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七冊の魔女  作者: 黒上タクト
第一部
3/66

#03 戦闘


 明海商店街の路地裏。そこへ一匹、黒猫が進んでいく。その後ろを、洒落たロングヘアーの少女が追いかける。少女が黒猫を追いかけていたのは、その黒猫の青い目が印象的で、ふとついて行ってみたくなったから、いわゆる寄り道である。


 下校中の夕方、外も薄暗くなる時間帯である。彼女にとっては寄り道自体は珍しくはない。


 足早に歩いていく黒猫をこちらも早足で追いかける少女。まるで何かに誘うような……そんな黒猫。


 追いかけ続け十五分程度、少女は行き止まりにたどり着く。人にとっては。黒猫は持ち前の運動神経で立ちはだかる壁をそそくさと登って行ってその先に行ってしまった。

(さすがに無理か)

 そう思った彼女が目を落とすと、何か道の真ん中に落ちているにしては綺麗な本が視界に入る。さっきも見たような青の本。何か辞典のように分厚い。


 拾い上げてみると、やはり、さっき落としたかのように土もついておらずきれいな状態だ。


「ブルーム、バレット……?」


 小声で表紙の文字を読み上げて、気づく。見たこともない文字で書かれた文章に。


「やぁ」


突然後ろから声がかけられた。


「……どちら様?」


 少女が振り返る先には、鮮やかな赤毛の少女が立っていた。でもなんだか、この近所ではまるで見かけない不思議な服装に不審さが光る。


「僕はマルテ。その本の持主さ」


気さくそうに話しかけてくるマルテ。


「君の持っているその本、僕が落としてしまったものなんだ。よかったら返してよ」


 …………。なんだろう、すこし棘のある言い方だと少女は感じた。マルテの表情を見てみる。



 醜い。醜い本性が見えている。

 笑っている口元と笑っていない目元がアンバランスで醜い。こいつは、何かおかしい奴だ。格好も、態度も。少女は勘づく。


「……ねぇ、早く、してほしいんだけれど」


 少女は動かない。いや、動けなかった。目の前の女の狂気が少しずつ、大きくなって。


「ねぇ」


 その一言は、引き金になった。




 ある日の放課後のことだった。いつも通りに帰宅していると、一匹、鳥が私の肩に乗っかってきた。


「うわぁ!」


 初めての体験にびっくりして声を上げる。その鳥はフクロウ。フクロウなんて野生でも見たことがなかったのでなおさら驚いた。


 そのフクロウの足元に紐で手紙が結ばれていた。フクロウは落ち着いた様子で私の肩から離れてくれない。しぶしぶ手紙を読んでみる。


『魔女案件 至急 明海商店街に来てくれ クレア・ウェジーランド』


ついに来たか、と緊張が走る。魔女案件、とあるのだから戦うことになるんだろう。意を決して、商店街のほうに駆け出した。



 明海商店街に着くと、建物の火事が目についた。ごうごうと燃え盛る建物と消防車のサイレンがうるさく鳴り響く。その近くに、見たことのある姿を捉えた。


「やよい!」

「古木さん!」


 華子もいる。向こうも気づいたようで声をかけてくる。


「何があったんですか!?」


 とにかく問うと、


「原因不明の出火……らしいが、この炎、魔力を帯びているんだ」

「魔力……」

「つまりは、魔女の襲撃だ」


 魔女の襲撃、目の前の光景をみて緊張が高まる。


「ここから魔女の捜索と魔術書の有無を調べる。……最初から無茶な依頼になってしまってすまない」

「……私、頑張ります。街を壊すような連中に、負けたくないです」


 勇気半分で、そうつぶやいたら。


「……そうか、頼もしいな」

「古木さんかっこいい」


 へへ、と自分でも笑っていた。




 消防車の後ろの路地に入る。


「どうやら商店街のとある路地から出火したみたいなんだ。その現場付近から探していこう。今のうちに変身しておいてくれ」

「はい」


赤い本を取り出して、唱える。


「チェンジ、カッターサーカス!」


赤い光が身を包み、『魔女』の姿と成した。


「華子も」


「……"fix; freeze field"」


 そういうと白い光が華子を包み、これも魔女の形を成した。


 私と華子のを見比べると、まずは色合いが全然違った。私は赤・黒といった色が目立つけれど、華子は白・水色、といったまるで正反対な色。形に関しては大きく変わらないけどやはり細かく違ってるのがわかった。


「なんか、キレイな色してるね」


私の感想に、


「ちょっと恥ずかしい……」


華子が目を背けた。


「急ぐぞ」


そんな恥じらいをよそにクレアさんが急かすように言う。はっと気持ちを切り替えて足を進める。



 路地をたどり、出火元と思われる路地にたどり着く。今燃えているのは燃え広がったところらしく、消火は終わっていた。


「何かわかります?」

「ふむ……」


 クレアさんが地面に手をかざす。


「魔力の痕跡がある……ん? なにか四角い……本か? おそらく魔術書のあった痕跡がある。あとは、これだ」


 地面を指さす。踏みだした靴の跡のようなものが私にも見える。


「ここで魔術書をめぐって抗争が発生したようだな」


 靴の跡をたどる。その先はアスファルトの道につながってそれ以降に跡はなかった。


「ここまでか」


入ったきた路地を来た道に抜けるような跡になっている。


「ここから外に向けて追いかけっこか……」


……。残念ながらそれ以上の証拠は私には見えない。


「追跡は難しいですね」

「うーむ」

「周りの人にこの筋から出てきた人がいるか聞いてみましょう」


 冷静な、華子の言葉。


「それがいいな。聞き込み……あー」


私たちの恰好をみてクレアさんがなにか思ったようだ。


「私がしよう」


 確かにこの恰好で他人に話しかけるのはかなり恥ずかしい。


「少し待っててくれ」


了承して、クレアさんは路地を出て行った。




 そろそろ日が沈む。路地の夕方は思った以上に暗い。


「オイ」

「!?」


 低い声で後ろから突然話しかけられる。私はびくっとしてしまう。


「何か用でもあるのか、『魔女』さん」


つまり、と背後にいる存在に感づく。


「あまり邪魔しないでもらえるかな」


振り向くと、赤毛の人物が短い杖をこちらに指していた。


「エンチャント」


そう唱えると同時に杖の先から何かが出るのが見えた。




 反射的に駆け出すと、魔女の服は軽くなるどころかまるで浮力を得たかのように私の体を持ち上げた。


「うわぁっ!」


 外の道路まで飛んでいってしまう。が、不思議とバランスは崩さず、すっと着地することができた。もしかして、この服思った以上にヤバイのかもしれない。

 前を向くと燃え上がる路地が見えた。……そういえば華子は!?


「古木さん」


横からひょっこり姿を現した。


「古木さんはまだ慣れてないんだね」

「うん……まぁ」


呼吸を落ち着ける。爆発に気づいたクレアが視界に入る。


「二人とも! 武器を!」


反射的に武器を呼び出す。今回もお世話になる、ハサミ。


「古木さんの武器、立派だね」


そういう華子は杖だ。近接戦をしないタイプの魔女か。


「ケッ、どいつもこいつも!」


 怒りを表す赤毛の魔女が出てきた。

 ふたたび赤毛はこちらに杖を振るう。火の玉のような魔法が3つ、こちらに飛んでくる。私はさっきの浮力を思い出しながら、大きくジャンプする。

 願ったとおり、跳躍はそこらの建物を跳び越すくらいに飛びあがった。そのまま建物の屋上に着地する。


 すると、屋上の隅でおびえる女の子を見つける。彼女が抱える何かに目を凝らすと、青い、辞書のような書物が見えた。


「大丈夫!?」


私が駆け寄ると怯えて逃げていく。


「来るな!」

「だ、大丈夫! 私は、あなたを傷つけるつもりはないから!」

「え……?」

「もしかして、逃げてたのはあなた?」

「そ……そうよ」


少しずつ警戒を解いていく女の子。


「あっ!!」


再び身を縮み込む女の子。


「見つけたァ!」


 奴も屋上へ『飛んで』きた。

 その声を聞いてハサミを握りこんで振り向く。私のすぐそこに迫っていた火の玉がぶつかって、私を吹き飛ばす。


「うっ!」


ギリギリでバランスをとって着地する、脇腹の辺りが痛い。


「チッ」


赤毛は舌打ちをして、縮みこまった女の子に視線をやる。


「さっさと寄越さないからこういうことになるんだよ!」

「あんたなんか……あんたなんか!!」


そう発したのはなんと女の子だった。ああ見えて実は気が強いのかもしれない。


「その子に手を出すな!」


私も自分を奮い立たせるようにそう口にした。


「オジャマムシがっ!」


今度もまた炎の球を複数、今度は大きめの攻撃が飛んできた。


「……!」


 息を吸う。私は自分のハサミの意味を確かめる。こいつにできることは―――。

 攻撃を見極めて、ハサミを振る。火球ど真ん中をとらえたハサミは、そのまま火球を叩き切る。被弾しないよう、ほかに向かってくる球も捌いていく。捌かれた火球は萎んで消えていった。


「なっ……」

「あああっ!!」


そのまま相手に飛ぶように突っ込んでハサミを振りかぶる。―――当たったかと思ったハサミは空を切った。


「コイツめっ!」


 数歩分、遠ざかった赤毛が再び魔法を唱える。今度はバチバチと電撃を放っている。危ない攻撃だ……!


 すかさず私は盾にするようにハサミを構える。電撃は束になり、ビームのように私に向かってきた。盾になったハサミにぶち当たる。削れるような大きな音が響く。そして気づく。まだ、ハサミを抱える体に余裕がある。


 私は少しずつジリジリと相手に近づく。ビームの威力が増す。私はさらに近づいていく。


「そこまでです!」


何かがビームを横から貫く。それは、華子の放った魔術攻撃だった。それが当たった途端、赤毛の放ったビームはピタリ、と形そのまま凍ったかのように固まってしまった。


「! 今だ!」


 大きく近づいて赤毛に切りかかる。赤毛の魔女はすかさず魔法陣のようなものを前に浮かべ両腕でガードする。ガン、と鈍い音が響く。


「クソ、くそっ!」


後ずさった赤毛の魔女の腕から血が流れている。


「……ここまでか……っ」


 赤毛の魔女はそうつぶやくと、私を追ってきたときのような跳躍でどこか遠くへ飛び去って行った。


 ……脅威は去った。そう感じた途端、体の力が抜けた。


「大丈夫、古木さん?」

「うん、なんとか」


 そう言ってハサミのほうを見る。ハサミはビームを受け止めた面に大きな黒い焦げ跡と削れたような傷が目立つ。

……そうか。私は助けられたのだ。私は攻撃を受け止めたとき、行けると思ってしまった。あのままだと、ハサミが壊れてとんでもない目にあっていたかもしれない。少しぞっとする。


「助けられちゃったね」


 自分の驕りを、反省するようにつぶやく。


「でも、古木さん、かっこよかった」

「……華子こそ」


少し照れながら視線を流す。そういえば、とあの女の子が目に入る。


「大丈夫?」

「……」


 何も言わず、女の子は立ち上がる。よく見ると、上にカーディガンは来ているが、スカートがうちの制服のものだ。


「……貴女、名前は?」

「私? 私は古木やよい。明海高校一年A組」


彼女のスカートをみて、一応クラスも言っておく。


「! 同じ学校なのね! あたしは一年B組カクリヤ サラ! よろしく!」


さっきまで脅威に晒されていたとは思えない元気っぷりに押される。


「よ、よろしく」

「もしかして……貴女もこの本を探しているの?」


そういうと、自分が抱えていた青い本を差し出す。分厚く読めない文字の本。これは……


「……たぶんこれだと思う」

「そうなのね! よかったわ!」

「よかった?」


 ……あんな怖い思いをしていたのに、すごい切り替えの速い子だ。


「いえ、なんでもないわ。とりあえず、あげる。『ブルーム・バレット』なんて変な名前の本よね」


 自分の耳を疑う。


「……今なんて」

「うん? 『ブルーム・バレット』って書いてあるじゃない」


 表紙の文字をさして彼女は言う。……なるほど。私は華子と目を合わせる。華子も同じことを思っているみたいだ。


「おーい! 大丈夫かー!」


 屋上へ出てくる階段から聞いたことのある声がする。ふう。クレアさんへの報告がまた一つ増えてしまった。





 湯船につかりながら考える。攻撃を食らった脇腹が痛い。幸い、軽症のようで薄いアザになってる。

 あの後、カクリヤさんとは後日また話し合うことが決まった。もちろん、魔女に関する話だ。クレアさんがカクリヤさんが青い本―――『Bの魔術書』を読めると知ると目を丸くして驚いていた。


 ……そして、クレアさんには自分の保護者的な立場がなっていなかったと、謝られた。私は正直どうしようもないことだと思うし、クレアさんが悪いとは思っていない。


 ……。

 強くなりたいな、と思った。敵の魔女はやはり強かったし、私の戦い方も全然成っていなかったんだろう。あの本の使い方を、もっと学びたいと思う。私が危機にさらされて、またクレアさんの辛そうな顔は見たくない。


 ふと、赤毛の魔女に切りかかった場面を思い出す。拙くもとらえたと思った攻撃が、なぜか届かなかったこと。もしかして敵の魔術だろうか、と思ったが。……きっと気のせいだ。


 辛くなってきたので考えることを変える。カクリヤさんについてだ。思えば隣のクラスなので見たことがあるような気がする。ロングヘアーがとても優雅な人。カクリヤ、ってどう書くんだろう。もし彼女が私たちの仲間になってくれるというなら、3人。私たちのチームがにぎやかになるな、なんて。


 そういえば最初屋上であったとき、とても語気が強かった。それはあの赤毛の魔女に対してもだった。……あの状況だったけど、なぜあんな態度だったんだろう。


 あ、あと私に対してはなんかフレンドリーだったけど、華子に対してはなんだか眼中にない感じで、よくわからないな。二人で助けたから、華子に対してもフレンドリーなのかな、と思ったけど……。


 いつも隠してる左腕の傷が視界に入る。……あれ、この傷どうやってつけたんだっけ? まるで記憶にない。考えても仕方ないことはたくさんある。




 風呂から上がって、携帯電話を見る。一応スマホ、と呼ばれる機種だ。クレアさんに「連絡手段に伝書鳩改め伝書フクロウは古くないか?」と突っ込むと、なんと彼女はスマホ、携帯電話を持っていなかった。バビロンにはスマホがないのか……もしかしたら『要らない』国なのかもしれない。


 連絡先には華子の連絡先と……あと求められたのでカクリヤさんのも増えた。華子は今後の活動で連絡もいるだろうししても不思議じゃない。カクリヤさんのデータを探す。それらしい名前が見当たらないので検索をかけてみる。


『幽谷 紗良』


これでカクリヤ・サラと読むらしい。幽世かくりよという熟語は知っていたから読めなくはないけど、きっと初見では無理だ。華子といいなんだか難しい苗字の人がこの辺多いらしい。古木はそうでもないけど。


 ……結局、クレアさんと連絡する手段は今のところ、伝書フクロウということになる。これだけだとクレアさんから一方的な通信しかできない気がする。またすぐ会う予定だから、今度相談してみよう。

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