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舞踏会

王太子に腰を抱かれ入場すると、周りがザワッとした。不仲ではなかったのか?等とヒソヒソしているつもりなのかわざとなのか至る所から聞こえてきた。

不安になり王太子を見上げると、クリスティーナの視線に気付き優しく微笑んだ。まさかこの虹色の瞳を見て落ち着く日が来るとは……

しばし見つめ合っていると、陛下の挨拶が始まった。挨拶が終わると、いよいよ王族のダンスらしい……下の弟と妹は一緒に踊るらしいので、全部で4組じゃないか!そんな少ない人数で見世物のように踊るなんて聞いてない!と非難がましく王太子を見ると、吹き出しそうなのを一生懸命堪えているようだった。

何て失礼な……等と心の中で悪態をついていても時間が止まるわけもなく、ダンスの時間が始まってしまった。


「もう、こんな少人数で踊るなんて聞いてないです!まるで見世物じゃないですか!私一人だけ下手で目立ってしまいます……ううう」


「悪かった。だが教えたら足を折ってでも回避しようとするだろう?だから黙っていたんだ。くくっ、それに筋トレをしているからか体幹がぶれずに中々上手いもんだぞ?

しかもリードしているのは俺だ。もっと自信を持て。」


「もう、転びそうになったら支えてくださいね?あと、足を踏んでも顔に出さないでくださいよ?ふふふ」


小声での会話は誰にも聞こえなかったが、不仲だと言われていた王太子夫婦の仲の良い姿に、会場中の視線はくぎ付けとなっていた。

あのキツい元公爵令嬢である王太子妃の柔らかな微笑み、それに以前は露出が激しくけばけばしいドレスを好んでいたのに、今日のドレスはどうだろう?

露出も抑えられ、シンプルながらにとても清楚で美しい……まるで月の女神のようだと誰もが見とれていた。

王太子のあの甘い眼差しも衝撃的だが、あの妻が相手なら納得である。

面白くないのはクリスティーナを引きずり落とそうと画策している連中だ。あんなに仲が良いとは全くの想定外な上に、宛がう予定の娘達よりも美しいと来たもんだ。

これは何としてでも排除する必要がある。殺す予定だったがそれも惜しいな……と何人が舌なめずりしたことか……

不埒な視線にクリスティーナの鳥肌は最高潮となったが、王太子があやすように背中をさすってくれて、何とかダンスを踊りきることが出来た。


「殿下、先程から何やら嫌な視線を感じて……怖いです。」


うるうるした瞳で見上げられ、王太子の庇護欲は最高潮へと一気に押し上がった。


(ああ、なんて愛らしいんだ!くっ……さっきから俺のティナに不埒な視線を送る者がどんどん増えているようだ。手を離したが最後、ハイエナ共が群がってくるだろうな。

たとえ誰に何と言われても、今夜は絶対に腰に回したこの手を離すものか!

はぁ……早くこの不快な夜会を終わらせて、ティナと二人になりたいものだ……)


無意識に王太子の手がわさわさと不埒な動きをしたことで、クリスティーナの意識がそちらにそれ、おのずと不快な視線に対する恐怖が和らいだ。


「ちょ、殿下。こんな人の多いところでそんな風に触らないで下さい!」


「あ、ああすまない、つい無意識に手が動いてしまったようだ……続きは今夜ベッドの中でするとしよう……」


(な……こんな時に何を言ってるんだこの男は!ギャーもう恥ずかしい!さすがに誰にも聞こえてないよね?大丈夫だよね?もう、恥ずかし過ぎて喉がからからだけど、何も飲むなって言ってたしな……)


その時王太子のまとう空気が一瞬で変わった。あれが例の侯爵だと目の前から歩いてくる人物を見ながら教えてくれた。

この男がレオンを殺そうとした人物か……とクリスティーナは怒りが込み上げてきたが、何とか深呼吸して気分を落ち着けた。


「殿下、お久しぶりです。王子様のお誕生おめでとうございます。いや~、まさか王の瞳を持つ王子がお生まれになるとは……誠にめでたいですな。

今日は娘も一緒に来させていただきました。どうですかな、よければ1曲娘と踊っていただけませんか?

その間よろしければ妃殿下は私と踊っていただけると大変光栄なのですが……」


一歩前に出た娘が頭を下げると、布の足りていないドレスから胸がこぼれ落ちそうになっていた。挑発的な微笑みを浮かべ、あからさまに胸を見せつける様にしている少女の顔は確かに愛らしかったが、王太子の目には不快な物でしかなかった。

クリスティーナは全身を舐め回すように見つめてくる侯爵の視線に恐怖を覚え、無意識に身震いをしてしまった。

その瞬間、腰に回された王太子の手に力が入り、大丈夫だよと慰めてくれているように感じられた。

密着部分から生まれる安心感にすがるように、クリスティーナはこてんと王太子の胸に頭を預けた。


「大変ありがたいお誘いですが、残念ながらティナ……クリスティーナは少し前に体調を崩したばかりでして、これ以上のダンスは踊れそうにありません。

私もティナが心配で側についていたいので、申し訳ありませんがお断りさせていただきます。」


「そ……そうですか。いやはや、何とも仲がよろしいですなー。これはまたすぐにでも嬉しい報告が聞けそうで楽しみですな。はっはっは」


「そうですね……どうやら私とティナは相性がいいようなので、またすぐにでも嬉しい報告が出来そうですよ。はっはっは」


表面上はにこやかな会話だが、クリスティーナには吹雪が吹き荒れているように感じられた。

突き刺さる視線に気付き、侯爵令嬢に視線を移すと、隠すこと無く強い眼差しで睨み付けられていた……これは注意が必要そうだとクリスティーナは侯爵よりも彼女を警戒することにした。

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