壊れたコップ〜旦那視点〜
サラッとお読みください
妻であるフィーネと初めて会った時の印象は平凡、つまらない、そのくらいだった。だが、交流を深めるうち、些細な事で微笑むフィーネを好ましく思った時にはもう駄目だった。
俺の両親はお互いに愛人と住み、愛なんてものは何処にもない。いつかフィーネも冷たくしていれば愛人を作るはずだ。貴族なんてそんなもの。
だから適当な愛人を作ってみたが、悲しげに「そうですか」と一言、フィーネは別邸に近寄らなくなった。それが無性に愛おしく感じた。あの悲しげな顔が忘れられない。だが俺はフィーネをどう愛せばいいかなんて分からない。
偶に夜、相手をすればコップ中の快感に溺れ溶けた時に朝を迎えもうただのフィーネに戻ってる。沈めた欲情が君と重なる瞬く間にまた微かにざわめく「すまない」なんてかけることもなく君の手を引いて気づけば同じ夜へ。リズムをただ刻むようにそっと響いてる。
軋み揺れるベッドで二人相槌なしに愛撫しかける形だけの「愛」に濡れたままで気づけば眠りについてた俺をフィーネは寂しそうに後ろから抱きしめていた。
ドアが閉まってく最中フィーネが「待って」と言えやしなくてまた口が止まってる。都合いいときに呼んで都合よく終わってくきっとそう思われてることも俺は知ってる。消える背中浮かぶ想い。部屋に一人いれば俺は最低のクズだなんてわかってる。
だけどまた求めてる身体がフィーネを。フィーネとの糸と距離を縮めることはできないけれど、フィーネと身体だけは夜になれば重なり涙を流す身体すらも快感に変わってる。
二人だけの空間で喘ぎ殺す瞬間、ダメだなんて気づいてた。だけどまた口付けをし、都合悪い言葉には口を口で塞いで、愛情と欲情を偽りズラしてく。
寂しいが会った時どこかを疑って最後は同じ答え。自分自身が何してるか分からなく酒を飲む。
俺は最低のクズだ。今更気づいても中途半端。
フィーネに最初に会った時に戻りたい、戻れない、深いとこを見たくない。良いものだけを共有したい。
今日も苦しくて吐いた。このおかしい現象をなんて呼ぶんだろう?
ほら、まただ。フィーネに逢いたくなってきてる。いっそ君の手で殺されたい。
夜、フィーネの気配がして目が覚める。フィーネは片手には拳銃を持って笑っていた。
「ジョエル様……ガラスのコップを落として割ってみて?その割れたコップに謝って?そのコップ治った?そういうこと……」
意味深な言葉を言い、フィーネは俺を殺すのでは無く、遊ぶ様に拳銃で自分の頭を撃ち抜いた。違う、違う!!こんな形で終わるなんて違う!!伸ばした手は銃弾の方向を変えたが、フィーネの頭からはどくどくと血が流れる。
「医者を!!医者を早く!!フィーネ、すまない!!すまない!!俺が全部悪かった!!頼む、置いていかないでくれ!!」
神がいるのなら、フィーネを助けてくれ!!謝って、今度は間違えない様に大事にするから!!
「割れたコップは……もう元には戻らない……すまない、フィーネ……コップは君自身だったんだ……」
血だらけのフィーネを抱きしめ、涙が流れる。ただ、素直になればよかったんだ。愛人など作って試そうとしなければ。フィーネは隣で微笑んでくれたかもしれないのに。
壊れたコップはもう戻らない。
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