワクする。


「とりあえず、お前の武器の威力を見たい。ハサミで攻撃してくれ」


早速ハサミを呼び出して、ハサミの背で置物を切る。ハサミは途中で置物に引っかかった。


「なるほど。よし、今度はハサミの刃だ」


 引っかかったハサミを抜いて、ハサミを開く。見るだけで肝が冷えそうな刃が見える。


「えいっ!」


 置物の胴を切りに行く。

……すぱっ。

 分厚い木の置物が、一刀両断された。


「えっ……私、そんな力入れてませんよ」

「やはり、その刃が必殺ポイントだ。よいしょ」


 クレアさんが両断された部分を置きなおす。断面から光が少し見えると、両断された置物が綺麗に直った。


「今度は硬度のあがる魔術をかけた。もう一度、やってみてくれ。遠慮なくだ」

「はい」


 遠慮なく、と言われて、全力で挟みに行く。ぐぐぐ、とスムーズに切れない。


「んんんんんっ!」


私が唸ると、ハサミの刃から火花が飛び散りだした。そしてゆっくり、刃が置物を切り裂いていく。


 ばつん、と置物が両断された。さっきほど断面が綺麗じゃない。


「ほほう……なるほど。今のは気合のおかげだな、見ろ」


 そういって、クレアさんはハサミを指す。ハサミは少し、刃こぼれしている。それに、少し歪んでいる気もした。


「パワーを上げるならこういう訓練かな。まあ、最初の置物が切れた時点で、威力は問題ない気はするが……次はこうかな」


 もう一度置物を直す。そして、取り出したのは、油性ペン。油性ペンで置物に点線を描いていく。


「今度は『武器のコントロール』だ。紗良から聞いたが、敵と戦った時、思ったように攻撃が当たってなかったそうじゃないか」

「そうですね……敵の魔術かとも思いましたが」

「その線は大いにある。が、逆に自分の太刀筋を把握できれば、その回避が魔術によるものか、自分の制御がなってなかったかの見極めもできるようになる」

「ほほう」


 ヤバイ、魔術トレーナーとしてのクレアさんは輝いている。


「よし、この線に沿って切るんだ。武器の修復はできるか?」

「やってみます」


とりあえず、なんとなく、ハサミに手をかざしてみる。万全なハサミをイメージしながら。すると赤い光とともに、刃こぼれがなくなって、武器全体の歪みも直った。


「筋がいいな。教えてもないのに」

「なんか、これでいけるような気がして」

「そうか。あと、修復には魔力がかかるのと、時間もかかる。修復が間に合わないと思ったら、新しい武器を用意するとか戦略的に立ち回ろう……なんか楽しそうだな?」


 気づかず笑みがこぼれていた。


「いや……楽しいんです」

「それはよかった。バビロンの魔術師たちは、こういった訓練は好かないのが多いからな」


 修復したハサミをもって、線に沿って振りかぶる。ざくっと、刻まれた傷は線の下を通っていた。


「コントロールは課題かな。まあ得物が大きいからそれに慣れていこうか」


 そう言って、クレアさんは今度は華子の訓練をしに行った。




 ふう、と一息つく。コントロールかぁ。ともう一度振りかぶろうとして気づく。この置物の傷、治し方わからないな。ハサミみたいに直せるんだろうか。

 そう思って、手をかざす。…………。特に何も起こらない。やはり勝手が違うか。とりあえず、そのままで、もう一度線に向かってハサミを振るう。今度は線の上だ。思った以上に難しい。ハサミを振るうのに重量はあまり感じないので、ただ、私の認識がぶれているんだろう。


 何度か繰り返す。申し訳ないが飽きてきた。そう思って、ハサミを開く攻撃をどう組み込むか考えてみる。ハサミを剣みたいに振るうのはフィーリングでどうにかやってるけれど、開いて挟みに行くのは隙が多い気がする。


 ぶんぶん、と置物に袈裟切りして、引いたとこからハサミを開いて置物に突っ込ませる。いや、意外に隙なく行けるかもしれない。


「おいおい職人か?」


 ふいに声がかけられる。


「いや、ハサミの必殺攻撃をどうしたら違和感なく組み込めるかなって」

「……凝り性だな、やよい」

「そうなんですかね……」

「そういう熱心さ、大事だぞ」


 褒められて、ちょっと赤くなる。


「……そうですか」

「ああ、そういえば練習してほしいことがあった。他の武器のことだ」

「うげっ」

「『C』の魔術書はハサミ以外も扱えるんだ。いろいろ使えて損はないだろう?」

「まあ、確かに……」

「じゃ、練習だ」



 うわぁ……と思いながら、ハサミを地面に刺して、ほかの武器をイメージする。今度は槍をイメージしてみる。

 やはりなかなか出てこない。まず出す練習が必要そう。


(前はたしか)


 敵の存在をイメージする。目の前で、私に武器を振るおうとしてきている、イメージを浮かべる。ここで出せないと死ぬぞ、と言い聞かせる。


「……来た!」


手の赤い光は先端に刃を持つ、槍を成した。


「せいっ!」


 ボロボロの置物に突き刺す。すると、槍は刃の根元からぽきっと折れてしまった。


「ウソ!?」


 無残な姿になった槍を見つめる。……やはり以前の剣同様、どこか迫力がない。どうしたものか。


「……じゃあ」


 もう一度剣に挑む。……! 以前より来るのが早い!

 手にした剣を眺める。……うーん。来るのが早いのはよかったけど、やっぱり何か弱そう。

 一応、と置物に全力で切りかかる。ポキン! と明るい音とともにこれも無残な姿になってしまった。


「ええ……」


 地面へへたり込む。やっぱりハサミじゃないとだめじゃないか。剣や槍のイメージなんて、ハサミよりよっぽど簡単じゃないか。どうして……。


「師匠! どうしたんですか?」


 シンの声がする。あれ? 練習しないのか、と問うと、


「私、夢や睡眠を操作する魔術なので、対物では難しいってクレアさんが」

「そっか……大変だね」

「師匠はこれは……」


 壊れた武器が散乱する現場を見てシンが若干引いている。


「うーん、私のは『切る武器』を扱う魔術書なんだけど、なんかハサミ以外うまくいかなくって」

「そうなんですね……とりあえず、小さいものから練習してみるのはどうでしょう」

「小さいもの?」

「ナイフとか」


 ほほう。確かに。剣や槍といった長物ばかり考えていたが、まずそのレベルから考えるのがよさそうだ。できた弟子だ……。


「それはいいかも。サンキュー」

「いえ、師匠の役に立てたのなら……」


 性格もいいな……。さぞかし未来の私もほめていただろうな。


 

 助言通り、ナイフをイメージして武器を作る。呼吸を整えて。手元にイメージを置く。さっきの剣よりも早く、ナイフが形づくられた。


「おお……」


 きらりと光る刃は、もしかすると折れないような気がしてきた。気分が舞い上がって、思わず置物に投げつけてしまった。ぶつかった木像に深く刺さったのが見えて、さらにうれしくなった。

 ナイフを抜くと、刃こぼれ一つしていない。うん、これは成功だ!


 ……ところでなんだか、体が重くなってきた。もしやこれは、魔力切れ、って奴だろうか。縁側で少し、休む。


「調子はどう、古木さん」


 華子だ。華子はというと、動くボールとか使ってそれに停止魔術を当てる練習をしているらしい。ザ・基礎連って感じがする。


「ちょっと疲れた」

「あらあら……これだけ武器作ればそりゃ疲れるよ」


 ハサミ、槍、剣、ナイフ。……確かに、一人が扱う量じゃないかも。


「私もこんなに杖出したりしないし」


 そりゃそうだよ。


「華子って、どんな武器が使えるの」

「杖とか、盾とか、あともうちょっと頑張れば弓とか」

「うん……器用だよね」

「でも古木さんの扱う、近接武器はたぶん私のよりデリケートな作りなんじゃないかな」

「そういうもんかな~……」

「ぶつかって壊れないようにする、とか逆に壊しに行くって武器、魔力の使い方が違いそうだもん」

「そうかもなぁ」

「まあ、ゆっくり頑張ろう」

「うん」


 そういうと華子は自分の練習に戻った。

 


 体のだるさがなかなか抜けない。魔力ってちょっと休憩しただけじゃ回復しないのかな?


「マジかやよい」


 散乱した武器たちを見てクレアさんが言った。


「初日から飛ばしすぎだ」

「華子にも言われました……」


 やれやれ、といった感じで、でも少しクレアさんは嬉しそうだった。


「よし、日も暮れてきたし、今日はここらへんで終わるとするか」


時計を見ると午後6時を回っていた。こんなに熱中していたとは、と自分で驚く。



「あたしは48発までは大丈夫だったわ」


練習の成果を聞く。紗良の成果。勢いでぶっ放してるように見えて、自分の限界を探っていたとは、驚きだ。


「その後は弾の威力がガタ落ちしたわ」

「疲れたりしてない?」


 私同様の症状が出てないか確かめてみる。


「ちょっと眠い」

「やっぱり」

「私は消耗が少ないのかな、そんなに疲れてないよ」


 華子だ。……やっぱセンスがあるのはうらやましい。


「そ。うらやましいわね」

「私は武器を出しすぎてバテました」

「やよいの武器、どう見ても危険物なんだからそんなにポンポン出されても困るわ」

「ははは……」


 返す言葉もない。


「私は、今度野生の動物にでも、術をかける練習をしてくれって言われました」


 シンの練習は結局はかどらなかったみたいだ。対人間になんておっかないし、そういう練習方法になってくるのか。


「よし。各自。頑張るのもいいが、休むのはもっと大事だ。きっちり休息をとるように」


 初の活動、これにて終了! とても有意義な時間になった。

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