ジェノサイド
私は岩の上に立った。赤いじゅうたんがぞろぞろと町へ向かって山を下りていくのが見える。
「我、記せし、世界を欲する!」
魔紙を召喚する。そして魔筆を走らせた。
「炎矢」
これを10枚。そして「倍」の文字を10枚書く。
まず、「炎矢」を、右手でドラックして重ねる。そこへ「倍」を当てる。
「炎矢」が20枚になる。それに「倍」を当てる。40枚……それを繰り返す。80枚、160枚、320枚、640枚……10回当てたら、その数は実に10240。さらに「倍」の文字を10枚。それを10回当てる。
するとどうなる?
暗算が得意な私の頭の中の打ち出された数字。単純な倍々を20回繰り返しただけ。
『10485760』
それだけの魔紙が重ねて並ぶ。すべてが『炎矢』の魔法である。
「降り注げ!」
私が右手で弾くとそれがすべて炎の矢に変わり、クリムゾンアントの頭上から降り注いだ。
「ギャギャギャ……」
「ギーッ」
人間大の大きなアリの化け物たち顎を大きく広げてのけぞった。あまりにもでたらめな攻撃。そしてそれは圧倒的な攻撃。数千のクリムゾンアントに対して、十分な攻撃である。一匹のクリムゾンアントに1000以上の炎の矢が突き刺さるのだ。
外骨格に固い殻をもつクリムゾンアントも魔法の矢の前には無力である。ハリネズミのように隙間なく突き刺さり、火だるまとなって焼かれていく。
「完全消滅!」
私の攻撃。レベル2の炎の矢の応用。私の∞魔力のなせる業だ。これによって、とんでもない巨大アリの大群が一瞬のうちに壊滅したのだ。もう山肌はアリたちが焼け焦げた跡で黒々と染められた。
呆気にとられて声も出せないバーナードとレイン。豆蔵なんて今にも私の足をなめそうな、イヌ状態である。
「さて、これで巣穴から出てきたありんこは全滅。まだ、巣穴にいる奴らを全部殺しちゃいましょう」
「全部、コロス……デゴザルカ?」
「幸い、巣穴の入り口は一か所だけ。あそこから水でも流し込んで溺れ死にさせましょう」
「そ、そんなことできるのですか?」
バーナードがそう私に尋ねたが、疑わしい色はほぼない。むしろ、水などないこの岩山の頂でどうやって水攻めするのか知りたい好奇心に満ちている。
「我、記せし、世界を欲する」
私は魔紙を召喚する。そして、魔筆で見事な達筆で『水』と書いた。これに『倍』プッシュの連続をかます。1枚の魔紙で水が150mlとする。これに倍、倍、倍と掛け合わせる。数十万トンの水を生み出すことなど、魔力無限の私にはどうってことない。
「くくく……さあ、ありんこのみなさん。今からハルマゲドンの時間ですよ」
小さい頃、アリの巣にじょうろから水を流し込んだ光景を思い出した。私って小さい頃から残酷だったのです。
「水の魔法、発動!」
大量の水が巣穴に流し込まれる。生き残ったクリムゾンアントもこれで全滅だろう。あとは念のために、巣穴を岩でふさぐ必要があろうが、それは町の人の仕事だろう。
「さあ、これで終了。山を下りましょう。アリが黒焦げになる臭いはあまり好きじゃないわ」
そう私はこんなことくらいどうってことないわってな感じでコメントした。
冒険者たちはどう思ったであろう。
きっと、自分の無力さに打ちのめされ、神話級の力に畏怖を覚えるであろう。彼らはきっと私のすばらしい雄姿を吹聴して回るだろう。
それは尾ひれがついて、この王国中に知れ渡る。正体は私とばれていないが、キラーラビットのキャラは、どこかで私の野望に力を貸すはずだ。
(バーナードやレインにはそれを期待しよう。それにしても……)
私に仕える忠実な下僕。私の強大な力を見て、感動でもはや忠義というより、崇拝しているであろう年齢不詳の男。
「豆蔵、明日には旅が再開されるわ」
「ハッ……ミコト様」
「あなたはばれないように後を付けてきなさい」
「モチロンデゴザル……我ガ主人、崇高デ偉大ナル神ノ化身ヨ……」
豆蔵、完全に私を崇拝している。
ちょっとやり過ぎたかなと後悔した私であった。




