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結末

「うおおおおっ……」

 侯爵は前進した。短期で魔獣を仕留めようと判断したのだ。だが、同時に魔獣は魔法を放った。電撃の魔法『バルト』である。青白い稲妻が侯爵に向かていくが、お構いなしに進む侯爵。


(うあっ……すごいは、あれは剣の力?)


 稲妻は侯爵に直撃したが、侯爵の周りに見えない防御シールドがあるように弾かれるように四散した。そして剣先が魔獣の肩を斬りつける。

 魔獣も鋭い爪を左斜め上から振り下ろす。この攻撃は侯爵の服を裂いた。だが、それにひるむことなく、侯爵は2撃目を加える。今度は魔獣の腹に剣を突き刺す。

 魔獣の腹は固い鱗に覆われていたが、剣は難なく突き刺さり、青色の血しぶきが飛び散る。だが、魔獣もそれで動けなくなったわけではない。突き刺してきた侯爵の首に噛みつこうと首を伸ばす。


「ぐっ……」

 辛うじて首筋は咬まれなかったが、肩を噛みつかれてしまった。それでも侯爵はひるまない。腹に突き刺した剣を素早く抜くと魔獣の頭を薙ぎ払う。魔獣は避けたが、髪の毛の蛇は数匹、首を飛ばされて地面に落ちる。


 凄まじい戦いである。勝負は一進一退。攻撃に回ったジルドラ侯爵が有利のように見えた。じりじりと魔獣を追い詰め、そしてダメージを積み重ねている。このままいけば、侯爵の勝利は間違いがない。


(あのおじさん……結構、戦闘力ありますね)

 いつもレーティシアと遊ぶ時には、単なるおっさんにしか見えなかった侯爵が急にカッコよく見える。若い時から女遊びが激しかったそうだから、男らしい姿は元々持っていたのであろう。


(これじゃ、私の出番はないかもね)

 そう考えていた私であったが、急にジルドラ侯爵の動きが鈍り始めた。

「ううう……」

 足が細かく痙攣しだし、魔獣に向けている剣先が定まらない。


(麻痺毒だ……さっき、咬まれた時に毒を注入されたんだ)

 ついには片膝をついた侯爵。息が荒く苦しそうだ。


(ま、まずいわ!)

 私は思わず飛び出た。侯爵の意識はもう途切れ途切れで、私が加勢に入ったことに気づいていないようであった。


「ぐぎゃああ、しゃああああああっ……」

 新たな獲物に不気味な声を上げる蛇の魔獣。


「我、記せし、世界を欲する」

 私は指で魔紙を空中に描きとる。そして、魔筆で「火玉」と書いた。


「これでも喰らえ!」

 炎の球が召喚された。それは魔獣の頭上。私はそれを手で差して、一気に下へ振り下ろした。火の玉が落ちる。

 炎に包まれたように見えた魔獣であったが、それは一瞬だけ。火の玉から転げ出てくる。ダメージは大きく与えたが、とどめにはなっていない。

「分かっていたわ!」

 次の攻撃プランはとっくにできている。実は腰に付けたベルトに魔装弾倉がくっつけてあり、すでに書いておいた魔字をファイアボール発動と同時に投げておいたのだ。


 その解放先は、魔獣が逃れ出た場所。発動した魔法は『粘』。ゴキブリホイホイの魔法である。

「はい、動けないよね?」

 魔獣は足が地面にくっついてしまい動けない。『粘』の魔法は地面に強力な粘着を持たせて、敵の足を止めるものだ。魔力の超高い私が使えば、ドラゴンですらその場に留めることができる。


「我、記せし、世界を欲する!」

 私が次に発動したのは『氷矢』。それに『倍』をあてて、本数を増やす。蛇の魔獣に無数の氷矢が突き刺さる。


「ぐぎゃああああああっ……」

 足が固定され、ふらついて倒れ、両手もくっついてしまった魔獣には酷な攻撃である。

だが、私の攻撃は容赦ない。さらに『火玉』を発動。そのまま、蛇の魔獣に落とした。


(なんだか、一方的な戦闘になってしまったけれど……)

 火の玉が消えた時には、蛇の魔獣は灰になってしまっていた。私の完全な勝利である。

(さて、蛇の魔獣は倒したけど、この先はどうするかな?)


 私はアンドレが倒れているところへ戻ると思案した。アンドレの瞼がぴくぴくと動いている。このままでは起きてきそうだ。


(ここは私も気を失ったふりをしましょう)

 アンドレの隣で倒れたふりをする私。目を閉じるが耳はしっかりと意識を集中している。やがて、隣のアンドレが起きたようでごそごそとしだした。

「ミコちゃん、ミコちゃん」


 そう言って私の肩を揺らす。しかし、簡単に起きてしまうとこの後の展開で困ると思って、私は目を閉じたまま、ふりを続ける。


「ミコちゃん、気を失ってしまったんだね。くくく……眠った顔もかわいいなあ」


 とんでもないことをおっしゃる少年公爵。それよりも、ジルドラ侯爵と魔獣の戦闘の結果を普通は確かめるだろと私は思ったが、ここはがまんして気を失ったふりを続ける。


「ミコちゃん、起きないの……どうしようか。きっと、魔獣の魔力の影響を受けたの違いない……う~ん、どうするか」


 まだ私を起こそうと考えているアンドレ少年。もういいから、魔獣の方へ関心を移せと心の中で念じるが、全く効果がない。


「ああ、きっと眠り姫は王子様のキスで目が覚めるというから」

(ちょ、ちょっと……待ってよ!)


 目を閉じているから見えないが、明らかに顔を近づけてきそうな気配を感じる。

(こ、こいつ、私にキスをしようと……眠った女の子に、なんと不埒な奴)


 昔からゲス野郎であったが、やっぱりこいつはゲスである。私はたまらず目をぱっちりと開けた。もう唇と唇が接触する寸前。アンドレと目が合う。


「ア、アンドレ様。一体、何を?」

「おや、ミコちゃん、目が覚めた。残念だなあ……。でも、ここまで来たらいいか」

「よくないわ!」


 私はアンドレを押しのける。危なくファーストキスを奪われるところであった。


「いやあ、君が気絶してしまったから、目を覚まさせようとしたんですよ。決して、邪な気持ちがあったわけじゃないよ」


(うそつけ!)

 私はジト目でアンドレを見る。アンドレは唇笛を吹いて、視線を動かし、ジルドラ侯爵とルチアの方へ視線を送る。


「魔獣はどうなったのかしら?」

 私は何も知らないふりをしてそう演技をした。そうしたらどうであろう。アンドレの奴が大ぼらを吹きだした。


「ああ、ジルドラ侯爵と激しいバトルがあったけど、途中で侯爵が麻痺毒を受けて倒れてしまったんだ」

 ここまでは正解である。気を失ったいたのに、まるで見ていたような嘘をつく。


「じゃあ、一体、誰が蛇の魔獣を倒したの?」

 私はこの後、彼がどう嘘を続けるのか聞いてみることにした。すると、アンドレ少年はとんでもないことを話し始めた。


「侯爵が倒れてしまったので、このままではいけないと思って、僕が蛇の魔獣を倒したんだよ」

(お、おいいいいいいいっ~)

「いやあ、手強かったなあ」

(嘘つけええええ!)

 心の中でそう叫ぶ私。


「ミコちゃん、僕の凄さを知ってますます惚れた?」

(ほれるわけねえだろ。全部嘘だよね)


 心の中でアンドレを軽蔑していたが、ここは話を合わせるしかない私。気を失ってアンドレより後に目を覚ましたことを後悔した。せめて、同時ならよかったのにと思った。


「す、すごいです。アンドレ様、すごい~」

 私はそう抑揚のない声で彼を褒めた。それなのに喜ぶ、お坊ちゃま。


やがて豆蔵が目を覚まし、すぐに桜蘭亭へ助けを呼びに行く。私たちも姿を消すことにした。後は大人たちに任せよう。


*

この事件のことは徹底的に伏せられたので、私の耳には一切入ってこなかった。しかし、アンドレが後に事の顛末を私に教えてくれた。


 予想通り、ルチアはジルドラ侯爵の娘であった。昔、侯爵が遊びに惚けていた頃のご落胤だったのだ。侯爵がルチアを見つけたのは全くの偶然。レーティシアの客として、彼女のサロンに出入りしていた時に左内腿の印を見つけたのだ。


 水遊びデーとか何とかで、レーティシアと彼女の妹分たちと簡易プールでじゃれあうと言う企画で知ったそうだ。


(何という、いかがわしい遊びだ。男という奴は死んだほうがいい)


 ジルドラ侯爵は自分の家に伝わる言い伝えを知っていた。100年後に復活するであろう、蛇の魔獣を自分の代で倒す運命であることを。


 若い頃はその重圧から逃れたいばかりに、遊び惚けていたが自分の血を受け継ぐ子供が生まれた時に戦うことを決意をしたそうだ。

 だが、狡猾な蛇の魔神はジルドラ侯爵の血を受け継いだ娘たちから復讐をしていったのだ。ジルドラ侯爵も手を尽くして自分の血を受け継ぐ子供を捜したが、すべて後手後手に回り犠牲者を出してしまったのだ。

 だが、今回はルチアを早く見つけることができ、彼女を守ることができたのだ。見事に家の宿命を乗り越えたジルドラ侯爵は、半年後、レーティシアを妻に迎えるために桜蘭亭から買い取り、ルチアも自分の娘として桜蘭亭から買い取ったのであった。


めでたし、めでたし……


(いや、全然、めでたくない。私には何のメリットもなかったやろ!)


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