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第一話 「死んでから目が覚めて」

「!!」


強烈な動悸と共に目を覚ました。


身体を半分だけ起こし、辺りを伺う。


息を荒くしながら汗が頬を伝うのも気にせず、とにかく状況を確認する。


「……はぁ……はぁ……」



まずは自分自身。



呼吸は荒いが、手は動くし足も曲がる。



視界も悪くはない。


……いや、待て。


普段、矯正器具なしではほとんど見えなかったはず。

けれど、メガネやコンタクトレンズなどを使用しているわけではない。

裸眼の視力だ。それがある。なぜだろう。


次に衣服。

普段の洋服とは少し違う。簡素な布のシャツとズボンを履いている。


時代的に中世のヨーロッパの人とかがが着ていそうなものだが……。

いつ、どこで着替えたのか思いだせない。



「…………そもそも、ここはどこなんだ……?」


あえて言葉を出してみた。

声も出る。体内から聞こえる音も、いつもと同じ。



緊張の割にはスムーズに動く四肢を使い、ベッドから降りた。



……ベッド。

自分はベッドに居たのか。


場所からすると、どこかの宿屋だろうか。


他にもいくつかある、同型の寝具や燭台、外光を取り入れるための窓……。


造りは木製が主体。布の質も、どこか良くはなさそう。

家具屋で買うものよりもう少し廉価な製品……にすら劣って見えた。


薄汚れたカーテンに触れる。


埃が舞ったのに怪訝な表情をしていると、後方から蝶番が軋む音が鳴った。




「……あっ!」


遅れて聞こえたのは、女性の声。

驚くように短く上げた音に、彼は反応して手を止めた。


「良かった、目が覚めたんですね」


小さな歩幅で距離を詰める。

そして少年の目の前に来ると、覗きこむようにして顔をマジマジと見た。

何をしたらいいかわからず、頭一つ分小さな少女の目線を受け続ける。


すると


「初めまして。私、シロナって言います。『冒険者』で、職業は『僧侶(アコライト)』です。よろしくお願いしますね!」


細くて小さな手を伸ばしてきた。


白くてふんわりしたフード付きのローブ。

袖には、半円状の模様が青色で染められいた


下に着こんでいる緑色の着物のような衣服も気になった。

左衽(さじん)にした衣服をベルトで固定。下半身は膝上までのプリーツスカートにロングブーツ。


和洋折衷のような不思議な印象を受ける。



しかし、彼が衣服の特殊さよりももっと驚いていたのは、その容貌だった。



(耳が尖ってる…………!)



人間のように丸くなく、先が鋭利な刃物のようになっているのだ。

ハーフアップにまとめられた、さらさらとした茶髪の横から、ぴんと伸びているのである。


「えーっと…………。あの私の言葉……わかりますか?」


じぃっと眺めるように少女は見ていた。

何かうっとりとした目線にも感じられたが、向けられた本人は気づいていない。


そもそも、意思疎通が出来るのか。

堪らず、質問をしてしまったわけだ。


「……え、ああ……うん。わかり……ます」


「良かった! お名前はなんていうんですか?」


「名前? ……相沢 勇人(あいざわ ゆうと)……」


そう、そのはず。


間違えようもない、自分の名前。どこにでもいるような……。


「アイザーユート……?」


「いや、アイザーじゃなくて、あいざ……」


そこで彼は気づく。

いや、何かを思い出した。


「…………ここ、どこ?」


嫌な汗が出る。

突然の様子の変わり様に、緑色の眼をした少女は首をかしげた。


「ここ……というと……」


ベッドに再び座り込んだ勇人の傍を、シロナは歩いていく。


そして、先ほど止めてしまったカーテンを開ける、という動作を代わりに遂行した。



「メモリージの王都リュミドですよ?」



口が開きっぱなしになった。



自分の頭が信じられない。




そこに広がる景色は、世界中どこでも見られないようなものだったから。

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