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桜蘭亭の日常

さあ、2巻の始まり。ぼちぼち更新

エレガントプティである私とジータの朝は、6時起床から始まる。

早いようだが、夜の仕事がないプティは夕方には宿舎エリアで勉強や習い事をして過ごし、夜の9時には就寝するから眠いということはない。


 大部屋に所属している時とは違い、ジータと一緒ではあるが小さな部屋が与えられ、服や装飾品、家具も与えられている。

 食事も大部屋の子や従業員が食べているものとは違う。主菜に副菜、スープにデザートと毎回5品は用意される。


 朝起きると自分たちの部屋の掃除。そして健康のために体操とランニング。朝食を済ますと今度は姉に当たるプリンシパルやNレディたちの手伝いをする。

 朝の9時にはメルセデスと一晩過ごした上客のお見送りをして、勉強や習い事を行うというのが1日の過ごし方だ。


 さらに習い事も多彩だ。楽器に歌、演劇と言ったものから、歴史や語学、経済学と言った学問。特に字の練習は力が入る。これは将来、常連となる客へ出す手紙に記されるからだ。

 字は人を表すと言うが、ロイヤルレディの筆跡は嫋やかであり、字に色気がないといけない。教養ある文書と色っぽい筆跡で客の心を掴む必要があるのだ。


「これ、ミコト!」

 今朝も朝からの習字の時間では、特別に付けられた先生からピシッと小さなムチで手を叩かれた。現代日本なら体罰と言われるだろうが、この世界では日常茶飯事だ。


「あなたは田舎者のくせに見事な字を書きます。しかし、その字は整い過ぎています。まるでお役所の文字のよう。将来、ロイヤルレディになるには、そのような字では客はつきませんよ」

 隣ではミミズが這いずり回ったような字を書いているジータ。田舎から出てきた無学の8歳の子供なら、ジータのレベルが普通だ。


 だが、私は大人も顔負けの字を書くことができる。これは習字の先生も驚いたようで、私のことを本当に貧しい農家の子供なのかと疑いの目を向けてきたくらいだ。

 これは当然の思考で、8歳の子供でこれだけの達筆なのは平民クラスではありえない。貴族の子弟でない限り無理なのである。但し、私の筆跡は実に大胆で豪放。習字の先生に言わせると『たくましい字』であり、桜蘭亭の遊女としては失格らしい。


「ミコト、字はわざと崩し、曲線と直線を組み合わせ、熱情と官能を含ませる。あなたの字は真面目過ぎて全然だめです」

(一体、この先生は8歳の私に何を言っているのであろう……)


 たぶん、レベル的にはプリンシパルやNレディが教えられることを教えているのであろう。相変わらず、隣ではジータがミミズが這ったような字を紙に書いては丸めて捨てている。

 私がいるおかげでジータは先生に叱られない。全く、要領がよいというか、楽できる星の元に生まれついたというか。


「先生、ネツジョウとカンノウを含ませるという意味が分かりませんけど?」

 8歳の子供としては至極あたりまえなことを聞いた。そもそも、官能なんて言葉はお子様にはふさわしくはない。しかし、習字の先生は私を8歳の子供扱いをしない。


「これを見なさい」

 先生はとある詩が書かれた紙を見せた。遊女が別れ際に客に渡す定番のものだ。詩の内容は数百通りもあり、それは客に対する遊女の思いが秘められている。

 3日通って常連客になった客は、その証にこの詩が書かれた手紙を手渡されるのだ。そこには男の心を掴むあらゆるテクニックが込められている。


「これはすごいですね」

 一目見た私は思わず、そう感想を口にしてしまった。


 まずは字の見事さ。

 先生は熱情と官能を込めろと指導したが、それがどういうことかこの手紙を見れば理屈でなく頭へ入ってくる。

 書いた人物が誰か知らなくても、色っぽくてなまめかしい人物だと分かる字だ。それは上品かつ色がついた字。一目見るだけで心が騒いでしまう……女の私でも思わず期待してしまう(なにを?)ものなのだ。

「これはメルセデスが13歳の時に書いたものだよ。あくまでも練習したものの一部」

「……」

 絶句した。悔しいがこれは脱帽するしかない。この色気あふれる筆跡を13歳にして身に付けていたのだ。

(さすがこの桜蘭亭ナンバー1のロイヤルレディだわ。13歳でこの色気のある字とは……)

 そうは思ったが、よく考えればこのミコト様はまだ8歳。あと5年も修行すれば、このレベルどころか、もっとすごい字が書けるに違いない。


「あ~う~。ミコちゃん、字を書くのは難しっちゃ……」

 ジータ、鼻に真っ黒な墨を付けている。


 ちなみにこの世界の文具は、筆と墨汁、羽ペンとインクの2種類がある。筆は動物の毛で作られた普通のもの。これは魔筆と同じであるが材料が少し異なる。魔筆は魔力を増幅する性質をもった動物の毛が使われているが、普通の筆は書きやすさ重視なのだ。


 羽ペンは鳥の羽の軸をナイフで削ったものだが、近年は金属で作られたペン先が出回っている。この桜蘭亭では昔ながらの羽ペンである。

 一応、客に手渡す後朝の手紙は筆で書くので、これに関しては私はアドバンテージがあるが、羽ペンは少々苦戦した。鉛筆やシャープペンシルに慣れた私には羽ペンは実に使いにくい。


「ミコト、ジータ、新聞を持ってくるのじゃ」


 習字の勉強を終えて部屋で休憩していると、この時間に起きてきたメルセデスが乱れた寝間着姿のまま、頭をかきかきひょっこりと顔を出した。メルセデスは桜蘭亭で部屋持ちロイヤルレディなので、自分の居住区をもっている。2人のプティと2人のプリンシパル。2人のNレディが妹分だ。自分の部屋を合わせたかなり広めの4LDKのエリアが居住区として与えられている。


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