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聖女の勝利

 今回の件で私の収穫は大きい。

 都に帰った私は私に関する噂で大いに笑った。


「聖女様のせいで1万人もの住人が家を失い、明日の糧もないそうだ」

「渤海地区一帯は壊滅状態だそうだ……」

「聖女様というより、悪魔だよ。死人が出なかったのが幸いというもの……」


 都では私の悪い噂でもちきり。

 しかも、そんな被災した土地を金貨100万もの値段で買ったことも大きい。金貨100万枚の支払いが国庫に与える影響もあるが、貴族たちの土地を国のもととしたおかげで、復興にかかる費用も捻出することになる。

 こちらの方が経済的なダメージが大きい。事実を知った民衆がパニックを起こし、物価が急上昇。市民の暮らしに影響が出始めたらしい。


 それで私が国王に報告するということになった。

 あの国会の場である。

 この私を水龍退治に行かせやがった議員たちの前で、ある意味復讐である。


「それで聖女様はジョアン男爵ら23人の貴族、商人たちに周辺部の土地を100万枚で購入する契約を結んだと!」

「100万枚どころではない。聖女のせいで付近の村々は壊滅。被災した村人だけで1万人は超えるという。その者への食糧援助だけでも莫大な損失だ」


 議員らは私を糾弾する。

 10歳の少女を糾弾することもおかしいが、そもそも、聖女だからと10歳の子どもに全ての権限を与えてこれはおかしい。


「国会議員の皆様、そして国王陛下。聖女様は我らの土地を購入してくださいました。これが契約書です。国王陛下の代理人たる聖女様のサイン。正式な契約でありましょう。金貨100万枚払ってもらいましょう」


 ジョアン男爵が偉そうにそう発言している。

 今は取立人という立場でかなり態度が上から目線だ。

 きっと、この男のことだ。支払いを受けたら、その金をもってファルツ帝国へ亡命するに違いない。


(ふふふ……そんなことはさせないわよ)


 私はそんなことを考えながらも、あくまでもおろかな子どもを演じる。


「だって~っ。あの広大な土地、そんなちっぽけなお金で手に入るなんて、ミコト、すっごくお買い得だと思ったのですもの~」


 そう発言する。ちっぽけなお金と言ったのはわざとだ。


「聖女様、例え、金貨1枚であっても被災した土地などを所有しては、マイナス財産ですぞ!」

「被災した1万人の住民への支援に1か月に金貨1万枚は必要です。さらに家や畑を再興するには100万枚どころではありませぬ」

「あら、金貨1枚でも損するのですか?」


 私は寝とぼけてそんなことを発言する。

 議員はみんな両手で頭を抱えたり、目を覆ったりしている。


(ふふふ……今まではうまく行かなかったけれど、これで傾国の第一歩)


 国家への経済ダメージは傾国への第一歩である。


(そしてこの男は破滅させる)


 この場で偉そうにしているジョアン男爵、そしてその仲間の渤海湖周辺の貴族ども。まもなく、天誅が下る。


「ふふふ……。ミコちゃん、さっそくやってくれたね」


 先ほどからずっと黙っていたアンドレ少年王。

 顔は満面の笑みだ。


「国王陛下、笑っておられる時ではありませぬぞ。市中ではこのことが噂になり、パンの値段が10倍に値上がりしたとのこと。明日にはパニックになりますぞ!」


 経済大臣がそう絶叫する。

 しかし、アンドレは笑い続ける。

 そして契約書をみんなに見せた。


「先ほどから、金貨100万枚などという数字が行きかっているが、それはどこから出た数字のだ?」


 そう少年王は言う。

 びっくりしたのはジョアン男爵。


「何を言っておられる国王陛下。その契約書に書いてあるではありませんか!」

「ほう……。余には金貨1枚としか見えないが……」

「何を……」


 契約書を見たジョアン男爵は氷のように固まった。

 契約書には『金貨1枚』と書いてある。

 経済大臣も議長も読む。金貨1枚である。


(私が習得した魔法に『幻影』というものがある。ジョアンとの契約の時に密かに発動しておいたのだ。幻影の魔法は契約書。幻影は持続することが可能。幻影を解くのは術者の私の気分次第。


 アンドレが手にした時にその魔法を解除したに過ぎない。

 正真正銘の契約書に戻った時に、本当の契約内容が現れる。


「購入代金、金貨1枚」

「男爵もお人が悪い。金貨1枚で売ったのを100万枚とは……。まあ、金貨1枚の価値もないのだろうが……」


 そう言いながらアンドレはくすくすと私の方を見て笑う。


(ど、どういうこと?)


 少し疑問に思ったが、私の仕掛けはそれだけではない。

 神殿を作る寄付の契約書も当然、仕掛けている。

 金貨10万枚どころではない。金貨100万枚の寄付になっている。


「ば、馬鹿な……そんなはずは!」


 ジョアンは泣き叫んだが、正式な契約書があるからどうにもならない。彼を含む貴族や悪徳商人は100万枚のために全財産没収となった。


「しかし、いくら聖女様が金貨1枚で広大な土地を手に入れたとはいえ、被災した土地への支援を考えると……」


 ジョアンらが去ってそう議題は私への糾弾へと戻る。

 つまり、私が国の経済に大ダメージを与えた事実は消せない。


(ジョアンらへの罰と共に傾国への道が成立。ラッキー!)


 心の中で舌を出す私。

 だが、アンドレはさらにニコニコしている。先ほどから何やら知らせに来た者がおり、その手紙を読んでから笑顔がさらに増していた。


「皆さん、今、渤海湖周辺から連絡がありました。金脈が見つかったそうです」

「えええええええ!」


 みんなも驚いたが私が一番驚いた。

 アンドレの野郎、前からこの地方に金山があるとにらんでいたらしい。今回の水龍退治にかこつけて派遣した歩兵部隊は実は金山探索の専門家を集めた部隊。

 アンドレの密命を受けて調査にあたると同時に、恐らく、水龍との戦いであのあたりの地形が変わると予想。

 山の地層に隠されていた金脈を発見したということだ。


「金の埋蔵量は金貨で1億枚以上とのことだ。さすが、僕の聖女様。これを見越して格安でこのあたりの土地を買い占めたというわけだね」


 そう言って片目をつむった。


(ああああああっ~。またしても、アンドレの奴の手のひらで動いてしまった~)


 そう心の中で絶叫したが、そんな心内は少しも出さず、私は微笑んだ。


「すべては神の御心のままです」


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