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女衒商人に高く買われる方法(2)

「ねえ、ミコちゃん、このご飯、美味しいずら……」


 昼になった。お昼ご飯もちゃんと用意されていた。今度は調理された熱々のもの。湯気が立った食べ物に閉じ込められていた女の子たちの心も少しだけ明るくなる。


 粗末な木製のお椀でミルク粥を貪るように食べているジータ。鼻の頭に粥の汁が付いている。昨日まではこのような温かい料理は食べていないから、餌に群がる子豚のような食べ方になるのは分かるが、もう少し品を持とうよと言う目で私はジータを見た。


(この子の容姿なら、妓楼の見習いになる可能性はあるけど、このままじゃ高級店は無理ね。気品がないから。磨けば光る可能性もあるかもしれないけどね……)


 私はミルク粥を食べた木のスプーンをナメナメしているジータの姿を見て再び迷った。同じ村の幼馴染設定のジータを見捨てるかどうかということをだ。


(傾国の美女を目指すには不必要な子だけど……私の下僕としてなら一緒に行動してもよいと思ったけど、今の状況からできるかしら……)


「おい、お前ら、食事を早く済ませろ。済ましたら、この服に着替えるんだ!」


 男が3人、大きな木箱や水の入ったバケツをもって怒鳴った。係りの男たちだ。ここは奴隷の一時預け所のような場所なので、男たちは手慣れたものだ。


木箱の中には古着のドレスが入っている。みんな汚いなりだから、売る前に小奇麗にするらしい。

まずはバケツに入った水にタオルを浸し、絞って体を拭く。みんな黙々と行っている。


「ミコちゃん、わたすが体を拭いてあげるずら」

 

そう言うとジータは水で濡らしたタオルを固く絞り、私の背中を拭いてくれる。微妙な力加減でなかなか上手だ。

私はこれで決めたことがある。自分の運命はとっくに決めたが、このほんわかした幼馴染も私が一緒に連れて行くと決めたのだ。


(うん、ジータ、これは気に入ったよ。あなた、私と一緒に来て私の身の回りの世話をしてもらうわ)


「ジータ、上手だね……」


 ジータを褒めると嬉しそうにどんどんと仕事を進める。この子は召使いになると、なかな気が利いて重宝しそうだ。

 私は一時、このジータを見捨てようと思ったけれども、その選択を完全に破り捨てた。私の役に立つのなら助けるべきだ。それに一応、幼馴染設定で生まれた時からの友人らしいから、見捨てると後味が悪そうだ。


「お前ら、体を拭いたらこの服を着ろ。下着も取っ替えるんだぞ!」


 そう言って粗末な木箱に無造作に詰められた古着の山。中にはパンツやシミーズ、ブラジャーなんかともにシンプルなデザインのワンピースが何着もある。


(これは助かる~。正直、汗臭くて下着もきれいとは言えないんだよね。古着でも助かるわ~)


 正直、下着の古着はどうかと思うが、この世界は魔法はあるけど文明レベルは低い。下着を多量に作る工場もないから、新品は高いに違いない。


「ミコちゃん、これなんだべさ?」


 ジータがブラジャーをお約束のように頭に載せている。帽子か何かと勘違いしているようだ。


「ジータ、それはブラジャーだよ」


 私は教えてやった。それを聞いてジータはパッと顔を輝かせた。わかったという顔だ。


「これがブラジャーずらか。初めて見るずら。家じゃ、おっかあは布巻いていたずら。ミコちゃん、わたす、このブラジャーを付けてみるずらさ……」


 ジータがブラを取ってみるが、それを収めるふっくらまんじゅうなんてもってない。だから、ぽろりと落ちる。


(はいはい、お約束だね)

「ああ、無理だったずら」


「ジータ、それは無理だよ。もっと大きくなってからだよ」


 私は一応、そういったが生まれ変わる前に自分がいくつでブラジャーを付けたか思い出そうとした。

(ああ、たしか中2だったわ)


 そこから結構成長はしてくれたが、もう少しがんばってくれたら、セクシーグラビアアイドルの方面でもスカウトされたかもしれない。


 さて、下着を付けると今度はワンピース。これまで落ち込み気味だった女子の集団が色めき立った。やはり女は服を選ぶときは、どんな状況でもうきうきしてしまうのだ。


 年齢がいってるお姉さんたちからすると、ここで少しでもかわいく見られようと、必死でかわいい服を物色している。

 

 少しでも高値で買われることは、これからの自分の運命を変えると自覚しているのだ。だから、競うように箱の中の服を探す。


 かわいい服を着るという点では、私も同じ立場であるが、いかんせん、小さい女の子用のは少ない。私やジータに合う服は、小さいワンピースで2着しかなかった。水色髪のジータによく似合う水色のものと、私の黒髪によく映える赤いもの。古着だから色は冴えないが、それが返って私とジータの魅力を際立たせた。


(ああ~。かわいい子というのは、どんなボロを着ていてもそれが踏み台になって、輝いてしまうのね~)


「ミコちゃん、その服、反対ずら」

「はれ?」


 完璧な私。ついうっかり、前後ろを逆に着てしまった。ジータに注意してもらわなかったら、危なく恥をかくところであった。


「よし、お前ら着替えたか。今から内覧会だ。みんな牢から出ろ。壁の前に一列に並ぶんだ」


 そういうと係のおっさんたちはぶっきらぼうに命令した。

 牢のカギが開けられる。着替えた私たちは壁に並んだ。


 総勢20人の女の子が年齢順に並ぶ。私とジータは一番小さい。だから、列の左端になる。


「おやおや、今日はよい玉は少ないですな」

「うちは容姿は関係ないですから。健康そうな女がいれば問題ない」


 部屋に入った途端に私たちをジロジロと見て、失礼なことをぬかすおっさんが5人ほど入ってきた。

私は右手をそっと額に当てる。神様にもらった個人情報公開の能力だ。魔力で抵抗できない場合、おっさんたちの職業が分かる。


 3人は妓楼に女の子を売る女衒商人。2人は労働力として買い取る奴隷商人である。彼らは常連の上得意客なので、事前にじっくりと品定めをするらしい。ここである程度の品定めをしておいて、後で競り落とすのだ。


「う~ん。こいつはすぐに店に出せるな。16歳なら1年後から稼げる。ただ、それじゃ、仕込みが足りないから中級以下だな」

「こっちは生娘じゃない。大方、売られるってんで好きな男に抱かれたってとこだが、自分の商品価値を下げやがって」


 どうやら女衒商人は手のもった大きな虫眼鏡みたいもので処女か非処女か分かるらしい。この道具には、私のステータスを見破る類の魔法が宿っているようだ。いわゆるマジックアイテムという奴だ。


 私の魔法力∞がばれると厄介だと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。そのマジックアイテムで見破れるのは処女か非処女だけらしい。


「うむ、小さい子供もいるな……だが、子供は将来の見極めが難しい」

「すぐに稼げるわけじゃないからな」

「だが、将来性は磨かなければ生まれてこない」


 私とジータを見てそんなことを話している男たちがいる。そして、その中の一人が私とジータに近づいてきた。


「うむ。この子供、なかなか整った顔をしている。これは将来楽しみだな」


 私の顎を人差し指でぐいっと上げて近づいてきたおっさんそう言った。私はここぞとばかりにキッとにらみつける。これは見てくれだけでなく、中身も賢いですよというアピールである。


「うむ。性格も強そうだ。こういう子は化ける」


 満足そうにそのおっさんは頷いた。私はこの男のステータスをしっかりと確認する。ちなみにこれらおっさんたちの頭の上をくるくる回っている宝石は赤色である。どうやら童貞ではない。そりゃそうだ。この年で奴隷商人していて、女の経験がないのだったら怖い。


 ガイン 女衒商人 48歳 魔法力0 商売力256 戦闘力35

ベテラン女衒商人。女を見る目は確か。但し、女房を見る目はなかった。いつも怖い女房にこき使われている哀れなダメおやじ。非情な態度を取っているように装うが、実は涙もろくて優しいおっさんである。


(ぷくくく……奥さんに尻に敷かれているなんてね。このおっさん、いいキャラしていらっしゃるわ。よしガインのおっちゃん。後で私をきっちりと競り落とすのよ)


 私は目を伏せてあくまでも強くて反抗的な女を演じる。男はこういうタイプに弱いものだ。強そうな女を屈服させる喜びを味わいたい男は結構いるのだ。

 小さいながらもそういう素養を見せておくことは大事だ。私は女を支配したいという馬鹿な男心を最大限に利用する。


「こっちもいい感じだが、隣よりは賢くなさそうだな」


 ガインのおっさんはジータを見てそう言った。私と比べればそう見えるだろうが、ジータだって将来は悪くないと思う。見てくれだけなら、私の足元には達するはずだ。気品と魔力は0だけど。


 どうやら、このおっちゃん私とジータに興味をもったようだ。女衒商人にしては優しそうだし、この中ではこのおっちゃんに買われるのが一番の選択だろう。


(だけど、油断はできない。奴隷市は競りだから、他の人間に買われるとやばいかも)


 私は魔法を使うことにした。神様に教えてもらった魅了の魔法だ。私は既にいくつかの魔紙を召喚して、『封印』のシールで止めていた。それを腰に付けた小さなポシェットからそっと出す。


「これで私に溺れろ!」


 シールをはがして魔紙を指で弾く。この間、わずかに5秒ほど。魔紙はガインのおっちゃんにあたって砕ける。もちろん、この一連の動きは、魔力が高い人間じゃないとまったく見えない。この部屋にいる人間たちでは、筆で書く動作を見られなければ、私が魔法を使ったなんて分からないだろう。


「おふっ!」


 私に魅了の魔法をかけられたガインのおっちゃん。再び、私を見ようとふらふらと近づいてきた。



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