乳兄弟
その後、クリスティーナは不安な午後を過ごしていた。一見気を使ってお疲れでしょうからとレオンを連れて行こうとする乳母に、どうやって断ればいいのかと疲弊していた。
しかし、知ってか知らずかレオンがその度に大泣きするので、何とか側に置いておくことが出来た……
入浴の時間が近くなり、レオンをどうしようかと悩んでいると王太子とエヴァンがその他数名の騎士と共に部屋に来て、そのまま乳母を連れて行ってしまった。
残された侍女と共に何が何だか分からず、ドアの前の近衛騎士に聞いてみたが情報は得られなかった。
仕方が無いので侍女に見える位置でレオンを抱いていてもらい、ささっと入浴を済ませ、その後何かあってはと思うと恐ろしくてレオンを離すことが出来なかった。
レオンと一緒にベッドでゴロゴロしていると、昨日より遅い時間にやっと王太子が部屋に来た。
毎日来るとか最悪だとクリスティーナは思っていたが、今日ばかりは早く来ないかと待ちわびていた。
ベッドから降りる前に王太子が横に来てベッドに腰をかけたので、クリスティーナは王太子に詰め寄った。
「それで、乳母を連れて行ったのはどうしてですか?何があったんですか?」
「まあ落ち着け。あの後乳母の部屋とレオンの部屋を調べたら、毒とレオンを殺せと指示する内容の手紙が出てきたんだ。
指示したのは……クリスティーナの実家である公爵家と対立する侯爵だった……
俺たち夫婦が不仲なのは知れ渡っていたからな……王の瞳じゃなければ、レオンの事を不義の子だと仕立てあげてティナを王太子妃の座から引きずり落とす気だったらしい。
だがレオンの瞳は紛れもなく王の瞳だった。だから殺すことにしたと言うわけだ。
だがな……手紙は出てきたんだが侯爵に繋がるものは残念なことに何もなかったんだ。極秘の調査部隊を使って何とか乳母と侯爵が繋がりはしたんだがな……証拠が無いんじゃ手の出しようがないんだ。
すまない……レオンを危険にさらした人物だと分かっているのに……」
「そんな……!毒は大丈夫なんですか?少しでも大変なことになるんじゃないですか?」
「落ち着け、これは王家の秘密なんだが、王の瞳を持つ者に毒は効かないんだ。これは王家でも王の瞳を持つ者にのみ代々伝えられている。
魔力の影響なのか、毒を飲んでも吸収されること無く排出されるのだ。あと、怪我や病気にも他の者よりは強いようだ。」
「そうなんですね……赤ちゃんでもちゃんと排出されるんでしょうか?」
「どんなに小さくても大丈夫だ。レオンに毒の影響は無いから安心してくれ。
ただ……少量でも毒が体内に入ると不快な気分になるんだ。おそらくそれで乳母の授乳を嫌がっていたのだろう。
もしかしたら無理矢理飲ませようとしたのかもしれない。乳母に抱かれるのを酷く嫌がっていただろう?」
「え……?こんなに小さいのに人の見分けがつくんですか?」
「さぁ……それは分からないが、あの泣きかたからして乳母が危険だと言うことだけはわかっていたんだろう。
明日からは信頼のおける乳母に来て貰うことにした。俺の近衛騎士の妻だ。レオンと同じ3ヶ月の息子がいる。
乳兄弟として将来その子がレオンを守る騎士に育つように、一緒に連れて来させることにした。」
「乳兄弟……エヴァン様のような感じですか?」
「いや、エヴァンは幼い頃からの友人だが乳兄弟では無い。俺の乳兄弟はアンドレと言う男だったんだが……先日処刑された。セリナに心酔して、ティナに盛られた毒を用意した罪で潔く自ら毒を煽った……
俺がセリナを妾にせずアンドレに譲っていたら、ティナも傷付かずにアンドレも死なずに済んだのにな……」
「そうだったんですね……」
クリスティーナはそれ以上何も言えず、ただずっと王太子の背中をさすっていた。
暫くすると落ち着いたのか顔を上げた王太子と目があった。虹色に見える不思議な瞳に吸い込まれそうで、目をそらすことが出来なかった。
王太子の手がクリスティーナの頬に添えられ、そのまま触れるだけのキスをされた。何度も何度も繰り返され、下唇を舐められた拍子に思わず口が開き、舌が滑り込んできた。
歯茎をなぞられ、舌を絡められ、思わず力が抜けそうになったところをそのままベッドに押し倒され、王太子が覆い被さってきた。
クリスティーナはどんどん激しくなるキスに息苦しさを感じつつも、王太子の唾液が涙のしょっぱさを含んでいて、抵抗することが出来なかった。
どのくらいそうしていたのか、レオンが泣き出した事で慰めのキスは終わりを迎えた。
(乳兄弟と愛人に裏切られて、乳兄弟が死んだのは自分のせいだと自分を責め続けていたのね……
この人だけが悪い訳じゃないのに……何処かで何か1つでも変わっていたら、今頃どうなっていたんだろう?
ああ、それにしてもレオンが乳母に殺されそうになっていたなんて!毒が効かない体質で本当によかった!こんな小さな子供に毒を盛るなんて……悪魔としか思えないわ!
きっとこれからもレオンが邪魔だと思う人間が現れるはずよね。私が守れるようにしっかりこの世界の事を勉強して、敵は誰かを見極められるようにしなきゃいけないわね)