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結末

「ミ、ミコちゃん……」

 私の持ってきた桃苔の煎じ汁は大変な効き目であった。飲ませたジータの熱は一気に下がり、苦しそうに息をしていたのが落ち着いた。そして意識を取り戻した。ガインのおっちゃんもハンスさんもだ。特に死にそうだったハンスさんが回復したのには、医者も驚いた。


「ジータ、豆蔵さんが持ってきてくれた薬で助かったんだよ」


 私はそうジータに話した。豆蔵と冒険者が持ち帰った桃苔によって、助かったというシナリオ実行中だ。

 ガインのおっちゃんなんか、再び、豆蔵に助けられて感動で涙を流して感謝している。豆蔵はクールに冒険者と勇者キラーラビットのおかげと淡々と話して姿を消した。私に命じられて身を隠したの過ぎないが。


 山から生還したバーナードたちは、ジェラル山の秘密を冒険者ギルドに報告した。山自体が巨大なクリムゾンアントの巣で、それを巻き角の魔獣が封印していたということ。

巻き角の魔獣がいなくなったため、クリムゾンアントの脅威があるが、それはほとんど勇者キラーラビットが退治したこと。ただ、万が一でも生き残ったクリムゾンアントがいれば、再び大群が出てくる恐れがあること。

 

町の冒険者ギルドは王国政府に掛け合い、クリムゾンアントの巣穴の出口をふさぐクエストを発注することにしたという。近々、冒険者たちが派遣され、岩を崩して出口を完全に閉ざすこととなる。

 

今回の危機は『キラーラビット』なる偉大な魔法使いの勇者が、町を襲うクリムゾンアントの大群を炎の魔法で滅したこと。1千万本もの炎の矢を放ったことは、誰もが信じられないと言葉にした。さらに無限とも思える水を召喚し、巣穴を水攻めにしたこと。

 

それは理論上できても、およそ人のもつ魔力では絶対にできない領域だったからだ。この世界の最強と言われる魔導士でも、炎の矢は千も放つのが精いっぱいなのだ。

 

そんな神話級の魔法などありえるわけがない。話が誇張するのは仕方ないが、さすがに盛り過ぎだろうとみんな話したが、後で現地へ向かったギルドの調査隊はそれが全くの嘘とは思えないと結論づけたいう。


 そんな後日談は私にとってはどうでもよい。

 熱い卵スープをスプーンですくってジータに飲ませる。

「アツアツ……でも、ミコちゃん、これは美味しいずら」

「ジータ、たくさん食べて元気になってね」

「うん。ミコちゃんも食べずら」

 ジータは自分の皿のスープをスプーンですくって私の口の前に差し出した。

「ジータ……」

 ジータの水色の瞳がキラキラ光っている。この目は何も見返りを求めていない。心底、私に食べてもらいたいという気持ちがあふれている。


(あ~む)

私は湯気が立っているそれを口に含む。

じわじわと塩味と卵のまろやかな感触が口いっぱいに広がる。

「ミコちゃん……わたす……死ぬかと思ったずら」

「もう、ジータは泣き虫だね」


 ジータの目には涙がいっぱい溜まっている。それが次々とこぼれた。それを見てると私も何だか涙が出てくる。こういう気持ちは初めてだ。


「ミコちゃん、大好きずら」

「ふん……私も好きだよ、ジータ」


 ジータと私はそっと抱き合った。病気が治れば旅は再開される。それは、奴隷として売られた私とジータの最終就職場所こうきゅうぎろうへ行く旅なのだ。


(それにしても……)

 この事件。よくよく考えたら、私は傾国の美人になり損ねたかもしれない。あのまま、アリの大群を見過ごしていたら……。きっとこの国は滅びただろう。


(何もしなかければ……か……。でも、そのルートは絶対違ったと思うから、まあ良しとしよう)


 私は後悔はしていない。あのまま、クリムゾンアントを見過ごしていたら、ジータは死んでしまったに違いない。それを救っただけだ。決して、この国を救ったわけではない。


(それに私の美貌で潰さないと意味ないでしょう。たぶんだけど……)

 傾国の美女となって、このショパン王国を滅ぼすのが私の使命。


 有栖川美琴、8歳。

 

奴隷として売られる途中の出来事。世界を救ったちょっとした事件であった。



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