表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七冊の魔女  作者: 黒上タクト
第一部
5/66

#05 不穏

『………う。……しょう…師匠……』


 どこからか声がする。意識がはっきりしない……。これは夢かな……?


『師匠……どこにいるの……師匠……』


 師匠? 誰のことなんだろう……。


『師匠……私がわかりますか……?』


 なんだか私に語り掛けられている気がする。


『あっ……もう時間が……師匠……!』


 その言葉の後に、はっと目が覚める。ベッドの上。さっき私の頭に響いていた声はすんと消えている。

(夢……にしてはすごく頭に響く夢だ……)

 さっきの呼びかけが頭から離れない。時計を見ると目覚ましの5分前の時間だったので学校の準備をする。




「おはよう、やよい!」


 校門の前で私に挨拶をしてきたのは紗良だ。こうやって名前を呼んでくれたのは初めてだったのでやよい呼びにちょっと戸惑う。


「おはよう紗良」

「なんだか元気ないわね」


私の顔を覗き込むようにみて、発した。


「実は今日変な夢見ちゃって」

「夢?」

「真っ暗なところで私が知らない誰かから『師匠』って呼ばれる続ける夢」

「やよいが師匠ねぇ……ないかも」

「ないよね」


 たはは、と乾いた笑いが出た。……師匠って呼ばれる何か特技があるわけでもないし。


「なんかその声がさ、この前の通信の魔術みたいな感覚でさ、あれ?って」

「ふーん、もしかしてクレアはあたしたち以外にもこの魔術を教えていたとか」


 あるかなぁ、そんなこと。



 昼休み、華子にも聞いてみる。


「古木さんを師匠って思ったことはないねぇ」

「そうだよね……」

「他の誰かに心当たりない? 小・中学校でそんな仲だった人とか」

「うーん、そんな人いなかったと思うけどね」

「そっかー……じゃあやっぱただの夢だよ」


 そうか。と納得する。夢だ。ただのインパクトの強い夢。




 放課後すぐ、クレアさんに魔術で問いかける。


『お、やよいか。なにか見つかったか?』


 そう期待を込めた声が聞こえる。申し訳ないけどそういう話じゃないんだ……。


『いや……クレアさんって、この魔術、私たち以外に教えた人います?』


『? いや、いないが……』


 やっぱりいなかった。


『今朝、この魔術と似た感覚で呼びかけられる夢を見たので……』

『ははぁ……でも感覚が似ている、というのならもしかしたら他の誰かが夢できみに無意識で通信しようとしたのかもしれない』

『他の二人に聞いても心当たりはなさそうでしたよ。あと私を師匠と呼んでたんですその声』

『やよいが師匠か、ははっ』


 やっぱり笑うよなぁ、と苦笑いする。


『まあ、夢っていうのは起きた後すぐ忘れてしまうことだってある。おそらくどっちかが夢で問いかけていた……かその通信の感覚が新鮮で夢で思い出しただけか。そんな気にすることではないさ』

『そうですか……はい、安心しました』


「やよいー! 調査にいくわよー!」


 外から元気な紗良の声が聞こえる。


『これから学校を調べてきます』

『了解、気を付けて』


 こうしてクレアさんとの通信は終わった。




 学校内を見て回る。……調査といっても何をすればいいんだろう。なにか不思議な事象が起こっているとかかな……?


「古木さん、幽谷さん、なにか変わったことあった?」

「別にないわねー」

「私も特に……」


 困って外を見てみる。園芸部の花壇が見える。流石園芸部、といったところか。大輪の花が綺麗に咲いている。向日葵も咲いている。……まだ初夏だけれど?


「この時期に向日葵って早くない……?」


花壇を指して二人に話す。


「うん、ちょっと早いかも」

「そうね」

「……『成長』の魔術ってなかった?」

「あ」


二人ともハッとする。


「園芸部に魔術書を使える人がいるかもしれないわね」

「行ってみよう」




 園芸部部室―――というか理科室だった。先生がいたので訊いてみる。


「園芸部? あーもう帰ったんじゃないかな」


 外ではスポーツ系の部活動の声が聞こえる。時刻は午後5時。部活を終えるには早すぎないだろうか。


「園芸部の活動は放課後だけじゃなくて朝にもやっているからまた来るといい」


 パタンと戸を閉める。ううむ、タイミングが合わなかったか。でも、クレアさんの言っていた通り、花を咲かせる、なんてとても平和な用途に使われているようで和んでしまった。悪用の気配はどうにも感じないし、回収は急がなくていいかもしれない。


「また今度だね」

「そうね……」


 『G』の当てはできた。……となると、あと『A』『D』『E』だ。このなかでクレアさんが悪用の心配をしていたものが2冊。できるだけ早く回収したい。



 前から男子二人組が歩いてくる。


「こんまえセガワさんに振られちゃってさ……なんか合わないって」

「マジかよ……」


 そんな会話が聞こえる。あれ? この声は。

 やっぱり! この前恋愛の話をしていた男子だ。さわやかなショートヘアーが目立つ。そして思い出した。サイトウさんのことを。


「ちょっといいですか!」


 その男子に声をかけてみる。華子と紗良がぽかんとしている。


「な、なんだよ……」

「お兄さん、以前、サイトウさんが気になってませんでした?」


 戸惑った男子だったが、


「サイトウさん? いや無理無理、俺なんかが釣り合わないって。……あとごめん、いま恋愛の話は……したくないんだ……」


 そう悲しげに歩き去っていった。


「やよいって……なかなかサドね」

「古木さん、もうちょっとなんかあったと思うよ」


 苦言を呈する二人。いわれてみれば残酷なことしてしまったかもしれない。……でも、これは私が感じた違和感へ近づくためのアクションだったんだ、しょうがない。


「で、やよいは何が気になってあんなこと聞いたのかしら」


 紗良の質問。これはきちんと答えておかないといけない。


「前にあの男子、サイトウさんに告白するって言ってたんだけど、なぜかすぐに告白する人を変えててあれ?って思って」

「気が変わったんじゃない? 高嶺の花って気づいて折れた、けど彼女は欲しいっていう軽い気持ちで」

「そう……いうもんなのかな」

「そういう軽い奴はわんさかいるわ」

「えっ」


 鋭い口調になった紗良に耳を傾ける。


「あたしの周りだっているわ。そんな軽い考えで寄ってくるゴミが」

「ゴミ」


 急に出たどす黒いワードにビビる。


「あたしそういう軽々しいやつ大嫌いなの。というか身の回りそんな奴ばっかでうんざり。恋人志望にしても、友達志望にしても」


 ……気の強さの片鱗は出会った時から醸し出していたが、まさかこう堂々とカミングアウトしてくるとは……。


「…………私たちのことは?」


重々しい、けど、聞いてみた。


「やよいのことは出会ったあの時からピンときて仲良くしたいって思ったわ。凹数さんは……」

「……ゴクリ」

「これから次第ね」


 謎の緊迫感が走る。華子にたいしてはそう感じていたとは。私に対してフレンドリーなのはどことなくわかっていたけど。こう堂々と言い放つ紗良も相当強いハートだ。


「そ、そうだね、幽谷さん……」

「……」


 あ、この視線はあまり好印象を持っていない目だ。ヤバイ。逃げ出したくなってきた。


「はいはい、もう紗良、あまり怖いこと言わないで」

「そうね。悪かったわ。こんな空気にして」

「あはは……」


 華子も取り繕ってはいるが手がめちゃくちゃ震えている。……やはり紗良は問題児だったかも……。

 



 あの男子は特に関係なさそうなのはわかったから、とりあえずの収穫は『G』の情報くらいになった。そそくさとクレアさんに伝える。


『お。情報が早いな。優秀な部員たちだ』

『いやぁ、それほどでも』

『前も言ったがGの書はあまり悪用に向かないから余裕をもって回収に当たってくれ。今日は回収できなかったのか?』

『はい、どうやら持ち主がもう帰っていて』

『なるほどわかった。こちらも街を捜索したが収穫なしだ』

『……ねえクレア。もしかして観光してる?』


 紗良の急なツッコミが入った。


『……ギク。なぜわかった』

『いえ、いいのよ。この街を知る、というところでもいいことだと思うわ』

『……』

『もしかして「観光」一辺倒ですか』

『そんなことはない!』


 ないぞ! と否定を重ねるクレアさん。怪しい……。


『こほん。とりあえず、収穫があっただけでも満点だ。みな、気を付けて帰るんだぞ』


 まるで先生のような言葉を発するクレアさん。だんだんそのポジションがなじんできている気がする。


「帰ろっか」

「そうね」

「うん」


 そして、靴箱へ向かおうとしたとき―――。


「ちょっとあなた」


 背後から声をかけられた。


「これ、落としたわよ」


 少し遠くから近づいてくる。黒髪ロングが綺麗な、美人さんだ。手に持っているのは……赤い本。私の魔術書!?


「えっ嘘」


 思わず慌てふためく。そんな大事なものを落としてしまうなんて。


「あ、ありがとうございます」

「いいのよ」


 そういうと3年の教室に向かっていった。


「今の……」

「3年B組の『あの』サイトウさんだよ」

「ああ!」


 完璧人間サイトウさんか! どおりでとてつもないオーラを纏っていると思った。


「もうやよいってばおっちょこちょいさんね」

「あはは……」


 見ると鞄のチャックが開いている。この状態に気づかずにずっと歩き回っていたんだろうか? 私としたことがウカツだ。よりによって魔術書だなんて……鞄の下のほうに入れてたはずなんだけどなぁ。

 少し恥ずかしくなりながら、帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ