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旅立ち

「カール様が肝心な時に寝てしまって困った」

「いったい、カール様はどうなされたのだ……」 

 ガインのおっちゃんに連れられて移動中、私はカールを運んで行ったお付きの従者がそう傍らの男に話しかけているのを偶然聞いてしまった。


「身の回りをさせるメイドを2人、見繕うと言って初めてここへ来たのに、寝てしまわれるとは……」

(な、な、なんですと~)


 後で伝え聞いた話。このカールという貴族の青年。たまたま、この辺境の町に遊びに来ていて、従者から奴隷市があると聞いてやってきたらしい。


 それは奴隷で売られる子供がかわいそうだという憐れむ気持ち。貴族に生まれたお坊ちゃんには信じられないことだったのであろう。


 それで奴隷市に来て、一番年少の私とジータを買い取り、屋敷のメイドとして雇ってやろうという優しい行動をしようと思ったそうだ。


 そして彼はとある有名人形劇団のオーナー。この人形劇団は町々を巡り、子供たちに人形劇を見せて回っていた。カールはお金を援助して、この国の子供たちに夢を与える活動を熱心にしていたのだ。


(なるほど、お人形集めが趣味って合点がいったわ!)


 そんな子供に人気の慈善事業家であるカール青年。結果は誰も競り落とせず。ある意味、世間の厳しさを知ったお坊ちゃんであったが、こんな優しい青年を私は(変態ニート)と決めつけていた。


(ごめんなさい、カールさん。白くて太っていただけで決めつけてしまったわ~。今度から気を付けます)



 私とジータ、そして2人のお姉さんを落札したガインのおっちゃんは、私たちの首に付けられた首輪を鍵で外した。そして、一人ずつ頭をそっと撫でた。


「今日から俺がお前たちの主人だ。主人といっても、俺はお前たちを大切に扱うつもりだ。何も心配しなくていい」


 そうガインのおっちゃんは私たちに説明する。確かにガインのおっちゃんは、私たちを買って、都の高級妓楼に売る女衒商人だ。女からすると、忌み嫌う職業である。


「俺はお前たちが幸せになれるよう、精いっぱい努力する。いいか、妓楼で出世すれば、裕福な暮らしができる。貴族様にもなれるかもしれん。そうなるには努力が必要だが、そういう勝負ができるということをチャンスと思い頑張るんだ」

 

 そう言われても、いかがわしい商売に従事することには変わらないが、現在の私たちのような最下層階級の女にとっては、大逆転のチャンスには違いないのだ。


「都までの道のりは危険もある。今から、お前たちはこのマントを着用して、人前で顔を見せないこと。いいな」


 そう言って下僕の男が私たちに灰色の頭からすっぽりかぶるマントを配った。顔は目だけ。口元は布で覆われている。食事や水を飲むときは、ペロッとめくればできるが、めくらなければ顔は全然さらされない。まるで厳しい戒律があるイスラムの国の女性みたいだ。


 これは道中の男たちが私たちを見て不埒な考えを起こさせないためのもの。都への街道は治安が悪い場所もある。強盗や誘拐事件は頻発し、場所によってはモンスターも出没するところもあるのだ。 


「それとお前たちの宿舎は幌馬車だ。これも人目に晒さないためだ。なに、慣れればそれなりに快適だぞ」


 少し失敗した感もあったけれど、私ことミコトと幼馴染のジータ。そして一緒に競り落とされた2人のお姉さん、ガインのおっちゃんの荷馬車へと乗せられた。


目指すはこの国の都トキヨ。

そこまで馬車で2週間の旅が始まった。


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