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七冊の魔女  作者: 黒上タクト
第一部
4/66

#04 紹介

 登校前、テレビでニュースを見ていると、昨日の火事騒ぎに関するニュースが流れてきた。


「…明海商店街での火事による死傷者は出ていないそうです」


 そう発せられたアナウンサーの言葉に耳を疑う。あの周辺を燃やした火事で誰も死傷者が出ていないなんて。いいニュースだけれども、不自然だ。それに、どうやら私たち『魔女』の抗争についても報道はなかった。……逆にニュースにしたらどういう感じになるのか気になるけど。

 疑問が頭に残ったまま、私は学校へ向かった。



 放課後、予定していたクレアさんたちとの話し合いに行こうと教室を出ようとすると、外から騒がしい声が聞こえた。


「ついにセガワさんに告白しちゃってさー」

「マジか、なんか意外だな~」


ととても騒がしい。その声の主がちらっと目に入る。……あれ、あの男子、この前3年のサイトウさんに告白するって言ってた男子のような気がする。そんなに男子高校生の気ってコロコロ変わるかなぁ? なんだか不思議なことが世の中多い気がする。




 待ち合わせ場所、明海高校近くの公園につく。そこには幽谷さん、華子、クレアさんと一同そろっていた。


「遅くなってすいません」

「みんな今来たばかりよ」


そう幽谷さんが答えた。


「まあ、ここで話し合いというのもなんだし、うちで話しましょう」


 ……どうにもフレンドリー加減がずれている気がする。会ったばっかりの私たちをすぐに家に招こうとは。確かに公園で話すのもいまいち気が乗らなかっので私は賛同する。他の二人も同じく。


 歩いて七、八分。幽谷邸と呼んでいい巨大な屋敷が現れた。あまりこの方面にはいかないのでなじみがないけれどとりあえず、他の家と勘違いすることはなさそうだ。


「……ここか?」


 呆気に取られてたクレアさんが幽谷さんに一応問う。


「そうよ、うち」


 なにも気に掛けることくその屋敷に進んでいく。入口からして荘厳な雰囲気が漂う。



 広間に通される。電器屋でしか見かけないような巨大なテレビとふかふかそうなソファーが並んでいる。どうしよう。落ち着かない。


「ゆっくりしていってちょうだい」


 幽谷さんはにこやかに言うけれど。……落ち着かない。とりあえず遠慮がちにソファーに座っていく。あぁ。全身が溶け出しそうなくらい座り心地がいい。ふう、と一息ついてふと見るとクレアさんは表情が溶けていた。華子は何も感じないかのように普通に座っている。


「それで、話というのは」


 幽谷さんが切り出すと、んん、と表情を改めてクレアさんが話し出す。


「きみがこの前手に入れた本を見せてくれ」


 そういうと幽谷さんは本棚から分厚い本を取り出す。鮮やかな青が綺麗だ。


「……うん、間違いない。『Bの魔術書』だ。あんな騒ぎに巻き込まれてたのがウソと思うくらい綺麗な状態だ」


 鑑定するように見定めるクレアさん。そして。


「この魔術書をきみは読むことができるんだね」

「ええ。でも一部読めない部分があったわ」


 そうか……とクレアさんは考え込む。


「この本が読める、というのは」

「『魔女』になれるというのですね」

「ああ」


 幽谷さんもある程度察しがついていたらしい。ここからが本題だ。


「……『魔女』に」

「なるわ」

「……気が早いなきみは。やよいや華子が繰り広げたあの戦いを目にしたはずだ。それでもなるというのかい」

「はい」


 ……その曇り一つない返事は、何も見ず突っ込むような危なっかしさを感じる。


「幽谷さん……あれ、結構危ないよ?」

「紗良でいいわ。もちろん承知よ」


幽谷さん……紗良は、やはり余裕たっぷりなにこやかさを崩さず言った。


「……そう、か。そうなら……」


一瞬、空気が曇った。が。


「歓迎会と行こう!」


 クレアさんのパッと明るい声で一蹴された。一気に変わった雰囲にずり落ちそうになる。




 テーブルの上にお菓子や飲み物が並ぶ。準備したのは幽谷邸のお手伝いさんだった。やっぱりお金持ちだ! お手伝いさんが準備の際、クレアさんに飲酒の確認をしていたが断っていたのが少し可笑しかった。

 ぽんぽんと用意されたマカロンを遠慮がちにつまみながら、クレアさんに言う。


「そういえば、私もうちょっとみんなの魔術とか知りたいです。今後のためにも」


! と驚いたような、思い出したかのような表情をしてクレアさんは、


「そうだな、みんなの魔術書のこととか、ちゃんと教えておかないとな」


 今私たちの手元にはB、C、Fの魔術書がある。これを把握しておいたほうがきっとやりやすくなるだろう。皆の注目を集めてクレアさんは解説する。


「じゃあまず、『C』から行こう。Cの魔術書は"cutter circus"といってだな、近接武器、その中でも『剣』や『槍』といった『切る、切断する』武器の扱いを得手とする魔術書だ。……現物もあるしやよい、変身してくれ」


突然言われたのでびっくりしながらも変身する。


「やっぱ古木さんのザ・魔女って見た目してるね」


 誰もがイメージするようなマントや服、帽子は確かに正統派の魔女って感じだ。


「そう見えるが剣を振るうのが得意ってのがよくわからんな。この本の著者は」


 確かにズレている。


「武器を出してみてくれ」


 以前、ハサミが地面に刺さったことを思い出して、慎重に武器を呼び出す。やっぱりハサミだ。


「……前から思ってたがなんでハサミなんだやよい」

「……なんでですかね? 自分にもよくわからないです」

「やっぱり迫力ある武器ね!」


 159センチある私の背丈くらいあるハサミは他人から見てもおっかなく見えるだろう。取っ手の部分が3分の1、刃の部分が3分の2くらい。


「そういえばこのハサミ、前に魔女に切りかかったとき背で叩いたのに切れたんですけど何でですかね?」

「おそらく『切る』という魔術の結晶だから……かな。対峙するものにその魔法をかけて行ってるのだろう。あと、私の予想だが、そのハサミの刃の部分はもっと切れると思う」


ほう、と恐る恐るハサミを開いてみる。なんというか……ギロチンのような、すべてを断ち切るような迫力にすごむ。


「本当に危なそうですね」

「魔術は使用者の意識が反映されるからな。ハサミは挟んで切るものだろう?」


 そういえばそうだ。とりあえず切る相手もないので片付くように念じる。ハサミは赤い光になって消えた。


「他に何か出せそうなものはないか?」


 他の物、ほかのもの……とりあえず剣を手元にイメージする。


「ハサミと比べて遅いな……」


 手元であいまいな形をしている魔力。思ったようにイメージする剣にたどり着かない……。


「あっ敵だ!」


 クレアさんの声に驚いて構えようとする。すると手元の魔力はどうにか剣を形作った。


「と使用者の精神状態が大きく影響するのが魔術だ。うーん、やよいの武器はハサミが一番いいのかな」


 敵なんていないじゃないか、と騙されてすこし膨れながらも作り出した剣を置く。なんだかハサミと比べると見た目からして強くなさそう。ちゃんと剣の形はしているけど、ハサミに感じた迫力が欠けている気がする。


「まあ魔女と戦うときには余裕を持つのは難しいからな。戦いやすい得物がいいだろう」

「どうにか使いこなしたいですけどね」

「おっ、それなら時々使い方とか魔術とか教えてやろう。変身している状態ならおそらくいろいろできるだろう」


 これは願ったりかなったりだ。私はこの魔術書や魔術を使いこなしたい。自分のためにも、みんなのためにも。


「さ、次だ。華子、『Fの魔術書』だ」


 こくり、とうなづいて華子は変身した。


「こう言ってはあれですけどなんだか仮装パーティーみたいですね」


 魔女になった華子と目の前のお菓子を見て思った。


「『仮装』ではないけどな」

「たしかに……」



「『F』は"freeze field"といって、物体を凍らせる……かのように物体を静止させる能力だ」

「ふーん」

「ああ、あの」


 前の戦いでビームを固めた能力だ。


「どうも使い勝手がいいみたいでな、エネルギーを飛ばして能力を発生させることもできるし、直接触れたものを固めることもできる」

「武器とかないんですか」

「武器は私の好みで選ぶ」


 そういうと華子は杖を取り出した。これは以前見た。


「エネルギーはこれで飛ばす。こっちに攻撃が来るときは」


薄い、雪の結晶のような模様の盾が出てきた。


「すごい便利そう」

「実際便利だからな……使う人間のセンスが問われるものでもあるけど」

「古木さん、パンチしてみて」


 そういって盾を構える華子。どんと小突いてみる。すると盾に向かっていた力が私の体からふわっと消えた。不思議な感覚だ。


 ううむ、なんだか華子の本のほうが便利そうな気がして悔しい。そしてさらっといろんなものの扱いにも長けているな! 杖も盾も。くぅ。


「華子はセンスがあるタイプだな。まるで元々魔女だったかのような」

「照れます……」


 クレアさんも言うか。


「さて後は『B』だ。紗良、変身してみてくれ。ここら辺のページだ」

「わかったわ。"build; bloom bullet"」


すると青い光が紗良を包んでいく。buildか。各魔術書で変身する詠唱が違うのは本の作者の趣味なんだろうか。


 変身を終えた紗良を見る。青色を中心に彩るその服は私や華子とはちょっと違って、マントはあるけど帽子がない。どちらかといえば魔法使いというより騎士? みたいな服装に見える。


「ちょっと思ってたのと違うわね……」


 なぜかしゅんとする紗良。


「でもこれはこれでかっこいいと思うよ」

「本当?」


 うん、と答えると彼女は笑顔になった。


「『B』は銃火器の扱いに長けた魔術だ。銃は出せるか?」


紗良は頷いて手元にピストルを呼び出す。あ、少し魔女っぽい意匠が入っている。


「ただの拳銃に見えるが魔力が込められている以上、威力は普通のピストルとは段違いだ」

「撃ってもいいかしら」


 そう言って華子の盾に向ける。


「おいおいやめてくれ! こんなところで暴れるな」


 流石に止めに入るクレアさん。……でも、華子の盾にぶつかるとどうなるかは知りたい。……場所が悪いな。もう少し広い野外でまた試してみたいところ。


「冗談よ冗談」

「冗談に聞こえなかったが!?」

「他にも銃が出せそうね」

「あーそうだそうだ、拳銃以外にも、狙撃銃やマシンガンも取り扱えるんじゃないか」


すると、ライフルやいろんな銃が生み出される。ずいぶん種類がある。普通の銃器は黒っぽくて渋い色合いだけど、紗良が作ったのは彼女の服装の青や白の入ったカラーリングのものが多いから綺麗な感じがする。


「銃、好きなの?」

「嫌いじゃないわ」


いわゆる『マニア』の域のような気がする。


「あと大砲とか」


ドン! と大きな砲台が置かれる。床が抜けそうだ。


「ずいぶん遠慮がないな……」 


クレアさんの顔が青い。どうにも破天荒すぎると私も思う。


「……って感じで銃火器の扱いに長けてるのが『B』だ。たくさん銃が出せるし乱戦が得意な魔術師になるんじゃないかな」

「撃ちたいわね!」

「やめろやめろ!」


クレアさんの胃が痛そうだ……。


「……紗良、銃刀法違反で捕まらないようにね」

「そこは気を付けるわ」


 山のように出した銃をササッと紗良は片付けた。


「あ、あと言い忘れてた。『魔力』についてだ、これは大事な話だ」


 冷や汗をぬぐいながらクレアさんは話す。


「魔術には『魔力』が必要不可欠なんだ」


 魔力。ゲームやアニメにはよく見かけるけれど馴染みのないもの。


「魔術が使えているってことは私たちも魔力があるんですよね」

「そう。というか基本生命や物体には魔力があるといっていい。どうやらバビロンの人間以外は出力方法を知らないらしいが」


 変身する私たち以外の人や物体にすらあるらしい。驚いた。


「きみ達の使う武器やエネルギーの発生には魔力が消費されている。体力と同じように使えば疲労がたまる」


 そうだったのか。さっきハサミを出したときは気にならなかったけど。


「使えば消耗するということは、ガス欠も存在するということ。やよいは武器一つで戦うタイプだからそこそこフィジカルに魔力を生かせるだろう。華子は使い方次第。そして紗良。きみは調子に乗って弾丸をばらまくときっとすぐに疲れ果ててしまう」


 紗良が見たことないような『はぁ?』って感じの顔をしている。


「さっき乱戦が得意な魔術師っていったじゃない!」

「乱戦も脳筋ではダメだぞ」

「誰が脳筋よ!」

「まあまあ」


 私が止めに入る。


「一応『B』も一発を重要視する狙撃中心に組み立てていけばガス欠はしないだろうが……まぁ、そこは置いといて」


 すう、とクレアさんは息を吸って。


「魔力は体力と同じように心身ともに健康なのがベストな状態になる。だから、各自体調には気を付けて」


 なんだ。意外と普通だ。MPとHPってあるようにちょっと特殊なものと思っていたけれど。


「筋トレみたいに鍛えられないんですか?」

「鍛える、というか魔術の使用になれていくのが大事かな。魔術の練習をしていくことで魔力の消費が最適化されるという形で増強可能だろう」


 つまりは練習して省エネしていくのが大事ってことか。


「ふう。喋りすぎたな」


 手元のオレンジジュースを飲み干すクレアさん。


「そういえば」


 紗良が話し始める。


「クレアは魔女なの?」


 少し迷ったように、クレアさんは答えた。


「そうだな~……魔女ではあるが……ちょっとセンスがなかった」


 前々から魔術は苦手といっていた。


「魔力の上限が著しく低い。結果的に自分の魔力を使うことが難しいんだ」

「そうなんですね……」

「バビロンの人間でそういうのは珍しくてね。でも、この体質が幸いしてバビロンの司書になれたってのはある」

「どうして?」

「管理している魔術の濫用が難しいからさ」


 なるほど、と感心する。短所を活かして職を選ぶとはなんだか素敵だ。……あれ? そういえば苦手とはいっても魔術は使ってたな……?


「ライトの魔術とかやってませんでした?」

「それは、石の魔力を使って魔術を使った。『別の物体の魔力の出力』というのは高等技術だが可能なんだ。まぁこれは私の知識と努力が実った結果だ」


 努力の結果、か。クレアさんはなんだか頼りないと思った自分を恥じる。魔術書を扱う図書館の司書になるのも難しそうだし、ハンデを負っても魔術に対する執念で乗り越えようとするその姿勢は尊敬したくなる。



「さて、魔術とかに関する話はこれでおしまいかな」


 外をみるともう真っ暗になっていた。おばあちゃんには遅くなるといっているけど。


「待ってください」


 華子が呼び止めた。


「残りの4冊に関しての情報ってありますか」


魔術書は全7冊。ここにない4冊がまだある。それに関する情報……例えばだけど、色とか解れば見つけやすくなるかもしれない。


「残り、『A』『D』『E』『G』……まあ長くなってしまうから簡単に言っておこう」



A……"abnormal alter"『現実改変』能力らしい。実際に使用された例がないらしいけど、明らかにヤバい能力な気がする。ピンク色。


D……"dope dream"『夢』『睡眠』を操る能力らしい。夢を操るくらいならなんか大したことないような気がする。緑色。


E……"evil exceed"『悪』を司る能力らしい。これとAがクレアさん的には心配らしい。黒色。evilってちょっと怖い……。


G……"ghost growing"『成長』を司る能力らしい。どうにもニッチな能力らしく、あまり悪用の心配はないと言っていた。オレンジ色。



「……とまあこんな感じだ」


 簡潔に説明を終えた。


「あと私が気になっているのは、魔術書がきみ達の学校の生徒にばかり渡っていることだ」


! 確かに。7分の3がうちの生徒って偶然としてはできすぎている。


「あの学校に何かあるのか、それともこの周辺に落ちたから起きた現象なのかはわからないが……拾った人物が皆その本が読めることについては」


 一息ついて。


「―――どうにも魔術書のほうから使い手に近づいている気がする」


 その言葉に唖然とした。普通では考えられないことだ。本に足でも生えているのだろうか。でも、魔術書、魔術がかかわるとなると大いにある……のかもしれない。


「そう考えると、私たちが汗水流して街中探してもあまり有効的とは言いにくいな」

「……じゃあ、誰か拾って使われたのを見て動くしかないと」

「そうかもしれない」


 こう後手後手で対応していくのは……しょうがないとしても、あまりスッとしない。


「だが、探すという視点では明海高校の生徒にばかり魔術書が渡っているのは悪い話ではない。そこを重点的に調べれば魔術書と、その使い手になれる人間を見つけられる可能性が高いからだ。で、君たちの出番だ」

「私たちの」

「明海高校内の調査をお願いしたい」


 なるほど。確かに私たちにぴったりの役割だ。


「私単独では学校の敷地には入りにくいしな。それに3人チームになった今なら単独で探すよりも行動しやすいだろう」

「……なんだか、部活みたいですね」


その私の発言に、皆ふふと笑う。


「そうだな。明海高校魔術部、なんてな。顧問は私か?」


 本当にそれらしい感じがする。部活か。どっか入るとか全然考えていなかったけれど、ちょっとありな気がしてきた。わくわくする。


「古木さんうれしそう」


 ふいに華子に言われて気づく。顔に出ていた。


「明海高校がクロだったら私に教えてくれよ」

「そうします。そういえばクレアさんとの連絡手段が欲しいのですけど」


 あ! と驚いた顔のクレアさん。


「フクロウじゃだめか」

「ちょっと不便ですね」


やれやれといった様子で続ける。


「……魔術を一つ教えておくか。みんな、手のひらを出して」


 言われたとおりに手を出す。そこにクレアさんが手をかざす。その瞬間、静電気のような何かが手に走る。


「痛っ」

「これで完了」


 完了?


『聞こえるか皆、私だ』


そう聞こえてくる。前にいるクレアさんは一切喋っていないのに。


『な、なんですかこれ……えっ』


 テレパシーのように、考えたことが発せられる。


『みんなも互いに手をかざしあってくれ』


そう聞こえて、私は隣にいた紗良と重ねようとする。……紗良にも、そして華子にも今の指示が聞こえていたみたいだ。


『あ、あー 聞こえる? やよいです』

『聞こえるわー』

『きこえるよー』

『うまくいったみたいだな。これの使い方は連絡したい相手のことを考えて強く念じてくれ。複数人宛てでもOKだ』


 なるほど、すごく便利な魔術だ。クレアさんが電話を持っていないのも納得な魔術だ。


『ちなみに、いま与えた魔術の権限は私が持っているから、君たちから他の誰かにこの魔術を与えることはできない。それは覚えていてくれ』


 予想していた手段よりなんだか未来的な、なんというか、すごくて感動する。


「魔術ということは、魔力を消耗する。緊急以外で使うのはおすすめしない」


 今度はちゃんと耳へ声が聞こえてくる。


「これって、相手が寝ていたりしたらどうなるんですか?」

「相手の意識とつながらないから通信はできないな」


 どうやら電話と大差ない使い勝手だ。


「ありがとうございます、クレアさん」

「うん。じゃあ、そろそろ解散と行くか」


 結局かなりの長居になってしまった。……そういえば紗良の親が帰ってくる気配がない。


「紗良の親は帰ってこないの?」

「そうね、いつも仕事で遅いの」

「そうなんだ」

「……暗いからうちのお手伝いに送らせるわ」


 そんな、と思ったが既に車の用意をしていた。なんだか申し訳ない。

 ……幽谷邸。結局めちゃくちゃくつろいでしまった。でも今日はすごく大事な日になったな。濃かった。


 魔術部か。やっぱり新鮮でわくわくする。

 浮ついた気持ちは寝るまで収まることはなかった。

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