傾国の美女?転生
(あれ?)
不覚にも死んでしまった絶世の美少女の私。
目覚めた時には真っ白な部屋。
そこに真っ白なワンピースを着て寝ていたのだ。私はそっと体を起こした。
「目覚めたか……」
天井から聞こえてくる不思議な声。
「私……死んだはずじゃ……」
「死んだ。お前の肉体は滅んだ」
不思議な声はそう私に現実を突きつけた。だけど、手足を見てもちゃんとあるし、意識も徐々に取り戻している。
「死んでいるようには思いませんが……」
私は不思議な声の主にそう尋ねた。
「ここは死者が一時的に留め置かれる場所。お前は死の世界に行かず、我がここへ呼んだのだ」
「あ、そうですか」
いろいろと疑問に思ったけれど、ここはどう考えてもアウェー。
その場合は相手からできるだけ情報を聞き出すのが鉄則なので、私はわざと素っ気ない返事をした。相変わらず、私の頭は冴えている。もう駆け引きは始まっている。
「お前は随分と落ち着いているのう……」
(しめしめ……もう引っかかった)
相手がこちらに対して興味を持てば、情報を聞き出す上でマウントができる。これは私の経験から来る作戦である。
「普通の人間はパニックになり、我にいろいろと聞くものだ」
「そうですか。そういうものなのですね」
「……面白い女だ」
「面白くはありません。正体不明の人に警戒しているだけです」
「我は神だ。正体不明の人ではない」
どうやら、声の主は神様だそうだ。神なのにちょっと声色が不機嫌な感じになった。
(自分から名乗ったよ、神様、ちょろ~)
もちろん、賢い私はそれを信じるほどチョロ子ではない。自分のことを神などと言う人は、それだけで怪しいものだ。
それでも私が話を合わせたのは、その自称神とやらが、私に何をさせたいか知りたかったから。
「神様はどうして私をここへ?」
いかにも騙された感じの小娘風に私は尋ねた。私の完璧な演技に少し不機嫌になったのに、コロっと騙された神様。すぐにこちらが期待する答えをしゃべり始めた。
「お前の能力がもったいないと思ったからだ。お前が我の与える課題をクリアしたのなら、もう一度、元の世界で生き返らせてやろうと思ったのだ」
「はあ、そうですか」
心の中では(やった、ラッキー、その話、乗ります)と叫んでいたが、そんなことは表情には一切出さない。そもそも、この声の主が神とは限らないし、そもそもこの状況が現実とも思えないからだ。
「どうした、あまり嬉しそうではないが?」
私が『超ラッキー、超うれしい、神様ありがとう!』と言わないので、神の方が戸惑っているようだ。最初の仕掛けから私の方がマウントしている状況は変わらない。
「生き返らせるって、ゾンビみたいに生き返らせてもらっても迷惑ですから」
一応、そう言ってみた。当然ながら、元の美しい姿でなければ意味がない。それに生まれ変わりとかいって、別に人間になるのもゴメンである。
それだと、どう考えても前の自分よりブサイクに違いない。以前の私はこの世に2人といない至高の美少女だったのだから。至高より劣るのだったら、復活する意味はないと思うからだ。
「それは心配するな。お前が爆殺される1時間前に時間を戻してやる。そうすれば、あの事故はなかったことになり、お前は死なない」
「そんなことは無理ですよ。嘘を言わないでください」
私は神様を挑発した。ここまで完全に私のペース。神様は私の挑発に乗り、明らかに興奮している。
「できるとも、我は全知全能の神なのだから」
(はい、かかりました)
ここからが交渉開始だ。
「では、それを証明書にしたためてください。口約束では信用が置けません」
私はそうはっきりとそう要求した。相手が神様だろうが、王様だろうが、お代官様だろうが、口約束じゃ反故にされる危険性大である。文面にしてあれば、それを防ぐことができる。。
「お前はしっかりしておるのう。感心するわい」
天井からひらひらと神が落ちてきた。英語で何やら書かれている。
(神様、欧米ですか!)
『この課題を達成したら、お前を生き返らせることを約束する』
その他、諸々の生き返る条件が英語で細かに書かれていた。賢い私には日本語でも英語でも問題はない。
私はその紙を見て心の中で(やったわ、ラッキー、神ちょろい)とつぶやいた。しかし、表情にはそんな気配は一切出さない。
「分かりました。神様の要求に従いましょう」
神様が私に課した課題とは……。
「異世界スカルムーンの王国ショパンを滅ぼせ。傾国の美女となって、王を籠絡し、悪政を行って民衆の批判を浴び、隣国の大国ファルツ帝国に併合されるようにするのだ」
(傾国の美女ですか……それなら、私の役割にぴったりじゃない!)
元の美貌と知力があれば、王様の一人や二人を手玉に取って、国を滅ぼすことくらい私には簡単である。
しかも、神様は私に元々持っていた力の継承をするだけでなく、その異世界で生きていくための様々な固有能力と魔力まで与えてくれるというのだ。多少の中二病設定が気になるけれど、まあ許容範囲だろう。
この条件で楽勝じゃなかったら、何を楽勝というのであろうか。
(神様、ありがとう。有栖川美琴、その王国の王様とやらをメロメロMAXにして、悪政とやらをさせまくってあげましょう。ラッキー、楽勝、チョロい課題をありがとう!)
「では、有栖川美琴よ。頼んだぞ!」
「はい、おまかせくださいませ!」
「一応、再確認しておくが……」
「は、なんでしょう?」
(ああ~。面倒くさ~。なんでもいいから話を進めろ~)
「ショパン王国は必ず、お前が原因で滅ぼすのだ。他の原因で滅びたのなら、この約束はなかったことになる」
「はいはい……私が原因で滅びるですね~他の原因はなしと。オッケーですよ」
私はそう軽く答えた。この軽さが後で自分の首を絞めることになるとはこの時には夢にも思わなかった。
「しかと約束したぞ!」
突然、白い部屋の天井からズドーンと雷が落ちてきた。(うそ!)
「うぎゃ!」
全身を雷に貫かれた私は意識を失ってしまった。
(あれ?)
(ここはどこ?)
どれだけの時間が経過したのだろうか。私は再び目を開けた。
見知らぬ天井。
先ほどの生活感がない真っ白な部屋とは対象的。
汚れた天井。
異臭が漂う暗い部屋。
ムクムクと何か蠢いている。
(怖!)
(そして、なんだか臭!)
よく見ると子供です。小さな子供が狭い部屋にぎっしりと寝転がっている。
(臭い子供と一緒かよ)
心の中で悪態をついた私。基本的に私は子供は嫌いだ。なぜなら、騒がしいし、思考が読めないし、足が臭い。
私は頭が痛くなって、右手を額に乗せた。
(あれ、私の手、こんなに小さかった?)
視界に入った右手は小さい。左手も見た。
(なに、左手も小ちゃ!)
体を起こしてみた。
(か、体も小さい)
ちんちくりんの自分の体が目に入った。そして粗末で汚れた自分の服。麻で編まれたワンピースもどきの服。丈が小さいから薄汚れたパンツがちら見えなのだ。
私は思わず、自分の体を手で触った。
(何、このツルペタは!)
服の左に四角い布でこう書かれていた。
『ミコト 8歳』
(か、か、か……神いいいいいいいいいいいっ~)