添い寝
その夜、クリスティーナが胃に優しい食事を完食しお風呂に入ってさあ休もうと言う時、王太子が部屋にやって来た。
仲が悪いんじゃなかったのかと侍女を見ると、彼女も困惑気味に王太子を見ていた。
「夕食は完食したと聞いたが、調子はどうだ?記憶を無くしたティナが不安だろうと思ってな、今日からは一緒に寝ることにした。」
(は?何ですと?いやいやいやいや、逆に落ち着かないし!しかもティナとかさらっと愛称で呼んでるし!一緒に寝るとか絶対無理……これって断ったらダメなのかな?)
「あ、ありがとうございます。ですがまだ体の調子も戻っていませんので、お相手は出来ないかと……」
「な……違う!病み上がりのティナに相手させようなんて思っていない!添い寝するだけだ!」
「そうですか……ですがレオンも一緒ですし、夜泣きしてご迷惑をお掛けするわけにはいきませんので……」
「我が子の夜泣きが迷惑なわけ無いだろう!正直寝てる間にまたティナに何かあったらと思うと怖いのだ……」
(くっ……そう言われてしまえばこれ以上断れないじゃん!正直こっちからしたら夫といえど、今日初めて会った赤の他人なのに)
クリスティーナがそれ以上反論しないのをいいことに、王太子はクリスティーナの隣に横になった。
顔がひきつり気味の侍女が退出したあと、何故か腕枕をされる事になってしまった。
その時、落ち着かない空気を読んだのかレオンが泣き出した。どうやらお腹がすいたようだ。
クリスティーナは授乳しようとレオンを抱きかかえ、すぐ横から王太子に見られていることに気が付いた。
「あの……授乳をしますので……」
「ああ、マッサージだな!任せておけ!」
何を勘違いしたのか王太子は勢いよく起きて、クリスティーナの胸元をはだけさせた。慌てて前屈みになり胸を隠したままクリスティーナは叫んだ。
「ち、違います!自分で出来ますから!恥ずかしいのであまり見ないでくださいって言いたかったんです!」
「あ、ああそうだな……」
明らかにしょんぼりして王太子はゴロンと横になり、反対側を向いた。クリスティーナは安心して、昼に乳母と侍女に習ったマッサージを始めた。
あの時は3日ぶりの授乳で凝り固まっていたが、普段はあそこまでする必要が無くてよかったと思いつつ先端をほぐし、授乳を始めた。
小さな手で乳房をフニフニしながら一生懸命飲む姿は、何回見ても見飽きないものだ……反対側を飲ませるために姿勢を変えた時、王太子がじっと胸元を見ていることに気付いた。
授乳している我が子を見ているだけだと思いつつも、気持ち悪くて仕方が無い……
「一生懸命乳を飲んで、可愛いものだな。」
そう言われてしまうと、気持ち悪いなんて思っている自分の方が恥ずかしく思えて、見ないでくださいとも言えなくなってしまった。
「そう言えばティナは魔法の存在も忘れてしまったのだったな?」
「はい、そう言えば魔法が存在するんでしたね!私には氷の魔法が使えるとか……」
急に興味のある話をふられて、気持ち悪いと言う感情も吹き飛んでしまった。相変わらず王太子はクリスティーナの顔ではなく胸を見ているのだが……
「その通りだ、氷だけではなく水や風や火も少しは使える。この世界の人間はみんな数種類の魔法が使えるんだ。ただ、使えると言っても力の差は色々だ。
だいたいの人間がその中で一番強いものが存在して、ティナの場合は氷と言うわけだ。
時々強く使える魔法が2、3種類存在する者もいる。そのような者はエリートとして城に仕えるのがほとんどだ。
そして王族では4、5種類強力な魔法が使える者が代々生まれる。
その者は瞳の色が混じり合って虹色に見えるため、すぐにわかると言うわけだ。たとえ次男や三男、もしくは女であっても兄弟の中でその瞳を持つ者が王位を継承する事になる。
俺や、レオンのように生まれながらに王となることが決まっているのだ。」
「生まれながらに王となることが決まっているなんて……何だかとても……息苦しそうですね……」
「息苦しそうだと?……ふ……くくく……ふはははははは!そんなことを言われたのは初めてだ!息苦しそうか……そうか……くくくくく」
クリスティーナには王太子が何故こんなに笑っているのか分からなかった。……分からなかったが、正直うるさくてやっと眠ったレオンが起きてしまうので、静かにしてくれないかな~と思っていたのだった。