むっつり?
おぎゃー……おぎゃー……
部屋の外から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。側に控えていた侍女が慌ててドアの外へ出て何やら話して戻ってきた。
「あの……その……まだ起きたばかりでお体がキツいと思うのですが、レオン様が妃殿下がお倒れになってから3日間まともに乳を飲まず……乳母が困り果てているようです。
元々レオン様は妃殿下の乳以外は受け付けず、それでは妃殿下が夜会などで居ないときに困るからと探しに探して、今いる乳母の乳だけは何とか飲んでいたのですが……
お顔を見るだけでも安心するかもしれませんので、お連れしてもよろしいでしょうか……?」
やっと目覚めたばかりで何を言うのかと叱咤されるかもしれないと思っているのか、おどおどした様子で侍女が言った。
「え?お乳……?授乳なんて……やったこと無いけど出来るかな?あ、毒とか大丈夫ですか?母乳に混ざって赤ちゃん苦しんだりしませんか?
……うえあっ!何これ!」
クリスティーナが無意識に触った胸からは、母乳が染み出しネグリジェを濡らしていた。
濡れたことでうっすら透けた赤い果実に王太子の目は釘付けになり、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ……
「クリーン!」
おどおどしていた侍女が我にかえり急いでクリーンをかけ、瞬時にクリスティーナの胸元は綺麗になった。
「えええ!何これ魔法?魔法なの?あなた魔法が使えるの?凄い!」
クリスティーナの叫びにその場にいた全員が固まった……
「ク、クリスティーナ……魔法が使えるのは普通のことだぞ?お前もかなり強い氷の魔法が使えるし……魔法の存在も覚えていないのか?」
クリスティーナはこてんと首をかしげた。あまりにも無垢で純粋な眼差しに、王太子は身体中が熱くなるのを感じた。
「妃殿下……魔法の事はおいおいと言うことで。とりあえず今はレオン様が心配です。毒でしたら今朝方最後の一滴まで綺麗に排出することができました。
強力な毒で排出に時間がかかりましたが、もう大丈夫です。妃殿下の体内に毒は残っていませんので安心して授乳なされませ。
では、我々は一旦退出させていただきます。また後程……
さぁ、みんな部屋を出るんだ。」
「俺達も戻ろう。」
側近で幼い頃からの友人でもあるエヴァンに促され、退出しなければと思うのだが、王太子は動けずにいた。
医師達と入れ替わるように息子のレオンを抱いた乳母が入ってきて、クリスティーナにレオンを渡した。
クリスティーナがたどたどしくレオンを抱くと、今まで泣いていたレオンがピタリと泣きやみ、クリスティーナにすり寄った。クリスティーナはレオンをまじまじと見つめ、可愛いと呟きにこりと微笑んだ。
侍女が失礼しますと言ってクリスティーナの胸をはだけさせ、マッサージを始めたことに王太子はさすがに驚いたが、気付けばエヴァンは部屋を追い出され、残るのは王太子だけになっていた。
夫だからいいだろうと思われたのか、王太子に退出しろとは誰も言えなかったのか……さすがに不味いかとクリスティーナの胸から顔に視線を移すと、苦しそうな表情をしていた。
「うう……くっ……んんっ……!痛い!痛いー!」
「我慢してください。よく揉んでおかないと乳が詰まりますし、先端が切れてしまいますので……」
ポロポロ涙を溢すクリスティーナに、侍女は淡々とマッサージを続けながら言った。先端まで丁寧に揉みほぐされ、その度に溢れ出る母乳……痛さで顔を赤くして涙を流す美しい瞳、その全てが王太子の体を熱くし、目を離せなかった。
クリスティーナはそんな王太子に気付き、いつまで見てるんだこのムッツリスケベが!早く出ていけー!等と頭の中で悪態をついていた。
涙を流しながら自分を見つめる瞳に気付き、王太子は助けを求められていると勘違いしてクリスティーナの隣に腰かけた。
涙を指ですくい、肩を抱いて大丈夫だ。頑張れ等と頓珍漢な励ましを始め、ますますクリスティーナをイライラさせたのだった。
マッサージが終わり、いよいよ授乳と言われてもクリスティーナには授乳した記憶が無く戸惑った。
そんなクリスティーナをよそに、乳母と侍女が慣れた様子でクッションを宛がい、レオンの口にクリスティーナの先端を含ませた。
レオンは久し振りの母の乳を離すまいと、凄い力で吸い始めた。
「おお……ちゃんと飲んでる。……可愛い。あ、目が開いた。あらまぁ……ふふふ、お父さんそっくりなんだね。よろしくね。」
暫くすると、乳母がレオンを離して侍女がクッションの向きを変えてもう片方の乳を含ませた。
レオンもわかっているのか、大人しく待っていた。王太子がいる方を頭にしてくびぐびと母乳を飲んでいたレオンだったが、暫くするとトロンとしてきて、そのまま眠ってしまったようだ。
乳母がレオンを受け取り、慣れた様子で背中をさすれば小さくげっぷをした音が聞こえた。
ベッドの隣の揺りかごに寝せるようだ。クリスティーナはその間ずっとレオンを見つめていた。もしかしたら授乳をするうちに何か思い出したのかもしれない。
「クリスティーナ、どうだ?授乳をするうちにレオンの事を思い出したりは……?」
「申し訳ありません……全く思い出せなくて……でも、可愛いですね。私、あの子のお母さんなんですね……」
「そうだな、お前が母親で私が父親だ。」
そう言って王太子はするりとクリスティーナの頬を撫でた。クリスティーナはゾッとした。
(と言うか何なのこの人……いくら夫とは言え胸丸出しでマッサージされている姿や授乳をじっと見るなんて……気持ち悪い。
しかも何でベッドに座って私の腰を抱いてるの?仲悪いって言ってたよね?確か初夜の1度だけで子供が出来たとかなんとか……
もしかして私のせいで愛人が居なくなっちゃったからたまってるのかな?早いところ新しい愛人を見つけて欲しいわ。
何かされそうになったら、私はまだ体調不良ですってことにしようっと)
「あの~殿下?お仕事に戻らなくていいんですか?」
「クリスティーナ、私の名前はアーサーだ。仕事に戻るが、何かあったらすぐに報告するように。」