第三話 「異世界転移とステータス」
「おお、本当に来たぞ! 召喚は成功だ!!」
激しく輝く魔方陣から、柱のように閃光が伸びていた。
その中に、勇人は居た。
無重力空間からいきなり重力場へ投げ出されたので、少しバランスを崩す。
膝をついて顔をあげてみると、やはり自室ではないことが理解できた。
大きな岩石で形成された空間。
細かな砂が集合してできたような材質に見える。
部屋の中は無数の細い柱が、中央の魔方陣を囲うような造りになっていた。
空は見えないが、所々に点在している松明によって灯りは十分に確保されている。
「大丈夫ですか。意識ははっきりしてますか?」
手を差し出されながら、勇人はその人物を見る。
金属製の全身鎧をまとった騎士だった。
中世のフランスぐらいの年代の武装だろう。
おかしい点があるとすれば、背中から光り輝く猛禽類のような透明の翼が生えていること。
兜の面をあげた先にある顔立ちは、人間と何も変わりはなかった。
「はい……大丈夫です」
明らかに年が上に思えたので、勇人は畏まって答える。
手を取って、立ち上がった。
(ん……?)
服装が、部屋着から麻の素材の衣服とズボン、それから革のブーツに変化している。
勇人が驚いたのはそこだけではない。
利き手である右手を差し伸べた時、手の甲に今までと違う何かがあったのだ。
小さな円形の傍に、細長い三角形が八つ。あまりにも人工的に刻まれた、痣のようなものだった。
シンボルとしての太陽に見える。
「良かった。本当に。あなたがコスモス様が仰っていた、伝説の勇者様の生まれ変わりなんですね?」
「……ああ、そうなります」
と言っても実感が沸かない。
何か特別なものであるに違いないが、別に力が漲っているとか、そういう類のものが、何もない。
「うわっ!?」
呆けていると、地面が大きく揺れた。
地震ではない。
震源と轟音が明らかに、上方から来ていたからだ。
「くっ、もう来てしまったか……」
「え、な、何が?」
「勇者様! 突然で驚いたことでしょうが、今は戦ってください! 我々も、全力でお守りします!!」
と叫ぶと、腰に下げていた片刃の剣を手渡される。
そして再び面をつけると、畳まれていた翼を広げて一直線、外へと騎士は飛び出してしまった。
「ええ……。どういう状況なの、これ」
確かに耳を澄ませると、何か怒号のようなものが聞こえる。
視線の先には、長い廊下。
わずかに外の光……と思えるものが見える。
「……とりあえず、外の様子を知らないと……」
わけがわからない。
勇者の生まれ変わりとして、ゲームの世界に召喚された。
そこまではわかる。
だが、今の状態があまりにも説明不足だ。
おずおずと勇人は歩いていく。
手にした剣の重さが、リアリティを十分に教えてくれる。
これは本当にゲームの世界なのか。単なる夢の一つではないのか。
ぐるぐる回る頭を懸命に動かし、勇人は遂に光の先へ到着した。
「なに……これ……」
眼に届く風景は。夢や想像なんてものでは推し量れない領域のものだった。
槍が飛ぶ。剣が舞う、矢の雨が降る。
炎が吐かれ、大地が裂け、氷が空を切り裂く。
先ほど見かけたような、翼の騎士たちが大勢。
それと対峙しているのは……禍々しい異形の生物達だった。
四足歩行で超跳躍する、鋭い牙の生えた狼。肌は浅黒く、目も真っ赤。
虹彩の見えない黄ばんだ瞳を目のする、羽根の生えた逆関節の魔人。
ローブで顔の見えない、骨だけの手を持つ浮遊した何か。
「意味わからん……。どうなってんだよ、スタート地点だろ、ここ!?」
すがるものもなく、ただ渡された武器を持って震える少年。
眼下には階段があり、場所から察するにここが到達点。
何かの遺跡のような場所で、他の景色は全て森。所々、燃えて黒煙が舞い上がっている。
明らかに、初期状態で居て良い場所ではない。
知っている幻想世界なら、少なくとも終盤の舞台だろう。
どうして、こんなことに……。
「あ、そうだ!!」
女神コスモスに言われたことを思いだした。
勇人はステータスを見ることが出来るのだ。
もしかすると、自分がビビっちまってるだけで、本当は凄く強いはずなのでは。
「やり方は……」
何故か、彼は知っていた。
空中に向かって、二回人差し指を叩く。
すると、青白い線が一瞬で引かれ、ウィンドウのような形を作った。
――――
→つよさ
まほう
(なかま)
もちもの
――――
小さく簡素な項目だった。
レトロゲーム級の雑さである。
指を縦にスクロールすると、矢印が追従する。
なかま、と書かれていた部分は自動で飛ばされた。
今は一人だからだろう。
「つよさ……つよさ……」
右に指を動かす。
ウィンドウが展開して、内容を示してくれた。
――――
ユウト Lv.1 15歳 167cm 59kg
職業 勇者
HP 16
MP 2
力 5
素早さ 5
知能 10
攻撃魔力 1
回復魔力 1
攻撃力 40
防御力 1
装備 E:鉄の剣
E:服
スキル:勇者の加護
→ 同行同期
不死身体
太陽の紋章
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