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山賊の登場

出発して4時間ほど経った頃、山道で突然、ゴブリンの集団と出くわしたのだ。

総勢30匹の集団である。手製の粗末な武器を振り回し、こちらを威嚇している。

こちらは衛兵が15名。それに帯同する旅人たちが30名ほど。私たちの馬車もその中に含まれる。


「配置につけ、一般人の誘導は副隊長に任せる」


 そう命令する衛兵隊の隊長のケイン。すぐに兵たちに命令して戦闘態勢に入る。王国の衛兵は鉄の胸当てとブロードソードという装備。ラウンドシールドで身を守りながら、ゴブリンたちに向かう。

 普通は逃げるという判断をするはずのゴブリンどもが、この完全武装の衛兵に襲い掛かっていく。


「うううう……」


 コレットとキャサリンの二人は毛布を頭から被って震えている。ゴブリンの奇声はあまり気持ちいいものではない。私とジータはそっと幌の隙間からゴブリンたちを見る。

 緑の皮にイボイボ、口は裂けて黄色い歯が見える。生理的に受け付けない容貌の姿である。


「ミコちゃん、小鬼は初めて見るべ、怖いべ」

 私の隣でそう震えているジータ。私も正直、怖いと思ったが、それよりも気になることがあった。私ら一般人を護衛するのがあのグレンとか言う副隊長だったからだ。


「先へ進む。俺の後に続け」

 そう副隊長のグレンは私たちに呼びかける。先頭を歩いて誘導する。彼と1名の兵士がゴブリンと衛兵たちの戦いを後にして、他の旅人たちと一緒に先へ進む。


「副隊長さん、そっちは道が違いますぜ」


 冒険者のグラッスス兄弟がそう忠告する。道が2手に分かれて、メインの街道から脇道へ誘導されたからだ。

「これは作戦だ。黙って従え」


 グレンはそう短く命令した。衛兵には逆らえない。おかしいなと思いつつも、集団はこの副隊長に付いていく。

(何だか、嫌な展開が待ってそうな気がするわ……)


私はなんだか嫌な予感がした。そして、その予感は当たってしまった。

 ゴブリンの集団と出くわしたところから、30分ほど進んだところで、山賊たちが待ち伏せていたのだ。赤地にオーガの横顔を白く染め抜いた旗。山賊オーガヘッドの集団である。


 旅人たちは凍り付いたようにその場で固まった。グラッスス兄弟も剣を抜くのも忘れて、立ちすくんでいる。

 どうやら、ゴブリンの襲撃は作戦のうち。ここへ誘導するためのものであったようだ。そして衛兵に紛れ込んだ裏切り者の副隊長と兵士。完全にグルだったようだ。


(なるほど、昨夜の男はやっぱり副隊長だったようね。私たちをここに誘い込んで襲わせ、衛兵がゴブリンを退治して駆けつけた時にはもう犯行は終わっているということね)


「くくく……ウサギは罠にかかったようだな。よう、みなさん、有り金全部置いていきな」

 そう前に進んだリーダーらしき男が要求してきた。旅人たちは足がすくんで動けない。旅人の中には女性もいる。みんな恐怖で顔が引きつる。


「無論、知っているよなあ……皆さん。俺たちはオーガヘッドだ。有り金と女は置いていきな。抵抗しなけりゃ、命は取らない」


 山鳥の羽をいっぱいつけた頭飾りがうざい荒くれた男だ。山賊の総数は20人。そうリーダーの男は言ったが、全く信用はできない。

なぜなら、噂のオーガヘッドのやり口はとても残酷で、有り金と女を奪い取ると口封じに男は全員殺すのだ。

女は散々、慰み者になった挙句、奴隷として売られるというのが運命であった。衛兵隊に協力者がいるとなると、口封じに消すことは間違いない。


「くそ……衛兵が戻ってくるまで戦うしかない……」


 ガインのおっちゃんはそうグラッスス兄弟に合図した。ゴブリンの集団を駆逐して、ここまで衛兵がやってくるまで小1時間はかかる。そこまで時間を稼げれば、勝機はあると考えたようだ。


 だが、今の人数ではどう考えてもガインのおっちゃんには勝ち目がない。何しろ、冒険者2人と自分と手下の男3人。あとは商品の私たち女の子4人なのだ。旅人たちも男は数名だが、あとは女性と子供に老人だ。


「ミコちゃん、あの怖いおじさんたち、誰ずら?」

 私と一緒に幌馬車の隙間から、山賊たちの様子を見ていたジータ。無邪気に私にそんなことを聞いてきた。一緒にいるコレットとキャサリンは、状況を把握している。二人とも顔が真っ青で小刻みに体を震わせている。

 山賊につかまれば、このお姉さんたちの運命は決まっている。それが分かっているのだ。私とジータはまだ小さいから、お姉さんたちのような目には合わないかもしれないけれど、どこかに売り飛ばされることは確実だ。


「ジータ、あの人たちは山賊だよ。ものすごく悪い人たち」

「悪い人?」

「そうだよ……」

(だから、消しても問題ない人たち)


 私は山賊たちから目を離さず、そう呟いた。20人近くいる小集団だが、どの連中も極悪人の面をしている。人を殺しても心を動かさないクズな連中だ。

「悪魔よりも怖いずら?」

 ジータはそんなことを聞きながら、胸の前で神様を称えるジェスチャーをして手を合わせた。


「神様、ミコちゃんがひどい目に合わないようにお願いするずら」


 自分の心配ではなく、友達の私の身を案ずるジータ。なんていい子だ。私は思わずジータを抱きしめて、その青い髪を撫でた。


「心配ないよ、ジータ。悪い奴は正義の味方がやっつけてくれるから」

 私はジータを抱きしめながら、幌馬車の中を見回した。何か武器になるものはないかと目を動かした。これから始まる戦いには容赦する必要はない。


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