第七話 「この世界についての確認」
「…………」
シロナとネロが顔を見合わせた。
何がそんなに引っかかっているのか。
当たり前のことをしようとしているのに、どうして動かないのか。
二人はまるで、わからないようだった。
(くそ、こういう所はゲームの世界だな……ホント)
あれよあれよと、イベントが進んでいこうとする感じ。
よくわからないけど、勝手に物語がNPCによって巻かれていく様子。
俯瞰して眺めるならばそれで良いかもしれない。
けれど、今は自分自身が主人公だ。
わけもわからないまま進んで……また、死ぬのは御免だ。
「……状況の確認をしたい。まだ、頭が混乱していて……」
「……それもそうですね。先ほどのお話を聞く限り、まだこちらに来て日も浅いようですし」
「んな悠長なことしてて、大丈夫なのかよ~」
渋々だけれどネロは、また椅子に着く。
冷や汗を流しっぱなしの勇人がベッドで頭を垂れていると、シロナが水を差しだしてくれた。
「ああ、ありがとう……ございます」
「ふふ。さっきまでみたいに、普通に話してくれて、大丈夫ですよ」
年上(見た目年齢換算)だから、ついつい敬語が出てしまったようだ。
渡された水を飲むと、熱くなっていた身体が少し冷めていく感じがした。
近くに綺麗な河川でもあるのだろうか。澄んだ綺麗な水だな、と勇人は感心する。
(…………)
一息つき、鼓動が静まるまでしばし目を瞑る。
その間、シロナはネロへ勇人から聞いた状況を話してくれていた。
一通り説明が終わったな、と確信した辺りで、話を切り出す。
「……まず、俺のことなんだけど」
勇人は知っている限りのことを話してみた。
「俺は勇者の生まれ変わり……コスモス……って神様に、呼ばれてココへ来たんだ。元々居たのは、地球の日本って所なんだけど……わかる?」
二人は揃って首を振る。
「コスモス様ならわかるけどな」
「コスモス様は世界の守護者です。サンクリミエルで、この世界を統べていました」
「【世界に再び闇が訪れし時、異界より『太陽の勇者』を召喚し、光を齎す】だったっけ? コスモス様のお告げは」
「そうね。なので、私たち……オレルティスの人々は、いずれどこかで太陽の勇者様に再び出会うだろうと知らされていました」
「信じてるか信じてないかは、さておいて、だけどな」
内容は合っている。どうやら、既にこの世界の人たちは『勇者が転生する』という事実を知識として得ているらしい。
「でも今、コスモスは大魔王ディストラとかいうのに捉われている……。世界に再び闇が訪れる、ってのはそのことだよね?」
勇人の質問に頷きながら、ネロが答える。
「ディストラってのは、百年前に、太陽の勇者『ロウレス』様の御一行が封印したんだ」
「ロウレスってのが先代なのか。……というか、倒したんじゃなくて、封印?」
そういえば、コスモスも『封印した』と言っていたような……。
「はい。大魔王の力はあまりも強大だったそうです。激しい戦いが行われたそうですが、止めを刺すことは叶わなかったようで」
「結局最後は、『フリム』様が『月の紋章』と命を捧げて封印した、ってわけ。わかったか?」
「また新しい単語が……。フリム? 月の紋章?」
「ユート様と同じく、勇者の加護を持っていた方が、もう一人居たんですよ。その方は、左手に月の形をした痣を持っていたそうです」
勇人が自分の右手を見る。
使い物にならなそうな、太陽の形をした痣。
対になるように、月の文様があったらしい。
先ほどの話しぶりからするに、この痣こそが『太陽の勇者』の証らしい。
「ということは、どこかにもう一人、その『月の勇者』が居るってこと?」
「それはわかりません。月の紋章で大魔王ディストラの封印をしていた、ということだけ知ってはいますが……」
「太陽の紋章を持ってる、お前については依代があったからな。ロウレス様の遺体が埋葬された、サンクリミエルの神殿だ」
「神殿……。あそこか!」
思い出すのは遺跡のような場所。
輝く魔方陣と、岩石の壁……。
恐ろしい魔物と強靭な騎士たち……。
そして……。
「それで、今、魔王の軍勢は何をしているんだ?」
これ以上思い出すと具合が悪くなりそうなので、話題を進める。
「彼らは『センソブラ』というスフィアを根城にしていました。封印されていたのも、そのスフィアです。大魔王が復活したことにより、再び拠点として侵略行為を始めているそうです」
「今の最前線は、お前が召喚されたサンクリミエルだな。センソブラにもっとも近いスフィアだから」
勇人はやっぱりか、と言う表情をした。
戦況が最も過酷な場所へ、いきなり放り出されたわけだったのだ。
レベル1で蹂躙されてしまうのも頷ける。
「けど……太陽の勇者まで召喚された、ってことはかなり状況は悪いんだな」
「そうなの?」
「勇者様は最後の希望……本来なら、我々オレルティスの人たちだけで、大魔王を討つべきなのでしょうが……」
「お前のように、異界の住人すら呼びよせないと無理、ってことだろ」
そういえば、コスモスの声は最後は途切れ途切れだった。
本当は、もっと急いだ方が良いのかもしれない。
だが、まだ消化不良な話題が多すぎる。
はやる気持ちを抑え、勇人は質問を続ける。
「前も少し出た言葉だけど……その『スフィア』っていうのは?」
「一つの世界の総称だよ。アタシらの居るここは、メモリージって名前なんだ」
「オレルティスには元々5つのスフィアがありました。太陽を中心に、メモリージ、ヴァード、レトコフ、ランフォード、サンクリミエル……」
「センソブラは新しいスフィアなわけか……魔王が作った、その中では比較的新しいスフィア……?」
頷いてシロナが続ける。
「ちなみに、メモリージはセンソブラからは、一番遠いスフィアですので、比較的安全なスフィアなんですよ」
「…………なるほど」
少しずつ噛み砕いていく勇人。
最初に、コスモスに呼ばれた時に見えた宇宙空間のような場所。
あそこに、点在していた大きな惑星がスフィアというわけか。
色合いの感じからするに、それぞれに特性のようなものがあるのだろう。
遠い、というのは勇人の世界で言う太陽系と同じ感覚のはず。
一番遠いのが海王星、一番近いのが金星、のように。
なら、最前線からもっとも離れているこのメモリージ。
こここそが、本来の『ゲームとしてのスタート地点』なのだろう。
レベル1の人間が居るべき、ふさわしい場所。
やはり最初のアレはイベントバトル的なものだったのだろうか……。
「しかし、ホントに違う世界から来たんだな、お前。スフィアの名前とか、そこらのガキでも言えるぞ」
「まあまあ。知らないのも当然なんだから、しょうがないじゃない」
交わされる会話に意もせず、勇人はブツブツと現状を口にする。
「……異世界からやってきた俺が伝説の勇者……。勇者は魔王を倒す役目を持つ……」
「魔王じゃなくて、大魔王な」
「違うものなの?」
「現在、私たちが知り得ている情報としては……頂点に大魔王ディストラ。次いで、魔王『カズマ』。その下に『三鬼将』と呼ばれる強力な魔族が3体居ると聞いています」
「大魔王の側近に四天王ってわけか……」
勇人は若干の違和感を覚える。
魔王の名前が『カズマ』。
まだ全容がわからないけれど、自分たちの世界によくある名前だ。
別の世界……オレルティスのどこかに、日本のような場所があるだけなのかもしれない。
今は深く考えても仕様のないことだろう。
「それでその……過去の太陽の勇者って、やっぱ強かった……んだよね?」
「はい。言い伝えによりますと、あらゆる武具を使いこなしたうえに、紋章の力を用いた姿はまさに一騎当神だったと」
「スゲー魔法もたくさん使えるし『闘気』も強い。当時のオレルティスでは、間違いなく最強だったらしいぞ」
「闘気……。あれかな、魔法の使えない人が使う魔力的な何か?」
「おお、よくわかったな」
「ありがちな話だしね」
「でも、お前はあんま強そうに見えないよな。本当にロウレス様の生まれ変わりなのか?」
「こら、ネロちゃん!」
ネロの言うとおりだ。
実際に『生まれ変わり』のせいで、レベルは一番低い1からだ。
伝説のように強くはない。
転生ではないと言われたが、こんな最弱スタートを切らされるとは思ってもみなかった……。
考えれば考えるほど、ネガティブな感情が溢れ出てくる。
思考を振り切り、ふと思い立ったことを実行してみる。
空中で、人差し指を2回つつく。
以前と違わず、そこにはステータスウィンドウが現れた。
(……現状、これだもんな)
つよさのステータスを眺めても、レベル1のまま。
あえて変化点を言うなら、鉄の剣とやらが無くなっていることぐらいだろう。
スキル欄を見てみる。
カーソルを当てると、スキルの説明文が表示された。
前は慌てていて、そこまで確認できなかった機能だ。
→同行同期
・勇者の加護の恩恵をパーティに付与する
・一部、加護の恩恵の対象外のスキルが存在する
・各種エーテルに取得ボーナスが入る
→不死身体
・戦闘終了後、死亡状態を解除する。
・欠損箇所の修復もされる。ただし、装備は対象外
→太陽の紋章
・勇者の証。条件を満たすと発動する。