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クリムゾンアントの巣

赤いうごめくものが、山肌に開けられた穴からぞろぞろと現れたのだ。それは一列になって山を下り始めた。1列が2列、3列と増えて赤い帯のようだ。

 ここから100mも離れていない地点である。ギシギシ、ゾワジワと赤いもの同士がこすれあう音が不気味に響いてくる。


「あれはクリムゾンアントだ」

「アア、間違イガナイ……デゴザル」


 驚いて立ち尽くすバーナードと豆蔵。クリムゾンアントの数はどんどん増えていく。その数は1000を超えてさらに増える。穴から次々と出てくるのだ。


「まさかと思うけど……」

 レインが恐るべき言葉を口にした。


「私たちが登っているこの山……クリムゾンアントの巣じゃないの!」

「ば、馬鹿な……こんな巨大なアリ塚があるものか。もしあったとしたら……」


 きっとクリムゾンアントの数は数万、数十万を下らないであろう。それが全部出てきて進撃を開始したら……。

「あ、わかったわ!」

私は両手をパチンと合わせた。豆蔵が不思議そうに私に尋ねる。

「ミコト様、コノ状況デ何ガワカッタノデゴザルカ?」

「決まっているじゃない、豆蔵。あの巻き角の魔獣はこの山を守っていたのよ。あいつ、最初見た時、クリムゾンアントを食べていたでしょう?」

「ハイ、確カニソウデゴザッタ……」

「あいつが巣穴から出てくるクリムゾンアントを捕食していたから、あいつら出てこられなかったのよ。ところが、巻き角の魔獣が気絶したから……」


「我々のせいだということかよ!」

 バーナードがそう怒鳴った。レインも半狂乱だ。

「だとしたら、私たちのせいで町が滅びてしまう。いや、この国を滅ぼしてしまうことにつながるわ。なんてことをしてしまったのでしょう……これは悪魔の所業」


 深刻そうなレインに私はひどく明るく否定した。


「心配ないわよ。そのうち、巻き角の魔獣が目を覚ますでしょう。そうなれば、ありんこは出てこない」


 グギャ~。空気を切り裂く凄まじい咆哮。クリムゾンアントの群れが気絶していた巻き角の魔獣に襲い掛かったのだ。


数匹なら巻き角の魔獣の方が強いのだが、今回は数が違った。何百匹ものクリムゾンアントに食いつかれては、どんな魔獣もひとたまりもないであろう。


「ありゃ……巻き角の魔獣、負けちゃったね……」


 大格闘の末、食い殺されてしまった魔獣。これでクリムゾンアントの天敵はいなくなったから、巣から外出し放題である。しかも、このクリムゾンアント、人間にジュラル熱を感染させる病原菌までもっている。こいつらが人間の町を襲えば……。


(物理的攻撃に細菌攻撃のダブルですか。ああ、これはこの国積んだわ……)


「な、なんてことを我々はしてしまったのだ。これでこの国どころか、人間がすべて滅びてしまう」

 地面に崩れ落ちるリーダーのバーナード。戦士のレインも剣を持った右手をだらりとさげたまま、放心状態である。


「出てきた奴らだけでも数千匹。巣穴には何万匹もの赤い悪魔がいる。とても町の防衛力では防げない。

俺たちが魔獣を排除したせいで何百、何千の人が死ぬ。これは万死に値する罪だ。ああ、神を我らを許したまえ……」


 バーナードは涙を流して両手を組んで天に祈っている。レインも同じだ。このままじゃ、この二人、罪の重さで自害しかねない勢いだ、


「ミコト様……ココハ神ニ遣ワサレタオ偉大ナル力デ、コノ人類ノピンチヲ救ックダサルノデゴザルノデスカ?」


 こんな状況でも仕えている主人を心底信じている男が一人。豆蔵。相変わらずの心酔クオリティである。この状況でも私の力を信じて疑わない。

「ま、まあね」

(お~い。8歳の幼女にとんでもないこと要求してますよ、この下僕)


 いくら無限の魔力があっても、ハイノーマルレベルの魔筆と墨汁と魔法を開放する魔字を認識していないから、私の使える魔法は残念ながら低レベルだ。道具と魔字さえ知っていれば、この山ごと焼き尽くすハイエンドで超極悪な破壊魔法を使えるのに実に残念。


 そんな私と忠実な下僕の話を聞いて希望が湧いてきた戦士2人。蒼白だった顔が少し赤みが戻ってきたようだ。

「そ、そうだ、我らには勇者様がいた。キラーラビット様……ここはあなた様のお力をお借りするしかありません」

「お願いします。どうか、この人類の危機をお救いください」

 膝まずいて私に懇願するバーナードとレイン。豆蔵なんて、私の答えを期待して目だけしか出していない風貌なのに両手を胸の前で合わせてウルウルさせている。


(あなたたち、8歳の幼女にそこまで期待しないでくださいよ~。私の使える魔法は……快眠はありんこには効かないし……。壁でもあの大群は防げないし、そもそも氷の矢や炎の矢じゃ数が数なくて……あれ?)


 私は考えた。私が最近、習得した魔法『倍』。これをうまく使えば、あのありんこの大群を仕留められるかもしれない。


 そうと決まったら演技をするだけである。

「フハハハハッ!」

 私は両手を腰に当てて、大きく笑った。顔は布で隠れているので見えないが、得意満面な表情は想像できるであろう。


「このキラーラビット様の前に不可能な文字はなし!」

「おおおおおっ……」

「さすが、勇者様」

「ミコト様、ナント素晴ラシイ……我ハアナタ様ニ、オ仕エデキテ光栄デゴザル……」

「はいはい、みんな私を崇めなさい!」



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