第一話 BL妄想と眼鏡破損
【この作品は『発案者』香月よう子様 『企画管理者』山之上舞花様 『宣伝本部長』柿原凛様 主催の《眼鏡娘とコンタクト》企画参加作品です】
私には眼鏡が必要な理由が二つある。一つは当然ながら視力が悪い事。ちなみに家族は弟以外、全員眼鏡をかけている。つまりは遺伝的なアレで目が悪い。まあ、夜中に雑誌読みまくっていた私が悪い気もしないでもないが。
さて、そしてもう一つは……。
「先輩! 今日は部活来ますよね!」
「んだよ、相変わらず元気だな……めんどくせえから行かねえよ」
今、教室の最前列で繰り広げられている光景を、余す事なく見守る為である。
ちなみに可愛い後輩君に詰め寄られているのは……田坂 明。名前を聞いただけだと女の子っぽい名前に聞こえるが、歴とした男である。しかも私が通うこの学校で一位二位を争うイケメンらしいが……正直私にはどうでもいい。いや、やっぱりどうでも良くない。イケメンは宝だ。
何故なら……
「そんな事言って……先輩が来ないと皆寂しそうにしてますよ?! ねっ、今日は顔出してくださいよ!」
「めんどくせえって言ってるだろ。っていうか顔ちけえよ」
何故なら……イケメンと可愛い後輩の絡みは至福……主に私にとって。
ちなみに可愛い後輩も当然ながら男子。つまりは男子と男子の絡み。即ちBL。
ここまで言えば分かると思うが、私は腐女子である。BLさえあれば白米何杯でも行けるという人種である。
「先輩っ、来てくれないと……僕、毎日ここに来ますからねっ!」
「おー、そうか。ご苦労さん」
ぎゃぁぁぁぁぁ! 後輩君! 毎日来るの? っていうかそのセリフ言っちゃう?!
ヤバイ……田坂は正直、気に食わないクズ男だと思ってたが……中々やるじゃないか。熱心な後輩とクールな先輩の絡み……御見それしたぜ……。おっとイカン、鼻血が……。
「……? あの、先輩……あの人、大丈夫ですか? なんか鼻から血が……」
「あ? ほっとけ。いつものこった。ニヤニヤしながら鼻血垂らしやがって……キモ女」
うるさい柴犬。まあいい、良い物を見せて貰ったんだ。今日のところは勘弁して……
と、その時、可愛い後輩君が私の元に。むむ、何かようかい?
「あの、良かったらコレ使ってください」
なんと可愛い後輩は私に真っ白なハンカチーフを手渡してくれる!
なんてこった! これ……田坂に渡して欲しかった……。しかしそんな事を言うわけにもいかず、私は素直にお礼を言いつつ受け取るが……正直、こんな綺麗なハンカチで鼻血拭くって……使いにくい。
しかし後輩君は私が鼻血を拭うまで監視する! と言いたげに見つめてくる。
っく、使うしかないのか……と大人しく鮮血をふき取る私。ちゃんと洗って返すからね……。というか私、自分のハンカチ持ってるんだけども。よし、今日は変わりにコレを使うと良い……と自分のハンカチを後輩君へ手渡す私。
「あ、ありがとうございます。わっ、可愛いハンカチですね。シロクマさん……」
君の方が可愛いぞ、という言葉を飲み込む私。
すると田坂は後輩君を呼び戻しつつ、さっさと自分の教室へ帰れと促してくる。
「じゃあ戻りますけど……先輩、部活来てくださいねっ」
「分かった分かった、さっさと帰れ、桃井」
あの後輩君は桃井君と言うのか。そのまま自分の教室へと戻っていく桃井君。フフゥ、良い物見たぜ。確か彼はバスケ部の期待の新人だったな。ちなみに田坂もバスケ部だった筈だ。しかし少し前の試合で足を怪我した際、サボりがちになったとか。
「おい、龍ノ宮。ニヤ付いた顔で後輩見てんじゃねえよ、キモいんだよ」
「あ? うるさい柴犬、ぶちのめすぞ」
龍ノ宮。私の苗字である。フルネームは龍ノ宮 誠。漢字だけ見ると男の子に間違えられそうだが……正直、私は男のポジションでBLを眺めたかった。爽やかなスポーツ男子が無意識下で展開しているBL展開を、違和感なく眺めれそうだからだ。あぁ、父と母よ。誠なんて誠実そうな名前を付けてもらって申し訳ないのですが……私は腐ってます……。
※
放課後になり、生徒がそれぞれ部活動に勤しむ頃。私は当然のように帰宅の準備をし、サッカー部の練習場であるグラウンドへ。何故に帰宅の準備をしてるのにサッカー部を見に来ているのか。当然それは私の趣味が関係している。爽やかな男子の営みを見学する為……である。
「ふむ。今日もやっとるな……」
どこぞの大物監督のように眼鏡を直しながら、遠目に見学する私。一時はマネージャーにでもなって、至近距離から眺めようとしていたが……サッカー部のマネージャーは色々とハードルが高い。何故なら既に居るマネージャーが学園のマドンナ的な存在の女子だからだ。正直、あの人の並んでの部活動は難易度が高すぎる。
「いったぞー!」
「よっしゃ、いくぞー!」
元気よくグランドを駆け巡る男子達。シュートを決めると、同じチーム同士で抱き合って称賛……グフッ! やば……なんて光景見せやがる……鼻血が……
「あぶなーい!」
「え?」
その時、私の目の前に白と黒の五角形の模様が……というかサッカーボールが……。
なんかアレだな、サッカーボールってパンダっぽい……とか思いながら棒立ちしている私。当然ながら……顔面に見事にクリーンヒット。
「ドッファ!」
「だ、大丈夫か?!」
「あ、血! 血が出てる!」
「うわっ! すげえ量だぞ!」
いや、その血の大半はBL妄想して出した血だから……大丈夫……って、あれ。なんも見えん。
あ! 眼鏡が無い! 私の命が! BLを見る為の眼鏡が!
「あ、あのあの、私の眼鏡……眼鏡取ってください……!」
すると誰かが私の鼻を拭ってくれる。むむ、このいい匂いは……もしかして学園のマドンナ……?
「ごめんね? 大丈夫? もしかして……二年の龍ノ宮さん?」
「あ、はい……」
ちなみに、このマドンナは三年。おおぅ、優しいお姉さんオーラ抜群に出てるぜ。そのまま眼鏡を手渡してもらうが……当然ながらフレームはガタガタ。レンズにもヒビが入ってしまっている。まあ無いよりはマシだ。今日はこれで帰るしか……。
「……龍ノ宮さん、ちょっとその眼鏡貸して?」
「え? ぁ、はい」
「えい」
ん? なんか今……グシャっと音が……。
「あ、ごめーん、眼鏡壊しちゃった……。お詫びと言っちゃなんだけど……コンタクト買いにいこっ! ほら、私が奢ってあげるから!」
「え? え?」
何、何この展開。一体……何が起きてますん?!
※
学園のマドンナに手を引かれてやってきたのは……某ショッピングモール内のコンタクトレンズ専門店。というか、私は眼鏡の方が慣れてるんですが……。
「いいからいいから。すみませーん」
マドンナ先輩が店員を呼ぶと、なんだか親し気に話だした。むむ、もしかして常連か? 常連なのか?
「この子のコンタクト作って欲しいんですけど……」
店員は「畏まりましたーっ」と元気よく対応。いや、というか私は全然気にしてませんので!
「あの、マドンナ先輩、私なら大丈夫ですから……」
「何その呼び方……。私、篠ノ井 要だから。龍ノ宮さんはコンタクトにした方がいいと思うけど。というかしなさい。これは先輩命令よ」
なんて強引な。しかし奢りとか申し訳ない。代金は私が……
「サイフなんて出さなくていいから。大丈夫。どうしてもっていうなら、今度からもサッカー部の練習、見に来て。龍ノ宮さんが来れば皆テンション上がるから」
何故にそうなる。テンション上がるのはBL眺めてる私だけですぞ。
しかしまあ……とりあえず目が見えないと始まらないしな……。ここは素直に甘えるか。
「わかりました……じゃあお願いします」
「はーい、決まりっ! じゃあ私、美容院の予約しとくねー」
あん? あぁ、先輩は美容院行くのか。行ってらっしゃい!
※
で、どうしてこうなった。
今私はコンタクトレンズを作った後、先輩に同ショッピングモール内にある美容院へと放り込まれた。どうしよう。正直、美容院とか初めて来たんだが……。いつも家の隣にある床屋だったし……。
「どんな風にする?」
ひぃ! 見るからに光属性のリア充店員に注文を聞かれた!
ど、どうしよう! 美容院で注文って何言えばいいんだ?!
「え、えっと……可愛いくしてください……」
つい……混乱するあまり口を滑らせ、ありえない注文の仕方をする私。
すると店員さんはクスクス笑い出し……
「よしよし、分かった。今でも十分可愛いけど……私に任せなさい」
その後……いつのまにか寝てしまった私。
再び起きた時、鏡の中には知らない女の子が居ました……。