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おねしょ事件の真実

「う~ん……ミコちゃん……どこへ行ったちゃ?」

 ジータは目覚めた。おしっこがしたいと思ったが、部屋の中は真っ暗である。ジータは8歳の小さな女の子であったが、暗がりは別に怖くはない。生まれ育った田舎では、夜中に村の外れにある井戸へ水を汲みにしょっちゅう行かされていたからだ。


「ううう……なんだか怖いっちゃ」

 暗がりは怖くない。しかし、ジータは先ほどから何かが自分に視線を向けているようで、体中にぞくぞくと冷たいものが這っているような感覚にとらわれていた。

 隣に寝ていたはずのミコトがいないのも不安であった。こんな夜中にどこへ行ったのであろうか。耳を澄ますと叫び声やら、獣の咆哮のようなものも僅かに聞こえてくる。それは地の奥底から伝わてくるような感じ。


「わっ!」

 薄っすらと目を開けたら、白い透明なものが浮遊しているのが見えた。ジータには時折、こういったものが見える。死者の霊だと神官様から聞いたことがある。そういうものが見える人間が稀にこの世界には存在するそうだ。


 いわゆる霊力が高い人間。そういう人間は神の奇跡を授かる力を秘めていて、修行をすれば高位の神官になることができるのだという。

 でも、ジータはそこまでは知らない。知っているのは感覚でそういうモノたちと目を合わせてはいけないということである。


(こ、これは……起きたらまずいっちゃ……ミコちゃんのことも心配だし、おしっこもしたいけど……ここは我慢だっちゃ)


 ジータはギュッと目を閉じた。やがて睡魔に支配されて意識が朦朧となる。尿意もなくなったかのようだ。時間が経った。


(あれ……ミコちゃん、戻ってきたっちゃ……よかったちゃ……)

 ジータは自分が寝ている隣に気配を感じた。それはジータの大好きなミコトの匂い。そして温かい体温。


「う~ん……ミコちゃん……」

「ジータ、気持ちよさそうに寝ているね……まだ、魔法が効いているのかしら」


 夢の中でミコトの優しい声がする。ジータはミコトの方へ寝返りをうって、そっとミコトの胸に顔をうずめた。

「もうジータったら、甘えんぼさんだから……」

ミコトは優しくジータの頭を撫でてくれる。すべすべの髪は心地よくミコトを眠りの世界に引き込む。

「ちゅうちゅう……」

「ちょ、ちょっと……ジータ、吸わないでよ~。ママのおっぱいじゃないよ……」

 そう言ったものの、ミコトも戦いに疲れていた。ジータの髪の毛から発せられる日なたの匂いの心地よさに意識が途切れた。


 ミコトが眠りに落ちた直後、ジータは幸せそうな表情になる。そう全てから解放された気持ちに……。

 朝になった。小鳥のさえずりでジータは目を覚ました。


「う~ん……ミコちゃん、ミコちゃん」

 ジータはそっとミコトの体を揺すったが起きる気配はない。泥のように眠っている。きっと、疲れがたまっているんであろう。


「あ、まずい……もう時間がないっちゃ……あと20分で朝の集合時間ちゃ!」

 ここでジータは気づいた。自分の下半身の冷たさを。


「あれ……うちって……し、失敗したっちゃ~」

 パンツもシーツもぐっしょりだ。


「これはまずいずら……もうパンツを替える時間もないずら……」

 パニックで慌ててしまい、元の田舎言葉に戻るジータ。横には気持ちよさそうに寝ているミコト。

(ご、ごめんずら……ミコちゃん、パンツを借りるずら)


 ジータはネグリジェの下から手を突っ込んでミコトのパンツをはぎ取った。そしてそれに履き替える。そのままだとカゼをひいてしまうと思ったジータ。自分が履いていたパンツをミコトに履かせる。


(少し濡れているけど、ないよりはマシずら……。ミコちゃん、本当に、本当にごめんずら~)

 ジータは朝もやの中を本館に向かって駆けだした。


 これがミコトの運命を切り開いたおねしょ事件の全容であった。


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