布が足りない
「息苦しそうだと言われたのは初めてだった。だが、そうだな……思えばずっと息苦しかった気がする。
王になることが当たり前だと教育され、少しでも外れることは許されない……思えばティナとの婚約もそうだった。
そんな日常に嫌気がさして、少し外れた事をしてみたかったのかもしれない……
セリナの事で、ティナにはずいぶん嫌な思いをさせてしまったな……愛だの恋だの思っていたが、実際手に入れてしまえば間違いだったと気付いた。単なる反抗心だったのだと……
ティナが側にいてくれるからもう過ちはおかさない。今後はティナ1人だけだと誓う。
レオンが王になることは決まっているのだが、王子1人だけでは重鎮共がうるさくてな……ティナが元気になったらあと2、3人子供を作ろう。」
「え……いえ、私の事はお気になさらず、どうぞ新しい愛人を探してばかすか子供を作ってください。私はレオンを立派に守り育てますので……」
爽やかに言い切った王太子と違い、クリスティーナの表情は強張っていた。
(いやいやいやいや、もう2、3人子供を作るとか無理ですから!こんなむっつりスケベの浮気男と子作りなんてしたくないし!王太子妃ならそれが勤め?いやだって私クリスティーナじゃないし!そうだ、クリスティーナじゃないってちゃんと言えば大丈夫かな?)
「あの、殿下……実は私、クリスティーナではありません……よく分からないのですが、クリスティーナでは無く、全く別の記憶があるのです。
はっきりした記憶ではないのですが、こことは違う魔法の存在しない世界で生きていた記憶が……
なのでクリスティーナとしての勤めを果たせそうにありません……」
「ああ、ティナ。目覚めてからずっと不安だったんだな。大丈夫だ、クリスティーナとしての勤めを無理に果たそうと思わなくていい。ただ俺の側にいてくれるだけで大丈夫だ。
夜会や式典などは、着飾ってにこにこしておけばいいんだ。会話や駆け引きなんて必要無い。安心しろ、ずっと側にいて守ってやるから。
違う世界の記憶とは、おそらく前世の記憶だろう。毒の影響でクリスティーナとしての記憶が無くなってしまったんだと思うのだが……
とりあえず魂は間違い無くクリスティーナの物なのだから、別人だなんて思い悩む必要は無い。
クリスティーナの記憶が無くなって、全然違う世界に迷い込んだようでさぞ不安だっただろうな。
困ったことがあったら何でも相談するんだぞ。さっそく明日から魔法の使い方の練習をしよう。」
そう言って王太子はクリスティーナを抱き締めた。途中まではそうじゃなくて!等と心の中で悪態をついていたクリスティーナだったが、最後の一言で一気に気分が浮上した。
「本当ですか?嬉しいです!早く明日にならないかな。ふふふ」
胸の中でキラキラした瞳で見上げてくるクリスティーナに、王太子の体の熱は一気に上がった。だが、さすがに病み上がりで記憶喪失の妻に無理強いするわけにもいかず、何とか理性を保ち、眠れぬ夜を過ごすのだった……
クリスティーナは夜中に2度ほど授乳をして、朝目覚めたら王太子に後ろから抱き締められていた。
王太子はまだ目覚めていないようだ……体がピタリと密着して、何とも居心地が悪かった。
何とか逃れようともがいてみたが上手く行かず、がっちり腰を抱かれて動けずにいた。タイミングよくレオンが泣いたことで王太子が目覚めかけたのか腕が緩み、何とか脱出に成功し、授乳をすることが出来た。
いつの間にか王太子の虹色の瞳が授乳中のレオンを見つめていて、朝から何とも微妙な気分になってしまった。
だが、今日は魔法を習えるのだ。授乳を見られるくらいどうって事無い!むしろ授業料と言うことで!と、この後の事を考えるとクリスティーナの気分は晴れた。
王太子はもちろん最初から起きていて、自分の腕から逃れようとするクリスティーナをわざと逆に強く抱き締めていたのだ。
離したくなかったが、クリスティーナの胸を見るために仕方無く腕を緩めた。そう、まさしくむっつりである。
そして自分そっくりな息子を見て、次はクリスティーナそっくりの女の子もいいな~等と考えていた。
授乳も終わり、着替えと言う段階で事件が起きた。病み上がりと言うことでコルセットで締めないタイプのドレスが用意されていたのだが、これがどう見ても布が足りない!
こんな露出度の高いドレスなんて無理ーと衣装部屋に入れば、どのドレスも胸が半分出てしまうデザインばかりだった。
少しでも布が多い物はないかと探してみたが、○○姉妹か!と言わんばかりの胸元の露出するドレスばかりで、とてもじゃないが外に出られるような物は無かった。
記憶を無くす前のクリスティーナは、とんだ露出狂だったようだ……
メイド服なら露出も無いかと言えば、王族が着るような服ではありませんと侍女達に一刀両断されてしまい、クリスティーナは途方に暮れながら着替えが済んだ王太子を見て閃いた。
王太子の服なら王族が着る服で間違いないじゃないか……と。
うるうるした瞳で王太子に自分位の身長の時着ていた服を貸してくれと言えば、何事かと話を聞いた王太子が苦笑いで好きにしていいと言ってくれた。
むっつりスケベが初めて神に見えた瞬間だった……