吸血鬼事件2
「最初の犠牲者が出てから、もう6か月も経つのにまだ解決していないなんて怖いですわ」
メルセデスの爪を磨き、マニキュアを施しているNレディのキャロラインがそう答えた。彼女はデビュー前の15歳の少女だ。髪の色は銀髪で雪のように白い肌は、桜蘭亭ナンバー2のロイヤルレディ、コーデリアを彷彿とさせる容姿。
ただ、端正な顔立ちの割には目が細く、いつも閉じているように見える。それが目が見えない薄幸のお嬢様っぽい雰囲気を醸し出していて、既にファンになる常連客候補が何人もいるらしい。
桜蘭亭の期待の新人といってよい。用事があるとき以外は、私に話しかけてこないので、性格はよく分からないが、それが返って神秘的な印象を与える。
「でも、キャロラインお姉さま。この桜蘭亭にいる限りは、吸血鬼に襲われることはないから安心ですわ」
「エリス、1つの事件はパンドラ地区で犠牲者が出ているわ。あなたとミコトとジータは、お使いで町にも行くでしょう。ちゃんと気を付けるのよ」
プリンシパルとプティは特例でパンドラ地区から出ることができる。許可証提示と桜蘭亭の男衆が付き添うというのが条件であるが。
「はい、キャロライン姉さま。気を付けるっちゃ」
素直なジータの返答は、実に子供らしいが、ひねくれた私は疑問に思ったことを口に出した。
「町の出ても豆蔵と一緒だから問題ないです。それよりも、これが吸血鬼の仕業というのが怪しいと思う」
「ほう……。ミコトよ。なぜ、そう思うのじゃ」
私の疑問にメルセデスが興味を示したようだ。この吸血鬼出現の記事は、最初の事件から私は読んでいる。それから3件の事件。今日の新聞にある4件目の事件のあらましを総合するとおかしな点があるのだ。
「いえ、なんとなく……です」
「ほほほ……生意気なことを言っても、やはりミコトは子供じゃのう。根拠もないのに思ったことを口にする」
メルセデスに馬鹿にされて私はムッとした。おかしな点を話してやろうかと思ったが、関係ないことに首を突っ込むのはよくない。
無駄に突っ込むと8歳の子供らしくないと思われる。私が転生者で魔力が無限と言うとんでもない能力の持ち主であることは、隠しておきたいのだ。
「実はわちきも吸血鬼の仕業だとは思わぬ。確かに犠牲者は若い女ばかり。吸血鬼は若い女を襲うというから、疑いの余地もなさそうじゃが、返ってそれが怪しい。吸血鬼のような狡猾なモンスターが、簡単に遺体という証拠を残すのも気になる」
メルセデスはそんなことを言った。実はそれは私も思っていたことだ。新聞によると最初の犠牲者はパン屋の若女将。結婚したばかりなのに被害者になってしまった。
2人目の犠牲者は、都へやって来た冒険者の女。3人目は下級貴族のお姫様。昨日殺された4人目は、パンドラ地区の中級妓楼のレディだったらしい。いずれも若い女性で、その遺体に残された首筋の2つの咬み傷から吸血鬼の仕業と噂された。
(共通するのは若い女性。身分も問わず……)
そもそも、この世界に存在するという吸血鬼は、太陽の下では行動ができない典型的なモンスターなのだ。魅了の魔法を使って犠牲者を操り、しばらくは食料として生かしておき、気に入れば自分の眷属とし、気に入らな狩れば血を全て吸って殺すという恐ろしい化け物なのだ。
(吸血鬼にも好みはあるだろうけど、伝承では処女の血を好むという。でも、最初の1人は人妻。2人目の冒険者や3人目の貴族令嬢はどうか知らないけど、4人目もあっちの方は経験者。)
「まあ、吸血鬼もいろいろといるからのう……。いずれにしても気を付けることにこしたことはない……」
メルセデスはそう締めくくった。私はこの都で噂の事件がどこか気になったが、この話題はここで打ち切りになる。私を指名する客の呼び出しがかかったのだ。




